見出し画像

【ドラム】私的ドラムメンテナンス解体書(2)シンバル編

シンバル編です。

シンバルのメンテナンスは超デリケートだ。
とりあえずそれを念頭に置いて臨んで欲しい。

シンバルは本当に取り返しがつかない楽器だ。
錆びてきたからとて安易にクリーナーを使用して音が変わることもままある。
しかも太鼓のようにチューニングできる楽器ではないので、変わってしまった音を完全に復元できないのだ。

シンバルのメンテナンスにはシンバルクリーナーというものを使うのが一般的だろう。
最近有名なのはCANOPUSから発売されているGROOVE JUICEというクリーナーだろう。非常にわかりやすく「キャストシンバル用」「シートシンバル用」という謳い文句でラインナップされている。僕も愛用している。

んー、キャストシンバル用にシートシンバル用ねえ。

「キャストシンバル」とは鋳造で作られるシンバルだ。
型の中にドロドロに溶かした金属を流し込み、冷やして形を作る。
対して「シートシンバル」は巨大な金属の板をあらかじめ作っておき、打抜き型でバッコンバッコンくり抜いてシンバルの形に曲げて作る。

勘の良い方はお気付きかもしれない。
そもそも「キャストシンバル用」「シートシンバル用」とシンバルの製法別で分かれているのは何故か?という単純な疑問が浮かぶ。
作り方を基準に配合している成分を調整しているのはちょっとおかしい話なのだ。
CANOPUSが何をもってこのような分類をしたのか、きちんと理解してから使用しなければ、大変まずいことになる。

シンバルに使用している合金は基本的に銅と錫(すず)だ。
よくB20ブロンズとか B8ブロンズとかシンバルのカタログに書いてあると思うが、あれは錫(すず)の割合を示している。B20ブロンズだったら銅80%錫20%、B8ブロンズなら銅92%錫8%といった具合だ。

で、ここからが「キャストシンバル用」「シートシンバル用」と分類した正体だ。

基本的に「キャストシンバル」は製造コストが高い。
一枚ずつ型に流し込んで冷却して作らなければならないのだ。
対して「シートシンバル」は元からできている合金板を一定のペースで打ち抜いていけるので冷却時間や流し込み時間が前者に比べ限りなく少ない。

「キャストシンバル」は一枚あたりの製造コストが高いので、同じ時間をかけるなら高級な材料を使った方が付加価値をつけるという意味でも理にかなっている作り方なのだ。
そのため、高級と言われるB20ブロンズが使用されることが多い。

対して「シートシンバル」はシンバルの口径が大きかろうが小さかろうが、ハンマリングやレイジング工程を除けば製造時間は大して変わらない。
そのため大量生産向きな製法として知られ、販売価格をなるべく下げたい普及モデルによく使われるB8ブロンズなどが使われることが多いのだ。

そのため「キャストシンバル用」「シートシンバル用」なのだ。
言い換えれば「B20ブロンズくらい用」「B8ブロンズくらい用」みたいな感じになる。

ZildjanやSABIANなんかはシートシンバル用、キャストシンバル用という表記通り使っておけば間違いないと思う。
ただ、高級ラインでもシートシンバル製法を使用しているPaisteなどはわかりにくいだろう。
例えば世界的に有名な2002シリーズ。Paisteの中でもミドルクラスのグレードだがこれはシートシンバルでB8ブロンズ。
そして高級ラインのSignatureシリーズ。これもどうやらシートシンバルらしい。ただ B20ブロンズと少し違うSignatureブロンズという独自のものが使われている。組成表は明らかになっていないが特許出願書では「14.7〜15.1%の錫を銅に加え、微量のリンを混ぜたもの」とされている。Bなんちゃらブロンズの法則に則ればB15ブロンズなんだろう。
つまり、安易にシートシンバルだからと「シートシンバル用」を使うとえらい目に遭うと思う。
この場合のえらい目の事例は、緑青成分に効く成分が多い「シートシンバル用」を使うと、思ったより銅の成分が少ない B15ブロンズは全体的にピンク色っぽくなるだろうね。シンバルクリーナーはその根本を理解せずに使うのは危険だ。

というわけで、ようやく僕のおすすめのメンテナンス方法だ。毎回前置きが長くて申し訳ない。

超簡単だ。中性洗剤と柔らかい布を使って、皮脂などが錆びる前に汚れを落とせばいい。

あ、厳密に言えば水道水も酸性なので、もし可能なら中性の精製水を使えば間違い無いだろう。難しければ水道水のあとにシンバルクリーナーを希釈して弱アルカリにしたものを塗布して中和してあげるといい。

もし錆びてしまったら、先に書いたことを理解してシンバルクリーナーを使用するのだが、めっちゃよく調べて購入・使用してほしいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?