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千鳥の面白さから考えるお笑いの未来への一考察

僕はお笑いコンビの千鳥が好きだ。

ザ・ミーハーだと思われるかもしれないが、千鳥は中国地方民に希望を与えてくれた存在でもある。
「〜〜じゃけぇ」と言う広島弁・岡山弁の全国区から怖いと思われているイメージから面白いと言うイメージに変えてくれた、と言う新しい視点がある。
広島県を出た18の時、広島弁は仁義なき戦いのおかげで(せいで)怖い、と言われることが多かった。
が、千鳥が有名になってきてから僕らが”普通”に使ってきた言葉が市民権を得始めた。

方言の魔力

思えば上京してから早3年、合コンで面白いと言ってもらえるのは、トーク力云々ではなく、方言だったのかもしれない、と思ってしまうほどだ。
ご承知の通り、千鳥は2人とも岡山県にある笠岡商業高校で出会ったことのあることは有名だ。
しかし、岡山にある笠岡市は、限りなく広島県に近い岡山だ。
そりゃあ方言は似ている。(とはいえ、僕の出身地である広島市は山口県側である子には目を瞑りたい。)

ロケ力

千鳥を語る上で欠かせないのは、圧倒的なロケ力
芸人が関西で売れ始めると、どこかで東京進出を狙うと言う、いわゆるお笑いの天下を狙いに行くと言うのはこれまでのお笑い芸人が行なってきた伝統・慣習である。

現状、関西エリアでしか放映されない番組に出ていた頃の千鳥は、YouTubeでしか見ることはできない。
つまり広島・愛媛・東京都拠点を変えてきた僕にはわからない。
が、有料配信サービス(千鳥の場合は、Amazonプライム)で今でも見ることができる「いろはに千鳥」(テレビ埼玉)と言う番組で千鳥のロケの面白さは視聴が可能だ。
いろはに千鳥内では、テレビ埼玉制作とだけあって、メインは埼玉県内にある会社や飲食店に向かい、千鳥によるレポートを通して魅力を伝えると言う番組である。(どちゃざっくり)
1日で最大8本分の撮り分をとると言う、近年稀に見る制作・演者陣に負担をかけるほど予算が無い、と言うことを銘打っている。

いろはに千鳥の中で印象的な回はいくつかあるが、僕の出身地が広島と言うだけあって、味付け海苔を売っている広島の会社の埼玉営業所(所沢市)に向かった回だ。
広島県民には有名な「やま磯」と言う会社の味付け海苔。様々なジャンルの味付け海苔の中から1つを選び、それをいただき、ご飯を食べに行き海苔とご飯がどれくらい合うのかを撮りたい、と言うものだった。

岡山県、島とは言えどもやま磯の味付け海苔は確実に食べたことあるやろと思い見てたら、大悟が「お!まって!見たことある!」とか言ってくれる。
トークが始まって時間が経ってきて営業所のおじいちゃんにも「おっちゃんは〜〜」などと初見の人に対しても近い距離感で話せる、かつパーソナルスペースは守ってくれる。
また、「海苔にの、あるいけど醤油とマヨネーズをつけたら最強なんよ」と喋り、営業所の人の笑いを誘う。

番組のことはもちろん、ロケで邪魔している人たちへの最善の配慮とお笑い、そして視聴者への楽しさを確実に届けている、と感じる。

いろんなお笑い芸人さんのロケをいくつか見ているが、全方向(制作・他の演者・ロケ先・視聴者)へ配慮を提供してくれるお笑い芸人だと思う。

漫才力

最近千鳥は、MCとして、番組を回す立場におかれることが多い。
千鳥が売れ始めたのは、承知の通り漫才の面白さだ。
千鳥の漫才の面白さの原点は、「臨場感」と「クリエイティブテスト」に集約される。

臨場感

有名な話だが、千鳥のネタ制作担当は大悟だ。
が、大悟はネタをかっちり決めない。
これは「ボケたいこと」と「ツッコんでほしいこと」だけをきめて、セリフまで落とし込まずに本番を迎える
これが漫才途中で大悟・ノブが自分たちのお笑いで笑いながら視聴者の笑いを誘って笑いの掛け算を生み出す効果を促すことにつながる。

特に顕著なのは「演技力」と題される漫才だ。
簡単に説明すると、大悟が妊娠されたことを夫に扮したノブに朝打ち明けようとするところの演技をしてみよう、と言う漫才だ。
この漫才は大悟の「あなた私できちゃったみたい」と言う単語だけで進行されていく。
最初の「あなた」を「おぬし」と言い間違えることで永遠にノブにツッコませるものである。
この漫才で僕が一番おもろかったのは、途中ノブの「おい!!8回もおぬしゆーとるど!」と言うツッコミ。
これは、ここまで天丼をやるとはわかっていなかった、と言う裏返しだと思う。

こうすればおもろいやろと言う大悟の感覚でボケてから初めてノブのツッコミがあるので、やりたい放題にできる大悟が故の「臨場感」の生成が可能なのだ。

クリエイティブテスト

この画像を見てほしい。

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僕が千鳥の漫才の中でトップ3に好きな漫才の一つ、「ツレ」と題される漫才である。
この漫才は遅くとも8年前には完成され、関西系列のテレビで放映されたネタだ。

だが、その当時画像の中に無いセリフがある。
登場する犯人の「真っ赤」な特徴は、8年前のネタ放映には全くなかった。
4年前に初めて出てきたと推測される。
細かく言えば、小ネタと分けると最後の「ジープに紐くくりつけて松の木引き抜く男」については、初めは「抜かれる男」と言う兄弟設定があった。

先述の通り、千鳥の漫才は「ボケたいこと」と「ツッコんでほしいこと」だけをきめて、セリフまで落とし込まずに本番を迎える
細かなボケのニュアンスとノブのツッコミのタイミングや言葉のニュアンスは全く違えど、「ここだけは言う」と言う大悟のスタンスがブレることはない。

この「ツレ」の漫才の中では、大悟はまだ遊ばずネタに忠実ではある。
だが、兄弟設定を無くしてみたり、ボケの追加を行いながら、新ネタを作る時間はないけれども、既存のネタと全く同じことはしたくねぇんじゃ!と言う意思表示が感じられる。

そして、これはコピーライティングにおける「クリエイティブテスト」に通じる。
このネタ・この文言ではあまりお客さんは笑わなかった。これでは笑った。
このようなテストを繰り返しながら、おもろさを追求していく。
関西発ではあれど、中国地方初のお笑いの天下を撮りにいく千鳥の荒削りな綿密さが感じ取れる。

また、千鳥は視聴者の何者も特定な攻撃をしない。(制作陣にはかなりきつい)
この「ツレ」漫才でも誰も傷つけていない。
存在しない「泥棒田泥男」「屁こき田屁こ男」「皆が寝静まった頃ジープに紐を括り付けて抜く男」と言う存在しない登場人物が罪を被っている。

大悟が描くネタには。特徴的な名前を作ることによって漫才では誰も傷つかせない。負担を負うのは大悟が7割、3割がノブになるように設定されている。(僕調べ)

あの感情に今、名前をつけるなら

ここで、今回のnoteのテーマである「あの感情に今、名前をつけるなら」に立ち返る。
千鳥のお笑いを見るまでは、誰かを笑わすのは「予定調和のぶち壊し」としか考えていなかった大学生の時の僕は、千鳥の漫才を見て新しいやり方に出会うことができた。

それは、「予定調和を即座に自ら作れば、自ら壊し立て直せる。」と言うことだ。

なんじゃありきたりなニュアンスや。

初めて千鳥の漫才を見た時、漫才を一方通行ではなく、インタラクティブなコミュニケーションのひとつとして捉えられることに気づいた。

あの時の感情に今、名前をつけるなら「お笑いは作れる」と言う確信だった。

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