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僕がチャットボット市場に参入してから会社売却するまでの話

BtoB SaaSの素⼈が上場企業に会社を売却するまでの記録を残しておきます。
2021年に会社を売却する5年ほど前、LINEやFacebookメッセンジャーをはじめとするチャット型のコミュニケーションが一般化し、今後はそれらを⾃動化するチャットボット市場が流行るだろうという仮説を立てた僕が、実際にチャットボット市場に参⼊して、試行錯誤を重ねながら事業を軌道に乗せ、その会社を上場企業に売却するまでの流れを文章にまとめました。


■チャットボット市場への参⼊を決めた経緯

僕は、チャットボット市場に参⼊する前、家族で健康管理ができるというアプリを⾃社サービスとして展開していたのですが、ちょうどその頃、LINEがチャットボット開発を可能にするというプレスリリースを出し(下記記事参照)、それを⾒た僕は、それまでやっていた事業をその⽇の内にクローズし、LINE/Facebookボット事業へピボットすることを決めました。

https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2016/1516

即決した理由は、僕が⼤学⽣時代に、Facebookアプリの大きな波が到来して数多くの勢いのある企業が生まれてきたのを間近で見た経験から、スタートアップは新しい市場で勝負することが重要であると感じていたからです。実際、僕自身も学⽣の時にFacebookの実名性を利⽤した合コンセッティングサービスを作った経験があり、その事業を売却して得た資⾦で東京にきました。⼤学を卒業し、何のコネもない中で東京に来られたのも、Facebookアプリの大きな波に乗れたからだと思っています。

ビジネスというのは、例えるなら椅⼦取りゲームのようなものです。椅⼦(ビジネスチャンス)を⾒つけていち早く座ることが重要だと言えます。ただしその椅⼦の大きさは、椅⼦取りゲームの⾳楽が鳴っているときにはわかりません。それがわかるのはゲーム終盤になってからですが、そのような状況になってから新規参入しても、大きな結果を出すのは難しいです。現に、チャットボット市場やスマホアプリ市場、SFA市場、MA市場など、既に椅⼦取りゲームがほぼ終わっている市場もあります。

また、僕がチャットボット市場への参⼊を決めた当時は、業界の代表的なBtoB企業であるSalesforce社が、メールでの顧客管理からLINEやFacebookメッセンジャーでの顧客管理に徐々に移行していた時期でもあったため、長期的に見ると、顧客管理ツールはメールからLINEに移⾏するだろう、という仮説を僕は立てていました。この仮説⾃体は今でも間違っていなかったと思います。どの程度の時間軸で移行していくのかを正確に予測するのは難しいですが、LINE PayやPayPayなどの⽀払い方法への移行により、D2C等における新しい顧客管理の方法として、LINEやFacebook、Instagram等を主軸にして進めていく流れはこれからも拡⼤していくと思っています。

予想していた流れ


さらに、顧客管理の方法が変化していくという考えのもと、ユーザー視点から見た場合に、既存のiOS/Androidアプリは、インストールが⼿間なことや、実際に使ってみると通知が沢⼭くるので段々と見るのが⾯倒になり、次第にアプリ⾃体を開かなくってしまう、という課題があると感じていました。
そこで、他のアプリと違って毎日何度も見ることが既に一般化しているLINEやFacebookメッセンジャーを使うということを考えました。メルマガのように⼀⽅的にメッセージを送るのではなく、チャットボットを使ってアプリのような機能を実装し、ユーザーと企業間で双⽅向のコミュニケーションを展開できれば、企業側にもユーザー側にもメリットがあり⾮常に大きなビジネスチャンスになるだろう、という仮説を立て、僕はチャットボット市場への参⼊を決意しました。

次は、そこからどのような試行錯誤を重ね、どのように事業を展開していったのかについて説明していきたいと思います。

■ノーコードチャットボット開発のサブスク販売を開始

まず最初は、BtoC事業を⾏っている企業をターゲットとして、プログラミング不要で誰でも簡単にLINE/FacebookボットをWeb上で作れるシステムを、BtoBtoCの形で展開することを⽬指しました。企業のマーケターの方々などに、弊社サービス上で⾃由にLINE/Facebookボットを作ってもらうというイメージです。

【事業仮説】

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「誰の」⇒ 『LINE/Facebookボットを作りたいBtoC企業』 
「どんな課題を」⇒『チャットボットを開発するのが⼤変』 
「どう解決するのか」⇒ 『Web上で誰でも簡単にLINE/Facebookボットを製作できるシステムを提供する』
「どれくらい予算があるか」⇒ 『この時はまだ予算というものに対する概念がなかった』
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なお、何万⼈もの人に利⽤してもらえるようなLINE/Facebookボットを⾃社で独自に作るという選択を敢えてしなかったのには理由があります。
かつて、アメリカのゴールドラッシュで本当に儲かっていたのは、金を掘っていた人達ではなく、スコップやジーパンを販売していた人達だったというのは有名な話だと思いますが、これと同様に、今後到来するであろう⼤チャットボット時代においても、自社のチャットボットを製作するよりも、プログラミング知識不要で誰でもWeb上でチャットボットを製作できるサービスを展開する⽅が、より大きなビジネスチャンスがあると考えたからです。
サービス名は、「Engagement(顧客との深いつながりや関係性) 」と「bot(ボット)」から着想し「Engagebot(エンゲージボット)」と名付けました。ピボット決定からローンチまで開発に約半年を要し、その期間はチャットボットでの成功を夢⾒ながら受託で会社運営資⾦を捻出していました。

【仮説検証結果】

実際に販売をしてみた結果としては、残念ながらほとんど導⼊が進みませんでした。今思い返すと、それまでの僕のキャリアは主にBtoCのビジネスだったこともあり、BtoBビジネスに対する知識や経験が乏しかったことが主な要因だったと思います。

【仮説検証からの学び】

クライアントの社内⼯数がかかるサービスは展開が難しい
基本的に、企業で働いている皆さんは、日々多くの仕事を抱えていらっしゃるので、LINE/Facebookボットというまだ成功事例のない領域に挑戦してそこに工数を費やすということは、リスクとリターンを客観的に比較して考えた場合にリスクが高いと判断されているように感じられました。

■ゲーム市場:アプリと連携したLINEメッセージ

そこで次に、このチャットボット開発システム「Engagebot」を使って自社でチャットボットを開発してそれを企業に販売していく、という⽅針に舵を切り、「ゲーム市場」にターゲットを絞りました。
当時のゲーム市場は、アプリゲームが⾮常に大きな盛り上がりを見せており、広告宣伝費に億単位のお⾦を使うなど業界的に勢いがありました。また、自社で開発したバグ管理ツールの売上が⽴っていたことや、自社の株主などもゲーム業界へのつながりがあったことから、⽐較的参⼊が容易な市場だと考えました。

【事業仮説】

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「誰の」 ⇒ 『ゲームアプリを提供する会社』 
「どんな課題を」⇒『継続率を上げるための有効な施策がない』 
「どう解決するのか」⇒ 『ゲームと連動したLINE通知を送ることで継続率のアップに繋げたり、友達を紹介したらクーポンがもらえるなどのバイラル施策を実施する』
(例:アプリ内でゲームオーバー後、ユーザーのHPが⼀定時間経って回復したらLINEメッセージで通知する等)
「どれくらい予算があるか」⇒ 『LINEの友達数や継続率に対するリテンション施策の予算が一定額ある』
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【仮説検証結果】

アプリシステムとLINEの裏側を連動させるところでゲーム会社側での開発が必要となり、下記の3点に苦戦してなかなか導⼊が進みませんでした。

  • ユーザーへの通知はそもそもLINEを使わなくてもアプリで送信可能。

  • LINE連動システムを導⼊することがバグの発⽣要因になってしまう。

  • 弊社がこの施策の成功事例をまだ持っていない。

そこで新たに、ゲームの事前登録のためのプロモーションツールとしての導⼊も試してみたのですが、こちらもあまり導⼊が進みませんでした。

【仮説検証からの学び】

  • ゲーム単体での寿命が短い
    ゲーム市場自体は⼤きいが、ゲーム単体での寿命は短く、導⼊まで進んだとしても⻑期的な契約につながらないことが多い。

  • 市場の大きな課題にアプローチできていても、既存のアプリ通知をはじめとした他の⼿軽なソリューション⽅法が存在していると、なかなか導⼊は進まない
    「離脱を防⽌して継続率を上げる」という課題⾃体は、どこのゲーム会社も常に抱えている大きな課題でした。ただ、既にアプリでのプッシュ通知があるため、ゲームと連動してLINEでメッセージを配信するという提案をしても、そこまで積極的に導入を進めてもらうことはできませんでした。

  • BtoBは導⼊事例づくりが重要
    既存のプッシュ通知とLINEメッセージとを比較された場合に、弊社が1社でも大きな成功事例を持っていれば、提案先のゲーム会社の社内稟議等でも承認してもらいやすかったのではないかと思いました。

実際、荒野行動などのちに導入されたが、マーケ予算の変更や担当者の変更など色々大変だった
※出典:NetEase Games 荒野行動!公式LINEアカウント

■テレビ市場:テレビ以外でのユーザー接点をつくる

次に狙った市場は「テレビ市場」です。当時、通販番組やCMなどを見ていると「続きはWebで!」という形で、Webサイトへ誘導する⼿法が多く見られました。この手法は、Webを通じて顧客との大きな接点を作れるというメリットがあり、これはそのまま「続きはLINEで!」に置き換えることができるだろうという仮設を立てて、テレビ局へ営業を開始しました。

【事業仮説】

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「誰の」 ⇒ 『テレビのキー局』 
「どんな課題を」⇒『視聴者との接点がテレビのみで完結してしまい、それ以上の接点がないため、エンゲージメントが低い』 
「どう解決するのか」⇒ 『LINEを通じて視聴者とのコミュニケーションを図ることで、エンゲージメントを高める』
「どれくらい予算があるか」⇒ 『あまり予算に余裕がない』
 ↓
上記を実施して、LINE施策が増えたら

「誰の」 ⇒ 『テレビCM』 
「どんな課題を」⇒『視聴者との接点がテレビのみで完結してしまい、それ以上の接点がないため、エンゲージメントが低い』 
「どう解決するのか」⇒ 『LINEを通じて視聴者とのコミュニケーションを図ることで、エンゲージメントを高める』
「どれくらい予算があるか」⇒ 『施策がうまくいけば、新しいCRMとして既存の予算からの置き換えが見込める』
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【仮説検証結果】

これは仮説検証には成功しました。テレビ局への営業活動の結果、まず最初にTBSテレビ様の番組公式アカウントとしてLINEのチャットボットを導⼊して頂きました。社内でも「チャットボットはやっぱりイケる!」と確かな⼿応えを感じて盛り上がり、会社としてフェーズが上がったのを感じました。
ここで少し本題から逸れますが、ここまでLINE/Facebookボットの仕様についてあまり詳しく説明をしていなかったので、具体例や実績を交えてここで紹介したいと思います。

弊社の導入事例である、TBSの人気料理番組「おびゴハン!」の公式アカウントを例として説明すると、LINEボットの導入以前まではユーザー数がほぼ0人の状態だったのが、弊社のLINEボットの導入によって、ユーザー数を約40万⼈まで増やすことができました。

※出典:TBSテレビ おびゴハン!公式LINEアカウント

【仮説検証からの学び】

受託型の事業モデルは会社の売上としては跳ねづらく、⼿離れの良い打ち出の⼩槌型のプロダクトづくりが、売上を⼤きく跳ねさせる上で重要
この時期は、どのようにして事業を急速に拡⼤していくか、かなり悩んでいました。最初は「ノーコードチャットボット開発システムのサブスク販売」のプラットフォームを⽬指していたはずなのに、この時は完全オーダーメイドのチャットボットを1個1個受託のような形で販売してしまっていたので、開発に社内⼯数をかなり取られてしまって、利益を大きく伸ばすことができていませんでした。

■⼈材市場:連絡⼿段をメールからLINEへ

次に狙ったのは「⼈材市場」でした。この背景として、まず国内の市場規模⾃体が⼤きいという点がありました。それに加えて、ユーザーである求職者側は既に実⽣活でLINEを使うことが一般化していたため、企業との連絡⼿段もメールからLINEに移⾏してくのではないかという仮説を立てました。
最初は単純に、求職者が求⼈検索サイトや求⼈検索アプリのようにチャットボット内で企業を検索したり、オススメの求⼈がレコメンドされる、というようなチャットボットを展開したのですが、求⼈サイトやアプリと比べ、優位性をなかなか⾒いだせずに苦戦しました。そこで下記のような事業仮説を立てました。

【事業仮説】

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「誰の」 ⇒ 『⼈材マッチングプラットフォームのマーケッター』
 「どんな課題を」⇒『ユーザーの獲得単価を下げたい』 
「どう解決するのか」⇒ 『ユーザーとのコミュニケーション方法をメールや電話からLINEに移行することで、コミュニケーションを円滑化してサービスの魅⼒を高める』 
「どれくらい予算があるか」⇒ 『1人あたりの獲得費用が予算としてある程度確保されている』
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【仮説検証結果】

人材市場においてのヒット作としては、⼈気漫画「宇宙兄弟」の主⼈公のムッタが⾯接官になってLINE内で⾯接を⾏えるというLINEボット施策が非常に好評でした(下記記事参照)。この施策はSNSでも話題を呼ぶなど大きく取り上げられ、高い評価を得ることができました。

ムッタbotの内容 https://type.jp/et/feature/3703/
※出典: 株式会社コルク   宇宙兄弟ムッタbot 公式LINEアカウント

2017.11.13 「宇宙兄弟ムッタbot選考」が話題のコルクCTO・萬田大作氏に聞く、この時代に合った新しいエンジニア採用の在り方とは? - エンジニアtype | 転職type

また⾃社では、採⽤⾯接を全てfacebookボットで行うという施策を進めました。応募者の方々がボットを通して送信してくれた情報をもとにして採⽤を判断するというもので、⾃社での採⽤⼯数を⼤幅に削減することができただけでなく、応募者からの反応も良かったため、非常に良い施策だったと思います。

【仮説検証からの学び】

⽉額課⾦制の⻑期契約は、大きな導⼊効果が期待できないとハードルが高い
仮説も問題がなく、導⼊もある程度進んだのですが、契約から導⼊を決定するまでのプロセスが重かったです。また、数値⾯でも色々と試⾏錯誤をしたものの、必ず高い成果を出せる、という必勝パターンを作るのは難しかったです。

■広告市場:会話型広告

次に狙いを定めたのが、国内で⼈材業界と同規模で約7兆円もの市場規模がある「広告業界」でした。

【事業仮説】

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「誰の」 ⇒ 『他社よりも広告効果を上げたい広告代理店』 
「どんな課題を」⇒『CVRを向上させたい』 
「どう解決するのか」⇒ 『従来のような⼀⽅的に配信する広告ではなく、ユーザーの選択によって進む会話型広告を提供する』
「どれくらい予算があるか」⇒ 『広告施策なので、成果さえ出ればそれに応じて予算も増やせる』
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従来のWeb広告は、cookieなどの個⼈情報に基づいて配信先はセグメントを切られているものの、必ずしもユーザーの本当の志向と一致しているとは⾔えませんでした。そこで、チャットボットを使ってユーザーが本当に求めている情報だけを提供して、CVRを向上させる試みを⾏いました。

・広告を表⽰

・広告からLINE/Facebookメッセンジャーに流⼊

・ユーザーにチャットボットと会話をしてもらい、ユーザーに合わせた広告を展開

【仮説検証結果】

実際に試してみると、ユーザーは広告を注視しているわけではなく何となく見ている程度のことが多いので、企業アカウントをLINEの友達に追加させたり、チャットボットと能動的に会話してもらうなどの、能動的なアクションをユーザーに求めるというのは、少々ハードルが⾼かったです。しかし、設計さえしっかりしていれば、従来の⼀⽅的な広告表⽰よりも良い数値を出せるということもわかりました。

例えば、下記記事で紹介されている、⽬的別で運転免許や教習所を簡単に⽐較できるLINEボットの施策では、LINEボット導⼊前と比較して、CV数が384%アップし、CPAが45%改善するなど、⾮常に大きな成果を出すことができました。


CV数384%アップ、CPA45%改善 ユーザーとの円滑なコミュニケーションはもちろん、業務効率が大幅にアップ - Engagebot

ただこの市場においても、通常広告よりも必ず高い数値を出せる、という必勝パターンを確⽴するところまでには至りませんでした。

【仮説検証からの学び】

・周りから顧客を紹介してもらったり、代理店の方々に積極的に動いてもらったりするためには、わかりやすいサービス設計にする必要がある
新しい手法ということもあり、多くの代理店の方々に興味を持って頂くことはできました。しかし、出稿準備に時間がかかることや、従来の広告と比較して確実に高い成果を出せるとは必ずしも⾔い切れなかったこともあり、商談が流れてしまうこともありました。BtoB事業で周りを巻き込んで展開していくには、サービスのわかりやすさも非常に重要だということを学びました。

■D2C市場:LINEを活⽤したリタゲ

次に狙ったのは、「D2C市場」でした。弊社の競合でもあったZeals社が好調であるとの評判を耳にする一方で、当時は個人情報関連の規制によって、cookieを使⽤したリタゲ(リターゲティンリング)が徐々に使えなくなってきていたため、新しいリタゲ⽅法が業界で求められている時期でもありました。またその頃、Gunosy社やスマートニュース社のIR資料を見て、通販業界の広告費⽤の割合が圧倒的に⾼いということにも気づきました。そのため、D2C業界に大きなチャンスがあると感じました。

株式会社Gunosy 2019年5月期 第3四半期決算説明資料   https://ssl4.eir-parts.net/doc/6047/tdnet/1691913/00.pdf 

【事業仮説】

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「誰の」 ⇒ 『通販事業者』 
「どんな課題を」⇒『CVを増やしたい』 
「どう解決するのか」⇒ 『ユーザーが離脱したタイミングでLINEなどを使ってユーザーが再度購⼊する仕組みを作り、完全成果報酬制で提供する』
「どれくらい予算があるか」⇒ 『固定費での広告予算には限界があるが、成果報酬制であれば成果が出た分しか広告費がかからないので、成果に応じて上限なく予算を増やせる』
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まずはZeals社が当時展開されていたツールを参考にして、自社でも独自にツールを開発してみました。当初は思ったような成果を出せずに苦戦しました。そのため、リタゲに的を絞って別の機能を含めて追加開発を重ねた結果、⾮常に高い成果を出すことに成功しました。
その時に開発したシステムは、従来のD2C企業が全く施策を打っていなかった箇所にLPから離脱しようとしたユーザーへの購⼊のアプローチを様々な角度から行うというモデルでした。
さらに契約形態についても根本から見直し、それまで展開してきた⽉額固定料金での契約ではなく、完全成果報酬型(本来離脱するはずだったユーザーからの購入につながったら1CVごとに報酬をもらう)の契約形態を取り入れました。

【仮説検証結果】

試⾏錯誤を重ね、ここでようやくチャットボット市場での必勝パターンを⾒つけることができました。そして、このシステムを多くのD2C企業に横展開し、1社あたりの売上が⽉150万円以上の売上を記録する事例も出るなど、事業を⼤きく伸ばすことができました。今までは月10~20万円の契約を数件積み上げていく形だったのですが、ここで完全に急成長できるPMFというものを体験しました。また、営業すればほとんど受注ができ、お金をかければ事業は大幅に伸びることが予想できました。

【仮説検証からの学び】

成果報酬型の契約は⽉額固定型と⽐較して導⼊してもらいやすい
昨今では、SaaSブームもあり売上も安定させやすいという観点から、サブスク型の事業モデルで事業設計される起業家の⽅も多いです。しかし、シンプルに成果に対して報酬をもらう形の「成果報酬型」での事業展開の⽅が、営業⾯では⾮常にやりやすくなると感じました。クライアント側にとっては、成果報酬型の契約形態のほうがリスクなく売上を増やすことができるため、導⼊に対して⾮常に前向きになってもらえることが多く、「クライアント-当社-ユーザー」の間で、win-win-winの関係を築くことができました。

■新型コロナウイルス感染症の影響

必勝パターンを見つけることができ、やっと事業が順調に進み始めたかと思いきや、今度は別の問題が発⽣しました。ここで発生した問題は、コロナです。
世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、弊社も⼀旦メンバー全員をフルリモートワークにしましたが、クライアントの企業様の中にもコロナの影響で事業縮小や予算削減等の問題が発生しているところがいくつかあり、ビジネスを拡大しづらくなったこの状況で、この先どうやって会社を運営していこうか頭を悩ませていました。
そんな時によく、⼈⽣の意味について考えるようになりました。

  • 「どう⽣きたら幸せなんだろうか?」

  • 「⼤型の資金調達をして組織を強化してライバル会社に勝つことが本当にやりたかったことだろうか?」

  • 「時価総額を⼤きくさせてスケールさせることが⼈⽣のゴールなんだろうか?」

  • 「人の考え方を変えるようなサービスを作りたかったんじゃないか?」

  • 「世界的なサービスを作りたくて起業したんじゃないか?」

  • 「社会を変えるようなプロダクトを作りたかったんじゃないか?」

そんな様々なことについて考えていく中で、事業を売却するという選択肢も考えるようになっていました。
当時、Engagebot事業⾃体は、仕組み化を徹底したことによって少⼈数で効率的に運⽤できる状態になっていたのですが、そんな中で、リモートワークを円滑に進めるための新規事業を思いつきました。そこでEngagebot事業での利益や⼈的リソースを次の新規事業に全部突っ込むような形で、新しいサービスを開発しながら会社売却を進める⽅針に舵を切っていきました。

■売却先の選定

【1】ロックアップなどの制約がない

これまでにも買収提案は何度か頂いていたのですが、基本的にロックアップ(会社の売却後も旧経営陣が一定期間会社に残ること)などの制約が設けられている内容でした。僕としては売却を進めるにあたって、チャットボット業界での戦い(椅⼦取りゲーム)は、やりきったという気持ちが⼤きく、次は全く新しい領域で新たな勝負に打って出たい気持ちが強かったので、ロックアップなどの制約がない買収先を探しました。

【2】資本⼒のある会社

「Engagebot」はLINE特化のMAツールのようなものですが、今後、MAツール、SFAツール、チャットボット、LINE MAツール、Web接客ツールという顧客データを基盤とするツールは、必ずどこかのタイミングで統廃合を繰り返していく流れになると考えていました。この流れの中で勝てるのは、資本効率が高い会社であることは⾃明であり、⻑期戦では資本⼒のある会社には勝てないという打算もあったので、結論として、資本⼒のある会社への売却が望ましいと考えました。

【3】既存事業とシナジーがあり、顧客への営業や提案がしやすい

IT業界というのは、成⻑産業でありプレイヤーも多く、競争も熾烈で業界のあり⽅も数年単位で目まぐるしく変わっていきます。売却を進めていた当時は、cookieの規制などの影響で従来のリターゲティング手法を使うことが厳しくなってきている状況でした。そのような背景もあり、DSP、SSP、MAツール、SFAツール、Web接客ツールなど顧客データを基盤とする様々なマーケティングツールを展開している企業に売却すれば、既存のクライアントへ新たな提案をして頂くこともでき、大きなシナジーがあると考えました。
また、新しいリタゲの仕組みであったため、実際に営業をしていく上での売りやすさを考えた時に、既存事業とシナジーがあったほうが、学習コストも低くすみ既存の顧客に対しても提案がしやすいだろう、という仮説を立てていました(実際に売却後の状況を見ると、この読みは正しかったと思います)。

以上の3つの条件を踏まえて売却先を検討した結果、世界で広告プラットフォーム事業を展開し、Web接客ツールChamo(現GENIEE CHAT)など豊富なマーケティングツールを展開する上場企業である、株式会社ジーニー社への売却がベストだという結論に至りました。ジーニー社の⼯藤代表とは、経営者交流会を通して⾯識があったので、仲介会社を通さずに、直接僕からFacebookメッセンジャーで売却提案のメッセージを送り、その後、何度か交渉を重ねて、無事2021年7月に会社を売却するに至りました。代表の工藤さんも含めて、株式会社ジーニーの方々は優しく親身に対応していただき、とても感謝しています。顧客データを交えた施策を提供している会社さんで売却を考えている会社さんは選択肢として最高の会社さんだと思っています。

■売却までの一連の流れを通して学んだ事

評論家の方々の中には、自分で身をもって体験もしていないのに、「サービスがPMFしたら、資金調達してお金をどんどん突っ込むべきだ」のような、twitterかどこかで見たような意見をそのまますぐに当てはめたがる人がいますが、ここまでの文章で述べてきたように、ビジネスは一度PMFしたからと言ってそこで終わりというような単純なものではありません。そういう意味で、僕は自分自身の体験を通して、下記のようなことについて、深く考え、深く学ぶことができたと思っています。

  • ある領域には刺さっても、ある領域には全く刺さらない、ということは普通によくあるので、そこをどのように解決するか?

  • 営業のしやすさ、営業後の手離れの良さ、代理店力学を理解した上での事業モデルの設計をどうするか?

  • 獲得前のコストと獲得後のコストを比較して、どのようにビジネスモデルを設計するか?

  • 時間軸として常に課題があるとは限らず、常に課題は移動しているため、それを踏まえると本当にその課題はその業界の物語にあっているのか?

  • 予算はどれだけあるのか?

  • 仮に、この事業が自分にとって人生最後の事業だとした場合、本当にこれが自分がやりたい事業なのか?

■これからやること 

売却を無事に終えた僕は、休む間もなく新会社を設立したものの、3~4カ月の間は燃え尽き症候群で人生の迷走をしていた時期もありました。でも今は新会社で、優秀で志の高い仲間たちと共に新たな挑戦をステルスで進めています。もちろん売却後は長期で休暇を取ることもできたのですが、そうしなかったのは、新しい事業を立ち上げて仮説検証を繰り返し、考えたことを社会実装して実現させることのほうが、僕にとって一番楽しいことであると感じたからです。
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ビジネスというのは椅⼦取りゲームのようなもので、椅⼦(ビジネスチャンス)を⾒つけていち早く座ることが重要 
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最初にこんな例え話をしましたが、資本⼒がないスタートアップが椅⼦取りゲームを制するためには、スピードは勿論のこと、椅⼦を⾒つける=社会の流れを読んで質の高い仮説を⽴てる、ということが重要だと思います。そのため、今後の方向性としては以下のポイントにマッチしたサービスを構築しています。

外貨をより稼ぐ方向性

個人ベースでも会社ベースでも、これからは外貨を稼ぐ必要性がより高まっていくと思っています。それはもちろん現在の円安や日本の国際競争力の低下に起因する話でもあるのですが、より外貨を稼ぐことができるようになり、外貨を稼ぐことができるようになれば、人生の選択肢も増やせるようになると思っています。

上のサービスを作るために、全力を尽くしていきたいと思います。長文読了ありがとうございました。




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