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地元

「二次会地元で飲むけどくる?」
「え、君地元大塚だったっけ?」
「今住んでるの大塚だよ」
「今住んでるところのことを地元って表現する人初めてみたわw」
出身は長野県松本市。
長野県内では2位の経済規模で北アルプスを望むことができるそれなりな中核都市だった。
実家は信州大学の近くにあった。

一刻も早くこの山に囲まれ封鎖された片田舎から出たかった。
高校受験で東京を受験しようとしたら両親に猛反発された。
大学受験までの3年間、人生の3年間を無駄にしている気分だったが、
東京に行けばその3年をも挽回できると信じて慶應義塾の赤本を1年生の時から持ち歩いた。

人生をかけた片道切符は当然の様に届き、逃げるように上京した。
初めての一人暮らし、初めての東京、やっとだ、やっと自分の人生の主人公になれた気がした。
初めての一人暮らしは大塚を選んだ。
渋谷や新宿の近くは本当に田舎から出てきた人みたいでなんか嫌だし池袋はさすがに予算オーバーだった。

大学時代は思い描いていた学生生活を送れた訳ではなかった。
形容するなら「ワイワイ」や「ガヤガヤ」がイメージ、現実は「淡々」。
一緒に講義を受ける友達はいるが、一緒に飲みに行くのもたまーにあるくらいだった。
松本から同じく上京している同級生からの連絡は一切なかった。

サークルに入らなかったことを後悔し始めたきっかけは、
20歳の誕生日を1人で大塚にある5.5畳の1Kで迎えた時だった。
誰かと仲良くなるとかはもうやめよう、昔から今頑張るのが無理で、東京にいないことで自分の問題を先送りにしていた。
他人と関わることが苦手だった。松本でも東京でもだ。

東京に行くことで自分は変われると信じていたけど、東京は自分を何にも変えてくれなかった。
平凡に大学を卒業し、上野にある平凡な会社に就職した。
ある日大学の同期から久しぶりに連絡が来て上野のアメ横で一次会だけで終わると知っている飲み会が始まった。
地元(じもと)
意味 : 1.その事に直接関係のある土地。本拠地。
2.自分の居住する、また勢力範囲である地域。

地元は大塚、出身は長野の松本。
東京に出てくれば自分は変われると信じていたが、土地が人を変えるなんてとんだ妄想だった。
結局は自責、変わろうとする覚悟がなかっただけだった。

「二次会地元で飲むけどくる?」
「え、君地元大塚だったっけ?」
「今住んでるの大塚だよ」
「今住んでるところのことを地元って表現する人初めてみたわw」
「今住んでる場所のことを地元とも言うんだよ」
「お前にとって長野は何だよ」
「親が住んでるだけだよ、たまたまそこで俺が生まれてしまっただけ」

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