ブームがもたらすもの

認知心理学・行動経済学が一般的な知名度を得て久しい。

本屋で平積みになっている売れ筋本を眺めていても、電子書籍のランキングを見ても、このジャンルの人気の高さを伺うことができる。

また、動画投稿サイトを開いてみても、心理学に関する動画で高い人気を誇るものは幾つも見つかる。

〇〇バイアス、〇〇ヒューリスティックなど、キャッチーで明日から使いたくなる用語が沢山ある。

私も例に漏れず、認知心理学・行動経済学に関する書籍を本棚に収め、パラパラと紙面をめくっている。

この心理学ブームに関して気になることがある。

というのは、心理学ブームが、「他者の心や行動は容易に説明可能である」との認識を、密かに広めるのに一役買ってはいないだろうか、という疑問である。

様々なコンテンツやSNSでのやり取り、炎上事案を観察していると、他者の心や行動が手に取るように分かります、という振る舞い方をする人が昨今多い気がしてならない(こう感じてしまうこと自体が、〇〇バイアスや、〇〇ヒューリスティックで説明可能かもしれない。)。

これが、心理学ブームによるものなのか、はたまた、インプレッション至上主義の世界における合理的な行動の帰結なのか、はっきりとは分からない。

ただ、(a)人はこういったケースにおいて、(b)こういう風に振る舞う・認知する傾向がある、という認知心理学の知見があったとして、その知見が目の前の人に当てはまるのかは、丁寧な観察を要する問題なはずである。
言い換えると、(a)というケースに該当するのか丁寧に観察し、また、一般的に(a)→(b)だとして、目の前で(b)に至っているのかにも注意を要するはずである。

すなわち、認知心理学の一般的な知見が個別具体的に妥当するかは、明らかではないところ、人間の"システム1"は、安易に一般論を振りかざしがちではないか、ということである。

なお、認知心理学の過去の華々しい知見が、再検討を要する、今の時代では再現可能性がないといった話も現在進行形で出てきているので、別途注意を要する。また、一般向けのコンテンツでは、読者の興味を惹き続けるために、正確な情報提供を傍に置いているケースもあるようである。

ここでの懸念が杞憂に終わるのか、あるいは人のコミュニケーションに一定の影響を及ぼすのかは定かではない。

いずれにしても、認知心理学の知見を学ぶことは、目の前の相手に過度なラベリングをし、安易な決めつけでコミュニケーションを進めるための免罪符ではない、ということを肝に銘じる必要がありそうである。

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