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トキノツムギA面

7  バートとリッジ

 ふらついたのを支えてもらったついでに「普通に熱あるよ」
とバートに指摘されたリッジは心中つぶやいた。
 うわあ、マジかあ…
徹夜したけど体調崩れないなと思ったら、まさかの発熱によるハイだったらしい。
 ったく、ほんっとに使えない身体。
相変わらずの自分の体のポンコツ具合にイラッとする。だが一番イラつくのは、調子に乗って無理をする自分だ。
 発熱で体力が削られて、しばらくまともな生活が送れない未来が見える。
はあっとため息はついたが気持ちを切り替えて笑顔を作る。
「仕事で迷惑をかけることにはならなくて良かったです」
とはいえ自分が一週間弱使えないとなると、と、寝室内のことを思い出す。
 とても申し訳ないがダメ元でバートに頼むしかない。何しろ知り合いと言えば行きつけの医院のスタッフとバートしかいないのだ。

 「…あの、急にこんなことお願いするのも何なんですが…」
 非常にためらってからリッジは二の句を告ごうとして、やはり口をつぐんだ。そのまま無言で背後のドアを開けると、さっきと同じ甘い香りがバートの元に薄く香って来る。
 そして、プリンターが乗った勉強机とベッドだけの飾り気のない寝室。の、ベッドの中に…少女?
の等身大の人形かと一瞬思ったが、寝息が聞こえるので紛れもなく人間だ。
 恋人にしては幼なすぎる。少女は15〜6くらいに見えた。娘…ということは流石にないだろう。とすると妹?
 うまい質問の言葉も見つからないうちに、リッジの方から話してきた。
「これから数日、俺が使い物にならなくなると思うんです。その間だけで良いので、この男の子を預かってもらえないでしょうか」
「わかった」
 リッジのセリフには幾つもツッコミどころがあったがそれらは綺麗にスルーして、バートの口は速攻で了解してしまっていた。
 
 何しろリッジのお願いだ。それだけでバートの中では断る理由がない。加えてバートの家には空き部屋が幾つもあった。



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