新型BMW3シリーズ(G20)試乗記

序文

BMW3シリーズの新型が日本に入ってきた。
https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/3-series/sedan/2018/bmw-3-series-sedan-inspire.html
ワーキングプアな小生には縁遠い最新型モデルである。
3シリーズはプレミアムDセグメントのベンチマークであり、誰に聞いても「いいクルマですね」と言われる、グローバルでも人気モデルだ。買うかどうかはひとまず置いておいて、どんなもんか見ておきたくなった。

最初にお断りしておくが、このクラス以上のクルマはちょっとやそっとの試乗でアゴを出すことはないだろう。乗り出し600万円のクルマだから当たり前だ。価格は絶対だ。
更に言えば、私はBMW好きである。どうやっても贔屓目に見てしまうだろう。

つまり、小生の様な貧乏人が知ったかぶりして試乗したところで「素晴らしい」を連発する可能性が高く、「また鈴木がひでーこと言ってる」と言うのを期待している方にはツマラナイかも知れない。

そのあたり、ご了承いただきたい。
ちなみに、この前説を書いてる時点では試乗前である。

1.3シリーズの歴史


1961年に登場してBMWを救うヒット作となった、BMW1500ノイエクラッセをベースに小型化し、1966年02シリーズを発表するとコレまたヒットとなり、当時アルファロメオジュリアの独壇場であったプレミアムDセグメントの商圏に風穴を開けた。
この後継として3シリーズが開発され、初代(E21)が1975年に発表された。前後サスペンションはストラット/セミトレーリングアームの後輪駆動車と言うノイエクラッセから受け継いだフォーマットを踏襲し、高級スポーツセダンのポジションは更に盤石となった。
日本では正規輸入は4気筒モデルのみだが、並行輸入で6気筒の323iも入っていた。

その後1983年に2代目3シリーズ(E30)が登場。エンジニアリングは先代踏襲だが、デザインは洗練され上品な高級車として人気を博した。特に日本ではバブル期とも重なり、大ヒット。6気筒モデルも充実し、スモールシックス(オイルショックと共にお蔵入りした開発中4.5L V12エンジンの片バンク6気筒を切り出して作った2L〜2.5Lエンジン)が搭載された事から高級なプレミアムDセグメントの地位は盤石となった。
この世代からモータースポーツ向けのM3も用意され、ドイツツーリングカー選手権でメルセデス190E2.3-16としのぎを削るなど、M GmbH(モータースポーツ専業会社)のプレゼンスも最高潮となった。

3代目3シリーズ(E36)はガラッとイメージを変え、新世代BMWを彷彿とさせるデザインと、新設計シャシーを採用。リアサスペンションはそれまでのセミトレーリングアームから、セントラルアームと呼ばれるマルチリンク式へ。このサスペンションはアーム長が長く、ゴムブッシュを使わずにボールジョイントでマウントされるフロントサスペンションと相まって、未だに走りの評価は高い。

モータースポーツとは無関係となったM3は6気筒エンジンとなり、前期型3L、後期型は3.2Lまで拡大され、こちらもスポーツモデルとして未だに名高い。

1998年に登場した4代目3シリーズ(E46)は先代のコンポーネントを踏襲。より高級路線となった。私も好きなモデルである。

その後2005年に5代目3シリーズ(E90)が登場。大型化と共にエンジニアリングも当時の5シリーズと同様にダブルジョイント式ストラットフロントサスペンションを採用。ただし、このサスペンションはゴムブッシュでマウントする必要があり、そのチューニングが明らかに5シリーズや7シリーズより劣っていた為に、その性能には賛否両論がある。一説にはこのモデルからグローバル工場での生産要件をクリアする為、公差が大きくても誤魔化せるゴムブッシュにしたのではないか、とも言われる。
内装のクオリティも高く、人気モデルである。

6代目3シリーズ(F30)は2012年に登場した。コンポーネントは先代踏襲。デザインはまるで5シリーズのように立派となった。
それまでの6気筒エンジンは一部(335、340、M3)を除き退き、主力は4気筒ターボエンジンである。ガソリンモデル、ディーゼルモデル共に優秀なZF製8速オートマも手伝って、動力性能は評価が高い。
ボディサイズは大きくなったが、室内はタイト。サスペンションは先代から改良されたようだが、一部の方々からは「E46時代以前のような正確性は無い」ような辛口な評価もされている。

そして7代目3シリーズが今年発売された。

2.新型3シリーズとは


サイズはやや大きくなり、遂にうちのポンコツ自家用車(E39型5シリーズ)と変わらない大きさとなった。よくよく考えると、価格はもはや当時の5シリーズ並だからこのくらいのボリュームは必要という事か。
(そう思うのは実質賃金が上がっていない日本だけの話で、他の先進国は適正価格なのだろうか。)

エンジンは先代最終モデルと同じ。2LガソリンターボのB48のみである。
出力別に2種類あり、低出力版は184馬力、高出力版は258馬力。前者は320i、後者は330iに搭載される。
排気量は変わらず、メカも同じ。
原則としてターボの過給圧制御だけの違い(正確に言えば高出力版は高過給時のノッキング対策の為、ピストンを変えて圧縮比を下げている)である。
欧州車で流行りのセコい商売だ。

シャシーは先代キャリーオーバーか。前後サスペンションの形状も同じ。
気になるのはバリアブルステアリングが全車標準装備である事。コレは車速やステアリング操作によって、タイヤの切れ角を変えるもの。要は低速での車庫入れやアツイ走りの際はちょこっとステアリング切るだけでタイヤはガバッと切れ、高速ではあまりタイヤが切れないような仕組み。話だけだとなんだか良さそうだが、運転する上で操作に対して挙動がリニアにならない(思ったより曲がる、又はその逆)のは大丈夫なのだろうか。

ボディ材質はスチール。ライバルのCクラスはドアなど蓋物をアルミ素材とするなどマルチマテリアル化しているが、3シリーズは見送っている。
車重は先代から少しだけ軽くなっている。

グレードはSE、Standard、M Sport があるが、SEは受注生産なので、事実上320i Standardの523万円から。安いクルマではない。
試乗車は320i M Sport 583万円である。
実際に在庫はこのモデルがほとんどの様で、事実上コレが最安値モデルだ。

ココでライバルとボディサイズを比較する。ライバルは当然プレミアムDセグメントのメルセデスCクラスとアウディA4だ。
同価格帯で揃える為、320はM Sport、C200はアヴァンギャルド、A4は2.0TFSI sport(前輪駆動車)とした。
320i(G20) / 先代320i (F30) / C200 / A4
全長mm 4,715 / 4,645 / 4,690 / 4,755
全幅mm 1,825 / 1,800 / 1,810 / 1,840
全高mm 1,430 / 1,430 / 1,425 /1,410
ホイールベースmm 2,850 / 2,810 / 2,840 / 2,825
車重kg 1,560 / 1,580 / 1,550 / 1,510

FFであるA4はハナが長い分全長が少し長いが、どのクルマもほとんど同じ大きさと言える。やれ大型化したのしないのって話になるが、各社この辺りに置きに行ってるのは間違いない。
参考までに、現行C200は1.5Lターボにモーターアシスト付きハイブリッドである。

3.試乗前検分


試乗車は320i M Sport。
内装はオプション無しの仕様だ。
外装デザインはまんま5シリーズの小型化版というイメージで、なかなかカッコいい。

ドアを開けた瞬間、最近の大衆欧州車の匂いがした。昔のBMW臭ではない。

恒例の右ハンドル仕立てについては、問題ない。満点と言っていいだろう。ステアリングはシート中心に位置し、ブレーキペダルとアクセルペダルは明確に右にある。アクセスペダルはオルガン式。素晴らしい。
ペダルとステアリング軸が少しオフセットしてるCクラスよりは出来が良い。

シート位置を調整して気が付いた。最近のBMWはシートの座面角度と高さ調整は別の仕組みになってる事を。昔は座面角度も高さ調整も同じ機構でシート全体を動かしていたのだが、今は座面角度調整については座面だけが動く。
コレを1つの長方形レバーで操作するので、レバー上下で高さ、レバーを捻ると座面角度が変わるらしい。この捻ると言う操作が当初わからなかった。
昔は長方形レバーの前を上げれば前が上がり、後ろを上げれば後ろが上がり、両方上げれば全体が上がると言うシンプルな方式だったのだが。
ま、こんなので戸惑うのは当方くらいなものか。無知で適応能力が無く申し訳ない。

メーターパネルは液晶表示。角度は適切。
ナビ等を表示するセンターディスプレイも少しだけ運転席を向いており、視認性に問題は無い。操作はBMWお約束のクルクルポンなダイアルコマンダーだ。コレが使いやすいかどうかは賛否あるが、少なくとも最近の多くのクルマのように何も考えずにタッチパネルを入れて平然としてるのより、ドライバーの操作がどうあるべきかを考えてる分遥かに評価できる。

シートトリムは標準の合皮+ファブリックだ。レザー仕様も乗ってみたが、まるで合皮の様な硬い本革(多分座面と背もたれのセンターだけ本革)なので、ファブリックの方が印象が良い。
シート形状は問題ない。肩甲骨をキチンとサポートしている。座面は若干短いが、M Sportのシートは座面長調整できるので問題ないだろう(座面長調整方法が直感的に不明だが。なぜ以前と同じ位置にスイッチを置かない?)。

それより何より、内装の質感はなかなかチープだ。はっきり言えばVWゴルフの方がいいだろう。プラスチックのシボはゴルフ級、所々に存在するアルミ調の加飾は触らなくてもわかる位、嘘っぽいプラスチック塗装。シルバーに塗装されたスイッチ類も安っぽい。
センターコンソールはまるでホームセンターに売ってる安物CDラジカセの様だ。
ドアグリップ裏側は無塗装安物プラスチック。いや通常触れる部分を安物にするのはマズイだろ、高級ブランドなら。

極め付けはATセレクタ周りやダッシュボードの意味不明な柄のレリーフ。質感もセンスもない。
ココはパッケージオプションで本革シートと共に装備される木目調のパネルなら随分良くなる。つまりはパッケージオプションに誘導する為にワザと変な柄にしてると理解した。

BMWってこんなだっけ?と言う感じだ。
VWパサートのベースモデルと言う印象。
C200のアバンギャルドの内装はこの3倍くらい価値があるように見える。
コレで随分と気持ちが冷めた。

リアシートは意外に広く、サポートも問題ない。背もたれは随分寝ており、低く座らせる様だ。視界は前方のシートが邪魔する以外は良い。
ただ、普通に座ると座面角度の後退角が足りなく、モモ下が浮く。足を放り出すと座れる感じ。ちょっとルーズなのが惜しい。3シリーズは後席を見切ってるという事か。

4.試乗検分


さて、走り出すとする。BMWお約束のATセレクターをDに放り込み、電動パーキングブレーキを解除する。
ブレーキを離すとクリープが強い。まだエンジンが温まってないのか。ステアリングは今時の電動パワステ。軽いがひとまず感触は安っぽくはない。

ウインカーレバーを操作して「あれ?」と思った。ここの感触が安っぽい。マジか。

道路に出て走り出すと、やたらと元気がいい。アクセル踏込み初期で強めの加速が出るように仕立てられてる様だ。そしてオートマは2段ほどギヤを下げて加速を始める。エンジンそのものはシルキーに回るが、結構大き目の音が入ってくる。

タイヤはフロントが225/45R18、リアが255/40R18のミシュランパイロットスポーツ4のランフラット。そのサイズと銘柄から予想される様に、タイヤは硬くゴツゴツ路面の凸凹を伝えてくる。不快なほどではないが、音や振動の遮断についてはある一定のレベルで見切ってる感じだ。

この音振特性から、ボディ全体の剛性はともかく、フロアの剛性はあまり高くないように感じる。最近流行りの高張力鋼板を多用し軽量化した車体の印象を受ける。妙な軽さを感じるのだ。

アクセルの踏み込みと共に、8速ATは即座に反応する。ただ、タコメーターの反応が早すぎる。タコメーター表示で擬似的に早い変速を演出してるようだ。
世のオートマの中ではスムーズで評価の高いZF製8HPなのだが、そう言う印象でもない。変速ショックが大きい訳ではないが、妙に変速を主張し、さほど上質な感じは受けない。変速速度を速くして元気な仕様にしてる感じだ。

最近のクルマ定番の運転モードは3種類あり、通常のコンフォートの他にスポーツとエコがある。ここでコンフォートからスポーツに切り替える。
ステアリングを切ってる時に切り替えたら、いきなりステアリングが勝手にセンターへ引き戻された。
なるほど、可変ステアリングのギヤ比が変えられ、ステアリングホイールの位置が適切な位置に戻された様だ。随分と荒っぽいな。

試乗コースは殆ど直線かつ最高速度は50km/hなので多くを感じるのは難しい。
ただ、低速で交差点を曲がる際と、流れに乗って車線変更する際ではタイヤのキレ角が異なるのは確認した。同じ「曲がる」操作で異なる挙動を示すのはどうかとは思う。

荒っぽい操作だと辻褄が合う様だ。アクセルをガンっと踏んでステアリングをガバっと切ると、小型スポーツハッチのような雰囲気で走る。ある意味ではわかりやすいスポーティさではある。

BMWらしく視界は良い。車両感覚も掴みやすく、クルマが小さく感じる。コレは美点だ。

5.総括


ここで総括する。
新型3シリーズは以下の点で秀逸だった。
・ボディの大きさを感じない視界と車両サイズ把握性
・わかりやすくスポーティな挙動
・カッコいいスタイル

ココで注意したいのは、320iは日本専売グレードという事。
試乗した際に同乗したお兄さんの話によると330iはずいぶん違った挙動で少し落ち着いているようだ。そっちが本来BMWの意図した3シリーズの挙動か。となると日本のユーザーは舐められてるのか、と言う気がする。

330iは50万円ほど高価だ。日本では320iが売れ筋になるのは間違いない。

個人的には内装のチープさが耐えられない。
参考までにミニベースの2シリーズグランツアラーはオモチャの様に小さいシートだが、オプション込み500万円仕様なら走りはともかく、見た目は安っぽく無い。
ミニも400万円の上級モデルならデザイン含めて安っぽくは無い。

ヒエラルキー上位に位置する3シリーズがこんな体たらくでいいのだろうか。

今回、3シリーズは明確に5シリーズよりショボくなる様に仕立てられてるように感じた。ある意味わかりやすいヒエラルキーの上で成立している。

しかし、600万円のクルマだ。絶対的に安くは無い。

私の価値観で言えば、内装の質感は最近乗ったマツダのCX-8の方が上だ。Cクラスも上だ。上質な内装がウリのボルボV60とはもはや比較にならない。

新型3シリーズ、大丈夫だろうか。
私は仮にお金があったとしても、G20型3シリーズを買う事は無いだろう。

来年度以降改善され、もっと魅力的なモデルが出てくることを祈る。

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