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これだけは知っておきたい トランプ大統領弾劾

今アメリカでマスコミの話題を独占しているのが、ドナルド・トランプ大統領の弾劾です。

弾劾とは悪いことをした役人や裁判官を議会が辞めさせようとすること。立法、行政、司法がお互いをチェックし合う三権分立の機能の一つです。

ここ最近のアメリカでは、ほぼ毎日、テレビや新聞のトップで報じられているこの問題。日本でも時々耳にすると思いますが、おそらくよく分からないっていう人がほとんどだと思います。

今回は、これだけ知っていれば大丈夫だというポイントをまとめました。

そもそもトランプ大統領は何をしたの?

この問題を理解するカギが、ウクライナという国です。

ウクライナは隣国ロシアと対立していて、アメリカはここ数年、ウクライナを軍事支援してきました。

ところが、今年になってトランプ大統領が約4億ドル(420億円)の支援を保留します。これまで定期的にあげてきたお金を渡すのを渋ったわけです。

そんな時に、トランプ大統領はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー新大統領との電話で、自分の政敵に関する2つの疑惑を捜査するようお願いします。

一つ目の疑惑は、オバマ政権下で副大統領を務め、現在は民主党から大統領選に出馬しているジョー・バイデン氏に関すること。バイデン氏が副大統領の時に、その影響力を使って自分の息子が役員を務めるウクライナのガス会社を助けようとしたのではないかと疑いがかけられています。

二つ目は、2016年の米大統領選挙に、当時のウクライナ政府が民主党を勝たせようと介入したのではないかとの疑惑。

(どちらの疑惑も根拠に乏しく、特に後者は実際に選挙介入を行ったロシアが流したデマだと言われています。)

つまり、来年に自身の選挙を控えるトランプ大統領が、ライバルであるバイデン候補と民主党にダメージを与える捜査をしてほしいと他国に頼んだわけです。

この電話でのやりとりがアメリカ政府の内部告発で表ざたになり、政界は大騒ぎになります。

民主党からすれば、トランプ大統領が国民の税金を使ってウクライナ政府を脅したと映ります。言うこと聞かないと支援はしませんよと。「大統領としての立場を自分が選挙で勝つために濫用した。これは弾劾されてしかるべきだ!」と民主党は主張しているのです。

弾劾はどこまですすんでいる?

大統領の弾劾手続きは連邦議会の下院が始めます。

まずは下院の委員会が証人を呼ぶなどして、どんな悪事があったかを調査します。

12月10日には、その調査をもとに、民主党が弾劾の訴追状を発表しました。トランプ大統領が、1)ウクライナ政府に対して職権を乱用し、更には、2)弾劾調査に協力しないよう部下たちに命じた、という2つの罪を犯したと述べています。

この訴追状に下院の過半数が賛成すれば、トランプ大統領は上院で裁判にかけられます。そして上院議員の3分の2以上(67人以上)が賛成すれば、トランプ大統領は辞めなくてはなりません。

これまで弾劾裁判にかけられた大統領は、アンドリュー・ジョンソンとビル・クリントンの二人だけで、いずれも上院で無罪になっています。

大統領の主張は?

トランプ大統領は、一貫して自分が無罪だと主張しています。弾劾は民主党の「でっち上げ」で、ゼレンスキー大統領との会話も「完璧」だったと。

ゼレンスキー大統領も電話での会話でプレッシャーは感じなかったと発言しています。(感じていたとしても言えないでしょうが。)

共和党議員たちも、トランプ大統領がウクライナ政府を脅したという明白な証拠はないし、たとえ支援を交換条件にしたとしても、それは大統領の権限内だと主張しています。

それよりも問題はバイデン親子で、そっちの疑惑を捜査すべきだ。この程度のことで、国民が直接選んだトランプ大統領を辞めさせようとする方が権力の濫用だと主張しているのです。

シロなの?クロなの?

これまでの証言で、支援を交換条件に使ったと見られてもおかしくない状況だったことは分かっています。

加えて、トランプ政権が、(外務省にあたる)国務省の正規外交ルートとは別にウクライナ政府と接触していたことも分かりました。

こうした行為は、大統領の権限内だとも言い張れるグレーなゾーンです。そもそも憲法に書かれた弾劾されるべき悪いことの定義は曖昧です。明確に違法な行為である必要もない。

結局は議会の判断にゆだねられます。

これからどうなる?

このままいけば、年内には民主党が過半数を占める下院本会議で弾劾は可決されるはずです。

一方、大統領を辞めさせるかの決断を下す上院は共和党が過半数を占めます。

トランプ大統領は共和党の支持基盤である保守層に絶大な人気を誇ります。罷免に必要となる20人もの共和党議員が、彼に反旗を翻すとは考えられません。上院で無罪になるというのが大方の見方です。

なので注目点は、トランプ大統領が辞めさせられるかどうかではなく、民主党による弾劾を有権者がどうとらえるか、来年11月の大統領選挙にどう影響するかです。

これは民主党も承知の上です。民主党リーダーであるナンシー・ペロシ下院議長が、これまで党内の「過激派」が求め続けてきたトランプ大統領の弾劾に慎重な姿勢だったのも、世論への影響を考えてのことです。

では、肝心の市民の反応はどうなのか?

おそらく大半のアメリカ人は、ここに書いたことの半分も理解していないでしょう。クリントン氏が弾劾された時は不倫という分かりやすいストーリーでしたが、今回は外交も絡んだ職権乱用という一般人が興味を持ちづらい内容です。これだけニュースで報道されているにも関わらず、私の周りでも、記者仲間や政治に興味がある人以外では、話題にすら上がりません。多くの政治関連ニュースがそうですが、市民とマスコミの間では、かなり温度差があります

世論調査では、弾劾すべきかどうかは、保守とリベラルで真っ二つに分かれています。しかし、大統領選挙のカギを握ると言われる浮動州で、弾劾が民主党にダメージを与えているというデータも出てきています。有権者は食傷気味なのかもしれません。

果たして、弾劾に踏み切った民主党にとって、それが凶と出るのか吉と出るのか。目が離せません。

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