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トキノツムギB面

3  アイリス

 アイリスは意地悪な質問だったかなと思い、ボサボサに見えないようにと、硬いくせ毛を伸ばして括っているリアンにチラリと目をやった。栗色の髪はそれでも言うことを聞かず、パッチリとした焦げ茶の瞳を刺しそうに毛先が踊っている。リアンは童顔で、服によっては中学生くらいに見える可愛い顔をしていた。
返事は直ぐには返って来ない。それを待つ間に細い編み込みがいくつかある左サイドの髪を一部結い直すが、それにも気づいて無さげた。
 「…いや、あると思うよ」
あまりに返事がないので、もう自分のベッドに帰ろうかなと思っていた頃、おもむろに返答は来た。
 目の前に広がるカードを指差しながら言う。
「俺さ、別に霊感とかあるわけじゃないのよ。でも当たるんだよね、これ。それは多分、人智を越えた力だよ。カード自体に力があるのか、カード使ってるとどこからか力が来るのか」
 
 リアンはアイリスを見た。それは友人の瞳ではなく、仕事人の光を帯びた瞳だ。
「天に太陽の停止。一番期待していることは起こらない。地には水。雲を輪廻して再生。人には鳥。初めに戻り、大きく見ろ。」
 どこか、詩句を歌っているように言うと、傍にあった小袋から手の平に、指先ほどの石をザッと出した。そこから2つを選び残りを袋に戻そうとすると、1つの石が手からこぼれ落ちる。それを拾い、刻まれている文字を確認している。
 赤のような石と透明に近い石、文字が刻まれている水色マーブルの石をカードに向かって投げた。赤い石と透明な石はカードを避けるようにシーツに落ち、文字の石は不思議な動きで重ねて置いてあるカードに乗る。
 そのカードを表にしたリアンは複雑な表情でじっとカードを見つめた。
「…今のままじゃ難しいかな」
呟くとカードをベッドに投げ、真っ直ぐにアイリスを見る。
「本当に、お前、何してるの?」
ヒュウっと口笛を吹きたい気持ちでアイリスはそれを聞いた。
 流石だな。

 急に着替え出したアイリスを、友人の目に戻ったリアンが驚いて見る。
「今日は休みじゃなかったの?」
アイリスは窓を開けながら答えた。
「気が変わった。休みを休む。」
 何それ。
リアンが思っている内に、窓枠に手をかけたアイリスは、
「窓の鍵開けといて」
いつものセリフを言いながら建物の壁を蹴り、塀の上の金属の飾りに器用に飛び移る。道路に飛び降りると、プラチナブロンドの残像を残しながら闇に消えていった。 

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