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最近ルンバを買いました。

最近ルンバを買いました。狭い1Kのワンルームなのに。掃除機が壊れた直後だったかつ好奇心もあって買ってしまいました。
あれから数日。ルンバを想像すると哀しい気持ちになりました。
誰もいないあのアパートを走らされているルンバに、東京で働いている私を重ねているのかもしれません。

地元は香川県観音寺市。平凡な家庭に生まれて平凡に成長しました。
いわゆる”通過儀礼”を浴びたのは大学受験でした。地元の平凡な高校に進学してからというもの、
高卒の母親から自分の人生の反省からか、国公立大学への進学を強制してくるようになりました。

それもそうだった。うちは父親も母親も高卒だった。
父親の稼ぎでは満足した生活を送れないという思想の持ち主である母親は、
何か出費があるごとに「パパも大学出てれば、」とため息混じりに毒づいてました。
そんな母親を見ながら、父親は何も言わずヘラヘラ酒を飲んでました。

父親は普通のサラリーマンだったけど、そこまで忙しそうではありませんでした。
土日は休めてよく丸亀にあるお気に入りのうどん屋まで連れてってくれました。
帰りにゆめタウンで買い物をして家に帰る。月3でこのルーティーンを過ごしてました。
父親のバイブルは「るろうに剣心」らしいです。

大学受験に関しては別に断る理由も、このままこのまちにいる理由もなかったので、
言われるまま勉強しました。第一志望は神戸大学でした。
実家にも近く大阪にも近く、何より都会に住めるという希望が最高でした。
結果は不合格でした。

それでも後期日程で香川大学法学部に引っ掛かりました。
母親は神戸大学に落ちた時この世の終わりみたいな顔をしてましたが、
息子を関関同立の滑り止めに行かせる余裕もないだろうし、香大受かった時の喜びようは半端じゃありませんでした。

私もA判定の神戸大学に落ちてから数日は生きた心地がしませんでした。
香大に進学するとなると実家から通うことになりそうです。
そんなつまらない大学生活なんて許容できるわけがない。
車の免許を取りに行きました。合格祝に祖父母が中古のノートを買ってくれました。
嬉しいのは嬉しかったです。

そこからの2年間はほとんど記憶がありません。観音寺から高松への車通学。
高松でお酒を飲んだら帰れなくなるので、お酒は4年間で数えるくらいしか飲んだことがありません。
ただ、飲み会には呼ばれます。複数の友達のアッシーになりました。

戦略的に一人暮らしの彼女を作ろうと思いました。
私のルックスごときで目的と手法を見誤るなんてどうにかしていました。
でも翌年には彼女ができました。丸亀の実家から車で通学している同い年の経済学部の女の子でした。
3回生になり、4回生になろうとしていた。就活が始まった。

彼女はどうやら関西特に大阪で就職しようとしているらしかった。
私も大学受験失敗した神戸の地になんとかやり返したく、関西特に神戸で就職しようとしていました。
結果大阪に本社があるそれなりの広告会社に就職することになりました。
神戸は相手にすらしてくれませんでした。

彼女はなかなか就職が決まらなかったけど、当時はやってたウェブ代理店に決まりました。
二人とも晴れて内定を勝ち取りました。そこから卒論を頑張る時期になりました。
大学の図書館と実家を往復していました。
父親は3月末に定年退職しました。最近釣りが好きみたいです。

流石に月1くらい丸亀で彼女と会う時間も作ってました。
彼女も内定先の課題と卒論に追われていました。
年末、家族ぐるみで飲みに行こうかという話を彼女が言い出して、あれって思っちゃいました。
なぜか出てきたそのクエスチョンマークはなかなかどうして振り払うことができませんでした。

クエスチョンマークは、家族ぐるみで付き合い始めたらもう人生が決まっていくのではないか?
やんわり嫌悪感を感じました。そうか、まだおれは彼女との覚悟が定まっていないのか。
翌日、高松からの帰り道、五色台展望台に寄って彼女に電話をかけて、別れました。

4月になり私は新社会人になりました。社会人ってなんなんだろう。
外国人、一般人、社会人。社会の人って全員じゃないか。
3ヶ月のしょーもない研修を経て、僕は東京支社配属になりました。
東京へ引っ越しました。選んだのは仙川です。なぜ仙川を選んだのかわかりません。

仙川には有名なマシマシ系のラーメンとちょっとおしゃれな土間土間と、
ちょっと高級なスーパーマーケットがありました。白百合女子大学という大学がありました。
お嬢様が通われる大学みたいです。1ルーム7畳で6万円。
高松で一人暮らししても4万円で10畳借りれそうなのに。 

でも東京に来た最初の方は、何もかも価値があるように感じられて、何者かになれた感覚でした。
高い家賃を払って住むことで「東京都民」になれて、初めての一人暮らしを謳歌しているのをインスタグラムにまちの写真を毎日のように投稿しました。
仙川には特急は止まりません。

それでも区間急行は止まるんです。便利です。世界で一番乗り降りされる客数が多い駅・新宿まで一本で行けるんです。
仙川駅は調布市にあります。23区内ではありません。

仕事は淡々とこなしました。営業は難しかったけど、先輩の真似をしていればなんとなくノウハウがわかって来ました。
なんとなくやってます。休日に仕事が入らないように調整するのだけは得意でした。
東京の各駅を回る投稿を始めました。

東京にはまちによって見える景色も人も匂いもなにもかもがさまざまでした。
多様性のまち東京。今日は東中野に来ました。いつものようにインスタグラムを開きました。
元カノが谷町のカフェに行っているストーリーを上げていました。
彼氏といるようでした。

僕は一人でポレポレ東中野という隠れ家的映画館を撮ろうとしてました。
ブッ刺さりました。近くのカフェに行こうとしてましたが、なんか嫌な気持ちになったので、
仙川の家に帰って慣れていない酒を飲み始めました。

朝起きるとお酒の缶が転がり、掃除機が壊れていました。
酔っ払って踏んでしまったぽかったです。スマホを開けました。元カノと電話してました。
「12:46」何を話したのだろう。
充電が18%しかありませんでした。

とりあえず二日酔いでも準備して会社に行きました。
外回りと言ってカフェに行きました。
コーヒーではなくアクエリアスとか、しじみの味噌汁を飲めばよかったと後悔しました。
元カノに電話しました。出ませんでした。充電が切れました。

会社に戻りました。局長に呼ばれました。内示が出ました。
大阪本社へ異動でした。でも異動先は総務部でした。
広告会社の営業ではなくなりました。
僕はこれから経理などをするらしいです。

最近ルンバを買いました。狭い1Kのワンルームなのに。
掃除機が壊れた直後だったかつ好奇心もあって買ってしまいました。
引っ越しするタイミングが良いタイミングで決まってました。
ルンバを想像すると哀しい気持ちになります。
誰もいないあのアパートを走らされているルンバ。

東京で働いている私。大阪で新しい恋人を作ったらしい元カノ。
大阪に戻ったら、どこかでばったり会うのだろうか。
引っ越し作業をしていると不意に、香川に置いてきたノートの鍵が出てきた。
ルンバに吸わせたい大学の記憶と一緒に。

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