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「路」

大学が春休みになり、久しぶりに小説を読もうと思い立って書店をうろうろと歩き回り、そこで立ち読みした際に惹かれて購入したのが吉田修一さんの小説、路(ルウ)です。

あらすじ
台湾に日本の新幹線が走る。商社の台湾支局に勤める春香と日本で働く建築家・人豪の巡り逢い、台湾で生まれ戦後引き揚げた老人の後悔、「今」を謳歌する台湾人青年の日常……。新幹線事業を背景に、日台の人々の国を超え時間を越えて繋がる想いを色鮮やかに描く。

背表紙より

湿度と匂いが伝わってくる文章
情景を想像しやすく温かみのある文章が私は好きで、路を読んでいると台湾の気候や風土がひしひしと伝わってきました。私自身台湾に訪れたことはないけれど、熱帯のスコールや屋台の熱気、台湾料理の香辛料の香りなど、異国を感じさせられる文章が瑞々しくて、読んでいて心地良い。本場の台湾料理が食べてみたくなります。

空は見る見るうちに雨雲に覆われていく。威志は改めて舌打ちをした。次の瞬間、叩きつけるような雨が落ちてくる。一瞬にして景色が変わる。アスファルトはより黒々と、グァバの葉はより蒼々と。

p.69

狭い路地にはずらりと海鮮食堂が並び、海老でも炒めているのか香ばしい大蒜と香辛料の匂いが漂ってくる。

p.46


路について
タイトルや各章の冒頭に出てくる台湾高速鉄道についての実際の新聞記事から、はじめは台湾を走る新幹線を設計していく建設業の話だと思っていました。
しかし、本を読み進めると路というタイトルには登場する人々の歩んできた人生という意味合いも込められているのかなー、と感じました。
登場する人々の歩む道は近づいたり離れたり、予期していなかった道であったり、あるいは道の終わりが見えたり。
印象的な春香と人豪の物語の終盤に差し掛かるシーンを読んでいて感じた2点。

  • 起こってしまったことや起きなかったことはどうすることもできないが、その一つひとつが今の自分をつくっている

  • 今これからの道のりをどう歩いていくかは自分で決めることができる

でも、ここにいるのはやはり、私が探せなかった彼であり、彼が探せなかった私でしかないのだ。

p.383


終わりに

3月、4月は学校や職場の人との出会いと別れの季節なので、自分が関わってきた人たちとの時間を少しでも大切に過ごそうと思わせてくれる一冊でした。

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