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音楽と言葉

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クラシックの音楽家たちによるエッセイ集。#音楽と言葉 ライター: 齋藤友亨(トランペット奏者) 副田真之介(オーボエ奏者) 馬場武蔵(指揮者) 出口大地(指揮者) 山口奏(チェロ…
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#音楽

クラシックの音楽家によるエッセイをまとめた共同マガジン「音楽と言葉」

身近にクラシック音楽を生業にしている人はそういないだろう。 ・食べていけるとは思えない ・なぜなろうと思ったのか ・どんな人たちが「クラシックで食っていこう」などと思うのか 全てが理解不能だし想像もつかないだろう。アンケートサイトで職業の選択をするときはほぼ「その他」になるし、ひどいときは「その他・無職」と一括りにされる。一度だけ「アーティスト」という欄があるのを見たが随分感動したものだ。 音楽を職業にする人たち音楽を職業にする人たちは変わった人が多い。「音楽で食べ

即興することと音楽 山下光鶴に学ぶ

先日、ベルリンにいた頃20歳からの友人であるギタリストで作曲家の山下光鶴が長崎から鹿島に来てくれ、3泊4日を共に過ごした。 彼は本当に素晴らしいアーティストで、初めて出会った頃から既に成熟した考えを持っており最も尊敬する同世代の音楽家の1人だ。 ベルリンに住んでいた頃、sophie charlotte platzというU2沿いのところに住んでいて、彼も最寄りが同じだった。 当日19,20歳でドイツに来ていた同世代はほぼいなかったのもあり、よく一緒にコンサートを聴きにいったり

ベルリンで聴いたラドゥ・ルプーのベートーヴェン

ラドゥ・ルプーが亡くなったそうだ。彼は1番好きなピアニストだった。 ベルリンに住んでいた頃、毎週のように指揮者やピアニストの巨匠がきていた。最初は正直全員良いとしか聴こえなかったが、不思議なことに同じ場所で同じオーケストラで聴いていると違いがわかるようになっていった。 ソコロフ、アルゲリッヒ、バレンボイム、シフ、ツィマーマン、ユジャワン、内田光子など巨匠達を聴いた中で、最も印象に残ったのがルプーだった。 ベルリンフィルには必ず立ち見で聴きに行っていたから、特に前情報は調べな

初めての日本のプロオーケストラでの客演

先日初めて東京フィルハーモニーさんに客演する機会をいただいた。初めての日本のプロオーケストラ。 お話をくださったのは東京フィル首席の野田さんで、神代門下の昔からとてもお世話になっている憧れの先輩。一瞬動悸がするような緊張をすると同時にとても光栄な気持ちだった。 野田さんは湘南ユースオーケストラの先輩でもあり、トランペットをはじめた小学6年生の頃からずっとお世話になっている。 初めて野田さんとお会いした12歳の頃のことはよく覚えていて 楽器を初めてまだ数ヶ月でユースに体験入団

なんでオペラ歌手がV系の曲歌うん?

最近、昔から好きなV系の歌を歌ったりしている。 オペラ歌手がV系を歌う物珍しさももちろんあるかもしれないけど、たまに知らない方から「聴いたよ」とか「いいね」って話しかけて頂けるのは本当に嬉しく、ありがたいことだ。 もちろん、歌を聴いてくれたってだけで嬉しいんだけど、 きっと私がV系の曲を歌う事でソプラノ歌手の歌を初めて聴いたって人もいるかもしれないし、逆にクラシック界隈の人がV系の曲に対して「良い曲だな」って思ってくれるかもしれない。 もしそうだったらもっともっと嬉しい。

ソプラノ歌手、詩を書く。

友人の勧めでnoteを始めてみた。 昔アメブロとかもやってたけど、媚び媚びなコンサートの宣伝ばかりになってしまって書くのが面倒になり、ほぼFacebookにたまに書いたマジメな文章を貯めておく倉庫のようになってしまっていたから、心機一転こういうのも悪くないかなと思う。 私はソプラノ歌手だ。 -ああ、スーザンボイルね! 音楽に詳しくない方と話すと、大抵こう返ってくる。 まぁ、そんな感じです。 ザックリ言うと、綺麗な裏声で色んな歌を歌う人。 今はシンガーソングライターと

命日、スメタナを想う 2

前回に引き続き、スメタナの人生に思いを馳せたい。 今回の鍵となるのは弦楽四重奏曲第2番ニ短調、最晩年の作品である。 私はこの題材を心に留めた時、とてもしっくりと来た事がある。昨今のコロナ騒動で疲弊している今、スメタナの音楽が私をはっとさせたのだ。 今回はその事について、大切に書いていきたい。 ・・・ 命が尽きるまで、彼を突き動かしたもの 弦楽四重奏曲第二番を書き上げたのは、1882年から1883年の間。すでに聴力は完全に失われ、医師からは作曲を辞めるように言われて

2か月半ぶりにミュートなしで吹いた結果

11歳でトランペットを始めてから2か月半もの間プラクティスミュートをつけて吹き続けたのは初めてだった。3月26日の椿姫の初演を最後にずっと家に篭り、マンションで楽器は吹けないから(隣の歌手は夜中でも歌っているが)ずっとミュートをするしかなかった。 バカンス中に一切吹かない人せっかくだから何週間か完全に楽器を吹くのを休んでみるのもいいかと考えたものの、逆にすることがなさすぎてリフレッシュにならないからやめた。 ヨーロッパ人のトランペット奏者は「バカンスの間1か月全く楽器を吹

自分にとっての室内楽

初めに書く文章として、自分が何で出来ているのかを書くのが良いような気がした。日本にいる残り数ヶ月、自分を見つめ直す良い機会として。 そして同じように日本でクラシック音楽を学び留学を考えている人や、心の底から室内楽を愛している人の目に留まればと思う。 私は9歳でチェロを始めた。 学校にある弦楽合奏の部活に入って何とは無しにチェロを選んだ。ソロを学ぶのではなく、みんなで音楽するための道具がチェロだった。始めて数ヶ月で音楽の道に進む事を決めたが、これだけでも、私を構成するものが相

小学生の頃イギリス帰りの友達がトランペットを教えてくれて先生を紹介してくれた話

noteはこのシンプルでスタイリッシュな雰囲気によってちょっときつい自分語りもイケてるエッセイのようにしてくれる。気がする。だから意外と音楽家の友達にも話す機会が少ない「トランペットを始めたきっかけ」について長い自分語りを書いてみよう。吹奏楽部で始めたわけではないから珍しいタイプだと思う。 「音が出せない」楽器をやってみたかった子どもの頃から多少ピアノには触れていたものの機会がなくて習ってはいなかった。バレエを習っていたからなのかクラシックはとても身近で、みんなが聴いていた

コンディションを気にしなくていい生活

25℃を超えていた時もあったのに、ここ最近はどんよりした天気が続いている。もう桜も散って葉桜になり、葉の色も濃くなってきた頃だというのに昨日は雪が降った。 やはり本当に厳しい自然環境。今日の午前中買い物にでた時も7℃しかなかった。急激に気温が上がってみんな半袖で出歩いていたかと思ったら帽子にダウンだ。ドイツは4月の天気がとても不安定だったがシベリアはそれが5月なのかもしれない。 コンディションを気にしなくていい生活4月はまだこの生活に慣れていなかったが、悠々自適に練習と読