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羊と鋼の森(著者:宮下奈都)

羊と鋼の森
著者:宮下奈都
初版:2015年

ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。(出典:文藝春秋BOOKS HP)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902944


「物語のかたち」
水平な台の上に、薄く水平に広がっています。最初は、濃い鉄とも石ともつかない重いもの。途中で、一気に透明に変わります。そして、さわると温かい。その見た目は、水を落とした物のようなもので、表面張力でふくらんだ透明な水のようにみえます。でも固い。さわると温かい。


主人公は感情の起伏があまりないので、淡々と、静かに物語が進んでいきます。激しさはないけれど、不器用ながら武骨に自分の見つけたやりたいことに向き合って、泥だらけになりながらも這いつくばって進んでいるような、そんなしっかりと安定感のある現実にありそうな話です。読み進めるうちに、主人公の仕事やまわりの人々の温かさが伝わってきます。
心が落ち着いて、穏やかな気持ちになります。そして、読み終わると、落ち着く安心感と、自分を取り巻く現実に対してのやさしい気持ちが胸にふわっとこみ上げてきます。気持ちに少しエンジンがかかり、ほっとしたあたたかな気持ちになれる一冊です。


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