ボルボV60試乗記

ボルボはXC40で今年の日本カーオブザイヤーを取ったらしい。昨年はXC60なので2年連続だ。
元々ボルボは票を集めやすそうな傾向はあるが、ホントにそんなにいいもんなのか。
最新のV60を見て確かめてみようと思った。

1.ボルボV60の変遷

その前にV60の成立ちを少しおさらいしておく。
現在、V60はボルボの中でミドルクラスのワゴンであり、上にはV90、下にはV40が存在するという構成だ。
過去のボルボのラインナップは、ややこしい構成であった。なぜならそれぞれのモデルは時代毎に立ち位置が異なる為だ。

特にV60の変遷だ。
ボルボのこの大きさのセダン、ワゴンは1974年に登場した240シリーズがあった。古い外観だが、実は93年まで新車で買えた事から維持費がそこまで高くなく、今やオシャレな方々に人気のクルマだ。
この240は更に先代の140の基本設計のまま、安全性を高めたモデルである。つまり基本設計は1960年代のクルマという事だ。

流石に240は古過ぎるという事で、新設計の740を1985年に発売した。本来なら740が後継となるはずだが、継続して240も併売された。
気が付けば後に740(6気筒は760)は940(同960)と名を変え、上級クラスへ移動した。

その後漸く240後継として登場したのは、1992年の850だ。ご存知のように、ボルボ初の前輪駆動車として登場した850は大ヒット、日本でもターボモデルのT5-Rのワゴンが売れ、知名度が急激に上がった。コレがその後S70/V70と名を変えた。

この後がややこしい。ラインナップを全て前輪駆動車とすべく、最上級モデルとして1998年にS80が、その下にスポーツセダンとしてS60が、そのワゴン版として2代目V70が登場した。

この3モデルは、2006年に2代目S80を皮切りに次々とモデルチェンジ。その際、3代目V70は上級にシフトしてS80のワゴン版となり、更にスポーツモデルのS60に対してワゴン版のV60が登場。つまり当時V60の立ち位置はスタイリッシュなスポーツワゴンであり、荷室の広い本流ワゴンはV70の役割であった。

そして2016年に新しいSPAプラットフォームで最上級セダンのS90が登場(S80は終息)。そのワゴン版であるV90も登場。
ここでV70の名前は廃止され、モデルチェンジしたV60が本家本流ワゴンV70とスタイリッシュワゴンV60の後継となった。
コレで晴れて90/60/40のわかりやすいラインナップとなった。

2.新プラットフォームSPA

さて、新型V60で採用の新しいSPAプラットフォームについてだ。基本的な考え方はVWのMQBと同じく前輪とペダルの距離を揃えて設計を楽にしたものだが、旧プラットフォームとの違いは大きく以下の2点だと思っている。

一つは旧プラットフォームがフォード傘下時代に作られ、その影響を少なからず受けていた事。特に右ハンドルの仕立てである。この辺り、同様にフォード傘下だったマツダもこの時期の初代アテンザや初代アクセラで影響を受けている。コレの解消だ。

もう一つは搭載エンジンの違いである。
旧V70/V60は直列4気筒から6気筒の横置き搭載までサポートしなければならなかった。(更にエンジンルーム共通設計のS80はV8エンジンもラインナップされていた。)
おかげでエンジンルームの横幅を大きくしなければならず、またアオりを食ったフロントサスペンションはコンパクトにせざるを得ない構成だった。
世界的に見ても直列6気筒横置きのクルマはボルボくらいのものだろう。そのくらい特殊な仕様だ。
コレはポルシェデザインのモジュラー設計である、1気筒500ccのエンジンを4気筒5気筒6気筒と展開していた事に起因する。当初960にそれまでの旧態PRVのV6からこの直6(もちろん縦置きFR)を採用、その後1発削った5気筒を850に横置きで搭載した。更にその後70/60/40用に4気筒も用意。
よせばいいのに三代目70と先代60はこのモジュラー展開を活かし、上は6気筒、下は4気筒まで幅広く搭載していた。末期は新型でも搭載されるAVL新設計の4気筒ターボが主力となった。

対して新プラットフォームは直列4気筒限定となる。出力の違いは過給機とモーターによるアシストでカバーする。ガソリンとディーゼルも共通設計だ。

3.新型V60とは

さて、新型V60は動力の違いで3種類が存在する。排気量は全て2L。日本ではガソリンのみのラインナップだ。

ベースはターボモデルのT5、その上にスーパーチャージャーとモーターアシストを付けたプラグインハイブリッドのT6、そしてパワーアップしたT8である。
T6とT8のモーターは前後輪に搭載され、後輪はモーターのみ駆動の4WDとなる。
(XC90やV90のT6はスーパーチャージャー無しだが、V60のT6はスーパーチャージャー付きらしい。ヤヤコシイ)

V60で現在販売されているモデルはモーター無しのT5のみ、他は順次追加される予定だ。

V60はその価格からプレミアムDセグメントに位置づけられると考える。
ここで先代とライバル、そして上級V90と比較してみる。

ボルボ各車は極力同じクラスのエンジンとした。また、3シリーズは新型が登場しているが、日本での最新型として先代のF31型のスペックを記載している。

新V60(T5) 先代V60(T5) V70(T5) Cクラス(C200) 3シリーズ(320i) A4アバント(2.0TFSI) V90(T5)
全長(mm) 4,780 4,635 4,825 4,690 4,645 4,735 4,935
全幅(mm) 1,850 1,865 1,890 1,810 1,800 1,840 1,880
全高(mm) 1,435 1,480 1,545 1,425 1,460 1,435 1,475
ホイールベース(mm) 2,870 2,775 2,815 2,840 2,810 2,825 2,940
車両重量(kg) 1,700 1,660 1,730 1,550 1,660 1,550 1,740

ボルボV60の車体は同クラスで一番大きい。

また、先代V60はスタイリッシュワゴンと言う位置づけの為全高を低くしていたが、新型V60はそれよりも低い。とは言え、全高を低くするのは最近の欧州車のトレンドでもある。

注目すべきはV60の車重だ。
1つ上のEセグメント(Eクラスや5シリーズやA6)対抗を謳うV90との差はたった40kg。
そしてCクラスやA4より140kgも重い。
つまり、V60はEセグメント級の重量なのである。

Cクラスは外板にアルミを多用し、A4も軽量設計ではあるが、ホワイトボディ単体重量はせいぜい500~600kgと言うところだろう。20%以上差が出るわけがない。

Eセグメントは明確に高価な為、遮音材や装備品の充実によりDセグメントと比べ、車体の大きさ以上に重くなるのが通例だ。
プレミアムDセグメントのV60がそれらと同等程度の車重ということは。
V60は単にV90を縮小しただけのクルマという事だ。性能も内容物も相似形であると推測できる。

フロントサスペンションは従来の窮屈なとこに押し込まれたストラットから、ダブルウィッシュボーン式へ変わった。欧州車でお約束のヤレるとボロカスになる仮装転舵軸方式の分割リンクではなく、頑丈な上下Aアーム式である。

リアサスペンションはワゴンを意識した省スペースなマルチリンク式。スプリングはグラスファイバー製のリーフ(板)だ。XC90登場時に注目されたグラスファイバー製リーフスプリングだが、コルベットはもうC4からかれこれ30年以上、日本でも初代バネットセレナで採用例があり、そこまで騒ぐ程の物でもない。チューニングは難しいかも知れないが、省スペースという意味で1つの解ではある。

前述したようにSPAプラットフォームは運転席(正確に言えばペダル位置)とフロントタイヤの距離を固定化する事で特に前方耐衝撃に対するエンジンルームやフロント周りの設計効率化を図っている。そのフロンタイヤは前輪駆動車としては異例と言うほど前方に置いた。まるで後輪駆動車のように。
以下のボルボのサイトで新旧V60サイドビューが比較できる。
https://www.volvocars.com/jp/own/maintenance/service/extended-warranty
前輪の位置がデザインに与える影響は大きい。例えばBMWの後輪駆動車はエンジン縦置きで前輪から少し後退させて搭載する事で前後重量配分を適正化している為、前輪は前方に位置する。
しかし、前輪駆動車の場合は前輪に荷重をかける必要があるので、エンジンは前方に置く。相対的に前輪の位置は後退する。

コレがデザイン上の後輪駆動車と前輪駆動車の違いであった。

前輪駆動車は元々スペースを有効利用する実用車のフォーマットである。プレミアムと名のつくクルマは実用車デザインでは格好がつかない。
アウディA4は現行型で前輪を前に出し、少し後輪駆動車っぽいデザインにした。ボルボもこうしたい。その方が上等に見えカッコいいから。
要はそういう事である。

おかげで新型V60は先代と全く違うプロポーションとなっている。端的にスマートでカッコいい。前述の比較写真を見ると先代V60がずんぐりしてるのに比べて、新型V60はどう見てもスマートだ。

さて、外観と内装トリムの違いで、MomentumとInscriptionの2種類グレードがあり、前者は標準がテキスタイルのファブリック(本革はオプション)、後者は本革にシートクーラー付きの豪華版だ。
履くタイヤも異なる。前者は225/50R17のミシュランパイロットスポーツ4、後者は235/45R18のコンチネンタルプレミアムコンタクト6、どちらも末尾に「VOL」と入る専用品。流石に500万円を超えるクルマだけに、高級ではある。エコタイヤやランフラットタイヤなどという愚タイヤではない。

ここでボルボを理解する上で重要な点が一つある。ボルボは元々アメリカのクルマを欧州風に解釈し成功したのが発端である。大昔のPVやアマゾンがソレだ。
つまり、根底はアメリカ車をお手本にした大陸風のクルマなのである。
だからアウトバーン高速勝負で敗北の許されない他の欧州車(特にドイツ車)とは一線を画した独自のイメージを持っているのである。

4.試乗前検分

試乗車は上級グレードのInscription。本革にシートクーラー付き、後席にもエアコン設定パネルが付く高級グレード。最上級V90のInscriptionと同じ仕様だ。内装色はブロンド、ほぼ白に近いベージュ。外装は紺。
この組み合わせは貧相な日本人には合わない派手な仕様だが、グラッと来るくらいカッコいい。

前席に座ってみる。本革は柔らかいパーフォレーティッド(穴あき)レザー。感触は非常に良い。シート調整は電動、テレスコやチルトは手動式。リクライニングはやや寝かせたあたりがイニシャルか。調整幅も大き目でドライビングポジションはピタッと決まる。

シートは肩甲骨をキチンと押さえており、サポートも適切。この辺り不満は皆無だ。

右ハンドルの仕立ても良い。ステアリングはシートのほぼ中央に位置し、ブレーキペダルはステアリングの少し右、アクセルペダルはオルガン式で位置も良い。FF車としては先日のCX-8と同様に満点級の出来だ。先代60/70はオフセットが存在していたが、新型は解消されている。素晴らしい。本来右ハンドルの仕立てが楽なFRのCクラスや3シリーズよりも出来が良い。

マットで木目が浮き出てる本杢目のウッドパネルの質感も良い。ダッシュボードは合皮だがステッチも入りで高級感はある。ドア内張りは合皮の様だがシート他とトーンが合っていて安っぽくない。標準オーディオはharman/kardon。オプションでB&Wも選べる。音質は未確認だが、確かどちらもフルチャンネル独立のデジタルアンプ搭載かと思われる。スピーカーが付いているドアも重厚。多分クラシック聴いてもそこそこ行ける仕様。マジか。抜かりない。

視界も悪くない。乗った感じ低いシート高さに対してダッシュボードが高く、ちょっと不安ではあったが、すぐ慣れた。メーターは液晶ディスプレイだが、Aクラスのような直立不動の間抜けではなく、角度も適切。メーターデザインも真面目。表示切替可能だが、センターのナビ表示有無くらい(ナビ非表示にするとメーターがデカくなる)。視認性は問題ない。
ナビや空調用タッチパネルも大型縦長で使いやすい。

後席に座ってみる。低く座らせる形だが、広さに問題ない。前方視界は前席に遮られるが、サイドの窓の位置は適切。
全高が低い分やや寝かせ気味だが、座面も後傾角がつけられており、安全かつ快適。
前席同様にキチンと肩甲骨を押さえる形で、横方向のサポートも万全。
人を乗せて設計をちゃんと詰めたのがよくわかる。右ハンドルの仕立てが良いと言うことは後席にシワ寄せが来るかと思いきや、そんな事はない。良いじゃないか。

トランクはもちろん広い。荷物が動かない様に仕切り版を立てられたり、高さがある荷物を積む時様にトノカバーの角度を変えられたりという細かい作り込みにはもはや脱帽だ。ワゴンのあるべき形を良く分かっている。

5.試乗検分

試乗車を見て大事なことに気がついた。
今は冬。東京とは言え当然と言えば当然だが、タイヤはミシュランのX-ICE。非純正スタッドレスだ。うっかりしていた。
サイズやホイールは純正同様の18インチなのだが。

そんな事言っても仕方ないので、愚息を後席に縛り付け、走り出す。最初に断っておくが、実は愚息があちこち触って気になったこと、ほぼ低速のみの検分の為、細かいところまで見れてない。ご了承いただきたい。

ステアリングは軽い。如何にも電動のフィールだ。
どうせなら雪でも降ってくれた方がフィールの善し悪しがわかるのだが。ステアリングそのものはスムーズなので良しとしておく。

前述したように2Lのガソリンターボエンジンにアイシン製8速オートマの組合せ。2Lで254馬力もあるため、高出力ハイプレッシャーなターボエンジンだ。昔のボルボのような自然な加速感を重視した低出力ロープレッシャーターボではない。
なので、ターボラグは相応に大きいと思われるが、オートマの仕事がいいのか、かったるさは感じない。
また、エンジンマウントの柔らかさもオートマが飲み込んでるようだ。ボルボはエンジンヘッドを丈夫なマウントで押さえているのが特徴だが、それでもこの振動を抑える為には相応に柔らかいはず。

とは言え、254馬力もあるとは思えない力感だ。遅くはないが速くもない。
この辺り、元々ボルボはブーツでも運転できるようにアクセルの初期反応を鈍くしているのもあるが、重めの車重のせいもあると思う。ぶっ飛ばしてないのでホントの能力は不明ではある。
オートマはタコメーター見なければ気が付かないくらいショックなく変速している。大変スムーズではあるが、キレがある感じでもない。ラバーバンドフィールとも言える。

アイドリングではエンジン音が聞こえるが、走り出すと静かだ。
こもり音もなくかなり静かな部類。ワゴンかつスタッドレスタイヤにも関わらず、よく出来てる。(おろしたてのミシュランX-ICEがよく出来てるのか)

走り出して意外だったのは車両感覚が掴みやすい事。シートが低くダッシュボードが高い為、運転しにくいのではないかと思っていたが、そんな事は全くなかった。
この大きさのクルマの中ではかなり良いと思われる。乗ってすぐに慣れた。
ほぼ同サイズで視界良好なウチのポンコツ自家用車よりも良い。

ブレーキフィールも良い。制動力の大小の調整が細かくできる。
特に踏力を抜いた時のレスポンスが良い。今時のクルマは回生ブレーキも入る為、そこまで細かい調整は出来ないクルマが多いが、コレは大丈夫だ。
ちなみにこのクルマはハイブリッドではないが、回生ブレーキは付いている。

いやはや運転していて飛ばす気が無くなっていた。快適だし必要なパワーは出る、コレでいいじゃないか、という気にさせるクルマだ。

スポーティとは思わないが、不満は無い。

6.総括

ここで総括する。
新型V60は以下の点で秀逸であった。
・内装の質感
・シートおよび居住性
・運転のし易さ
ステアリングフィールは不明。先代V60/V70は確か油圧パワステだったから、それよりは落ちるだろう。
内装や各部の作り込みに文句は全くない。
特にシートは素晴らしい。
プレミアムDセグメント内では一番良いのではないか。

何故なら、このクルマは1つ上のEセグメントであるV90レベルだからだと思う。そういう意味でコストパフォーマンスは抜群に良い。

しかも、カッコいい。どこから見ても新世代ボルボな形だ。

価格の話をすると、Momentumは499万円、Inscriptionは599万円だ。安くはない。
実はmomentumの499万円は見せ球で、日本には本革オプション装着車しか存在しない。本革オプションは40万円なので539万円から。

もちろん絶対的には高いクルマだ。
でもCクラスや3シリーズもオプション込み600万円級だ。クラウンだって500万円台だ。
この中では一番良いのではないか。

何より、飛ばしたくない気分にさせるあたりに好感を持った。安全だ。

ただし、運転していて面白い類のクルマでは無い。

奇をてらうような刺々しさはなく、押し付けることもない。
気になる所はなく、心穏やかに運転できる。

毎日食べる上等な白米のようなクルマ。

これぞ本流のボルボだと思う。

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