著作権法入門

今回は著作権法の基礎について書いてみたいと思います。普段から著作権法を扱っている人というよりかは、学生で著作権に興味がある人、法務の仕事をしているが著作権法についてはほとんど触れる機会がない人を対象とした入門編となります。

著作権法の特徴

著作権法の特徴として非常にグレーゾーンが広範であるということが挙げられます。これは訴訟になる事案が少ないことや、事案の特殊性が判決に影響を与えたと考えられるケースが多く、一般化することがなかなか難しいことに起因すると感じています。
また、法律というのは合法違法が明確なものだと考えている人が多いので、法律相談での対応でも、このグレーゾーンの広範さを理解してもらうことがスタートラインとなります。

著作物性

まず、そのものが著作物に該当するかが問題となります。著作権法では「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文学、学術、美術、又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定義しています。単なるデータ、アイデアにすぎないもの、工業製品等は著作物に該当しないことになります。具体的には、小説、脚本、楽曲、絵画、漫画、写真、設計図、映画、放送番組、ゲーム、プログラム等が著作物として保護されることになります。

著作物とアイデアの違いとは?

著作権法で保護される著作物とアイデアにすぎないものの違いについては、一般的な理解と乖離があるように感じます。例えば、子供が書いた落書きであっても「絵画」の著作物として保護されるのに対し、「未来から来たロボットが少年を助ける」「泳げない海賊が海賊王を目指す」といったものはアイデアにすぎないとして、このアイデア自体は著作物として保護されないのです。これは、アイデア自体に著作物性を認めてしまうと自由な創作活動が制限されてしまうことが理由です。先ほどの「未来から来たロボットが少年を助ける」というアイデアについても、「ドラえもん」を思い浮かべた人、「ターミネーター」を思い浮かべた人、その他の作品を思い浮かべた人がいたのではないでしょうか。

著作者とは?


著作者とは、「著作物を創作する者」をいいます。ここで重要なのは、著作物を創作するだけで著作者となり著作権者となることです。これは、特許や商標の場合は出願という手続を経なければ権利者として保護されないことと異なります。著作物を創作した者は、何らの手続を経ずに権利者として保護されることになり、これを無方式主義といいます。

著作権、著作者人格権とは?

著作物として保護される場合、大きく分けて著作権と著作者人格権という権利が発生します。著作権は、複製権、上演・演奏権、上映権、公衆送信権(テレビ放送、ネット配信等)、翻案権(二次的著作物の創作等)等の権利が束になった権利というイメージです。著作権は財産的な権利なので、他者に譲渡することができます。
なお、著作権の保護期間は、個人の著作物は死後70年、団体の著作物は公表後70年とされています。

一方で著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権(著作者の意に反して改変されない)等の権利であり、著作権とは異なり譲渡ができないものです。したがって、著作権の譲渡を受ける契約では、「著作者人格権を行使しない」という条項を契約書に記載することが通例となっています。

 

著作権侵害とは?


著作物を利用する場合、著作権者の許諾を得ることが原則となります。購入した漫画を許諾を得ずにネット上で公開する行為、購入したDVDを許諾を得ずに複製して販売する行為等は著作権侵害となります。

 権利制限規定

もっとも、例外的に著作権者の許諾を得ずに他者の著作物を利用できる場合があり、これを権利制限規定と呼びます。私的複製(テレビドラマを家族で見るために録画する行為等)、引用(詳細は後述)、非営利無償無報酬での上演等(無償の学園祭での演劇、バンド演奏等)、屋外に設置された美術の著作物・建築の著作物(詳細は後述)等が代表例です。

引用とは?

この中でも引用というのが、著作権法のグレーゾーンの広範さを物語っています。

(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法32条1項

他人の著作物を自分の著作物の中に取り込む場合,すなわち引用を行う場合,一般的には,以下の事項に注意しなければなりません。
(1)他人の著作物を引用する必然性があること。
(2)かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
(3)自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。
(4)出所の明示がなされていること。(第48条)
(参照:最判昭和55年3月28日 「パロディー事件」)

文化庁 著作物が自由に使える場合https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

これは著作権法の条文及び適法な引用として認められるために注意すべきポイントですが「公正な慣行に合致」「正当な範囲内」等、かなり曖昧な表現が多いといえます。特に主従関係については、単純に量的に自らの著作物が多いからOKというものではなく、質的な面と量的な面の双方から判断されることになります。
近年では、SNS等で動画やスクリーンショットを無断アップロードする投稿が日常的に行われています。これらの投稿は、自らの論評等が「主」であり、引用する動画やスクショが「従」といえれば適法な引用となりますが、引用の要件をみたさない投稿も多いのではないかと感じています。
テレビ番組でも、権利者の許諾を取れないケース(権利者が逮捕されている場合等)があり、この場合は引用の要件をみたすために、自らの論評が「主」となるようにと現場にアドバイスします。もっとも生放送ではどのように番組が進むか予想できないところがあります。仮に引用する著作物を提示しそれを基に論評しようと考えていたとしても、地震や大事件が発生した場合は、結果として論評ができずに著作物を提示しただけとなってしまう可能性があります。これは架空の事案であり例外的なケースですが、適法な引用といえるかはグレーゾーンが広く判断が難しいケースが多々あります。

屋外に設置された美術の著作物・建築の著作物

美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

著作権法46条

上記のように、専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製した場合等(キーホルダーの作成等)の例外的なケースを除き、屋外設置の美術の著作物や建築物は原則自由に利用できます。したがって、公道から東京タワーやグリコの看板を撮影しネットにアップすることは著作権侵害にはなりません。
なお、公道と書いたのは他者の施設内での行為については、著作権だけではなく施設管理権の問題があり、管理者が定めたルールに従う必要があるからです。

まとめ

以上、著作権法について重要なポイントを解説してみました。難しい論点はあまり取り上げないようにしましたが、上記のようにグレーゾーンが広く合法違法の判断が明確ではない事例が多い分野だと理解いただけたのではないでしょうか。
実務としては、原則許諾を得ることを前提とし、許諾を取れない場合は権利制限規定の適用を検討しつつ、権利者に対するリスペクトを欠くことがないよう配慮しながら著作物を利用するという考え方が一般的です。
SNSの発展で1憶総クリエイターと言われる時代ですが、適切に著作物を利用できるように著作権法に興味をもっていただけると幸いです。

以上

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