連続テレビ小説「瞳」総括感想その1
先日、2008年上半期に放送された連続テレビ小説『瞳』を見終えました。
展開ありきの不自然な台詞や描写、描写不足、詰めの甘さ、何もかも説明してしまうナレーション等が気になった一方で、今作がやろうとしていたことは十分伝わってきたため書き残しておきます。
総括感想その1は、主にストーリーに関してです。
はじめに~本作の舞台
本作について端的に説明すると、NHKアーカイブスの説明の通りです。
本作で描かれるのは東京都中央区月島にある一本木家。
世帯主である一本木勝太郎は父から継いだ一本木洋品店を営む、根っからの月島っ子。住吉大社の夏祭りを誰よりも愛する人です。里親家庭としては10年以上のキャリアを持ち、既に1人の里子卒業を見届けています。
このドラマは勝太郎の孫・瞳が月島で勝太郎と共に里子を育てる暮らしを始める所をスタートに、1年半程の出来事が語られていきます。
そんな一本木家を温かく見守るのが、長屋の住人や月島の人々です。
一本木家のご近所さんには築地で鰹節屋・石田商店を営む石田勇次郎・勇蔵親子。勇次郎と勝太郎は小学校時代からの親友です。また、一人暮らしの
横山ウメからは夕ご飯のおかずを分けてもらう仲です。
路地を出て少し歩くと飲み屋・まつりを営む「月島のマドンナ」ことマリ、もんじゃ焼き屋「あにおとうと」を営む中根誠・博兄弟、月島のダンスの名人で自分の練習スタジオを持ち、夜は若者向けのバーを営むローズがいます。
築地の石田商店の向かいには石田親子をはじめとする築地の商売人達が集う森本食堂があり、森本大介・正介兄弟が多様なサイズの丼を揃えて注文に
答えます。瞳は午前中この食堂でアルバイトをして、ダンス学校の学費の
一部を捻出しています。
①信頼関係を築いていく過程(1)
この作品は対立を経て信頼関係が生まれ、家族や仲間になっていく過程が
複数人物により描かれます。そしてその積み重ねが、ヒロインの親世代の
対立の解消に少なからず働くことになります。
まず最初に、「不仲だった祖父と母・離婚した父」について第1週などで語られていることを元に、時系列にまとめておきます。
実は、当時の制作発表の段階でも不仲だった祖父と母、離婚した父が最終的に繋がることは明かされています。そのため視聴者は「ヒロインの親世代の対立がどう解消されるのか」を脇に置いて視聴することになります。
今作の主な登場人物として、
ヒロイン・瞳
里子達3人
里子卒業生・恵子
ヒロインの母・百子
ヒロインの祖父・勝太郎
以上を設定してみました。
まずはヒロインから説明していきます。
ヒロイン・瞳
本作の主人公である瞳は、「個人と個人が対立を経て、家族や仲間になる」という本作のテーマを中学2年生の明・小学5年生の友梨亜・小学2年生の将太3人の里子達との信頼関係の構築で一番に体現します。
ここで重要なのが、児童相談センター(里親として里子を育てる養育家庭の認定を管轄する公的機関)の職員から「里子達とは(予め児童相談センターから里子のトラウマ経験などを教えてもらうのではなく)、友達を作っていくように日々の暮らしの喧嘩や対立を経て信頼関係を築いていってほしい」という見解が提示される点です。
複雑な背景を持つ里子達との信頼関係構築の過程は友達付き合いの過程とほぼ同一視することができ、一本木家は里親家庭であるため特殊で視聴者は所謂”お客様目線”で物語を鑑賞しそうなところから、目線がグッと低くなります。
里子達の過去は里子達の気持ちが大きく揺れる出来事があった時に、勝太郎が瞳に話すことで視聴者も知ることになります。
親からの虐待、育児放棄といった背景を持つ故、理解が難しかったり衝突をしながらも瞳は里子達と向き合い、3人と信頼関係を作ります(明に対しては瞳より築地の人々の方が関わっているため、後に瞳が間に入って明に向き合うエピソードが描かれます)。最初は勝太郎が主導していた所から徐々に瞳が関わっていくようになり、特に友梨亜の成長は瞳がいてこそのものになります。
こうして舞台が整った後で、渋谷のダンス学校での物語が始まります。物語の終盤は父・長瀬渡と偶然再会したことを発端に、勝太郎と百子、長瀬の仲介役に回ることになります。
②バラバラでも一緒になる意義
瞳が一定程度里子達との信頼関係を築いてから始まるのが、渋谷のダンス学校での物語。ここでも仲間を作る過程が描かれます。
ダンス学校での物語の中で強調されているのが、バラバラという言葉です。
瞳が目をつけたクラスメイトは実力者である由香と純子。3人はダンスに打ち込む背景が異なります。
瞳は、仲間を見つけてダンスビートに出場するため。
純子は、上京した自分がどこまでダンスでやっていけるかを試すため。
由香は、クラスの講師・RAYのテクニックを盗んで、純粋に自分の実力を高めるため。
ダンススタイルの好みや実力にも違いがある3人。だから初めて踊った時は息が合わず、途中終了になります。
違うクラスでありながらも瞳が最初に知り合った萌の紹介のショーの
アルバイトをやる理由も、
瞳は、ユニット結成の足掛かりにするため。
純子は、自分を売り込むため(だったが、着ぐるみショーと知った時は振りの変更OKを聞いて、仕方がなく)。
由香は、折り合いが悪い親を頼らずに暮らす費用を稼ぐため。
ここでも3人のバラバラが強調されています。
このような3人がユニット結成・夏のコンテスト(夏コン)出場に繋がったのは、月島の祭りで一緒に踊る快感を得たから。しかしこの時も、最初は純子と由佳が個人賞を狙いユニットとしての出来を後回しにします。
ユニット名や大阪から来た出場チームから受ける刺激を受けた後で優勝一本に目標を定め、瞳の実力不足のカバーも間に合ってユニットは夏コン優勝を実現させます。
その後、ダンスビート東京予選のエントリー直前では純子と由香それぞれに家族の問題が降りかかります。
親の会社の倒産でダンスどころではなくなったと言う由香は、純子から根性ある子だと思ったのにここで弱気になるのは許せないと言われます。
母が交通事故に遭ったのは実家の餃子屋を継がず困らせているからと銀行員の兄に言われる純子は、ダンスと家庭の事情は別だと説得を試みる瞳を見て、兄に折衷案(ダンスビート予選が通過できなかったら店を継ぐ)を提案します。
3人が一緒になるまで、一緒になった後も問題となるのは3人がバラバラであること。それでも瞳は仲間になることを諦めず、純子と由佳は瞳によってできた仲間の恩恵を受けることができました。
③好きなことを仕事にする難しさと覚悟
ダンスを通じて仲間ができる過程を描くと同時に描かれていたのは、自分の好きなことを仕事にする難しさと覚悟です。
ユニットはダンスビート予選に挑むも結果は敗退。純子と由佳と違い、瞳はスカウトの対象外でした。さしたる実績を持たない(ダンスビート予選で「クラブのコンテストのチャンピオン」とアナウンスがあっても歓声はあがらず、箔がついたとは言い難い)瞳はダンスを習った先でどうするのか悩みます。
その後、アルバイトでやっていたダンスを教えてほしいという幼稚園からの依頼や友梨亜からのダンス部のコーチ依頼でダンスの意義を感じ、それを伝えるべくダンススタジオを開設する展開は、瞳がダンスを仕事にする難しさと喜びを踏まえ、月島でダンスとともに生きていく覚悟を描いたと筆者は考えます。
ダンスビート予選に出場するまでの瞳は「札幌では仲間の脱退を受け出場できなかったダンスビートの予選に出たい」という目的がそのままダンスのモチベーションとなっており、着ぐるみダンスもユニットも「やりたいと思うからやる」と瞳達の自己実現&自己完結的な考え方が土台になっていました。
しかし、ダンスビート前の純子の問題の中で社会性が問われます。
誰でもダンスを習えばプロになれる訳ではないから君達は楽しむことしか考えていない。だから妹はダンスより餃子屋にいた方がよっぽど人のためになる、と。
自分達が楽しむことしか考えていないという趣旨の純子の兄の話が瞳に返ってくることになり、ダンスを習って夢を追いかけた自分が月島で何をできるか考えることになるのです。
瞳は、老人会の団体客相手に盆踊りの振りを入れた着ぐるみダンスで創意工夫をしても受け入れられなかった悔しさを経験し、ダンスが絡まない話ですが序盤で電器屋が閉店するエピソードから、堅実な商売をしていても競合が現れたり求める相手が少なくなったら事業は終わることを感じています。
瞳がダンススタジオを開設したのは自己満足で終わらないダンスの魅力を打ち出し、ダンスに関わる自分を諦めない瞳の意志が形になったものです。
プロダンサーとしてデビューし小さな場所から実力でチャンスを掴み、活躍していく…という筋書きではなかったのは、本作の作中の時間経過が1年半程と朝ドラとしては非常に短いスパンの物語であったことと関係します。それ故、自分が好きなもの・生きがいを仕事に連結”させようとする”姿を描くことになり、本作ならではの描写になったと感じます。
③信頼関係を築いていく過程(2)
里子達
里子達は勝太郎を間に挟んで瞳と一定の信頼関係を築いた後、外の人間との関わりを築き始めます。
明は、自分と仲良くしてくれるクラスメイト・奈緒子と。
友梨亜は、中学校入学後に仲良くなった境野涼子と。
将太は、引き取りたいと願い出た母・美妃恵と。
自分の過去が蒸し返される、大人の横やりが入る、信じていい大人かわからない等、どのエピソードも人との対立や人が関わるが故の葛藤を経て決着がつきます。しかしどれも人間関係の始まりにすぎません。
瞳と同じように、家(近所)で信頼関係を築いた後、それまで接点がなかった人間との関わりを志向するという里子達の成長が描かれています。
里子卒業生・恵子
勝太郎と節子の元で育って独立し、今は看護師として働きながら時折一本木家で家事を手伝う恵子は瞳にとって頼もしい先輩のような存在でした。瞳より月島歴が長いため、勇蔵とは幼馴染…ですが、初恋を邪魔されたことで犬猿の仲になっています。
恵子は「結婚して温かい家庭を作る」という里子が里親家庭で育つ中で生まれた夢を掴む過程を辿っていました。里子である恵子がこのような夢を持ったのは、一本木家が里子にとって本当の家族のような家庭であったことを裏付けています。それと同時に、勇蔵を「自分のことを一番理解している人」=自分の夫として出会い直すまでの過程を描いています。
恵子は瞳から、勝太郎から結婚の許しを得た相手・勝俣の浮気を知ります。
勝俣への信頼は、浮気を聞いても勝俣を疑わないぐらい。しかし浮気が表沙汰になり恵子を取らないと判明します。勇蔵は勝俣との話し合いの中で「恵子はお前に元の彼女を忘れさせるために付き合ったのではない」と一喝します。
その後しばらくして築地の病院に勤務するようになった恵子は瞳のアルバイト先に度々現れるようになり、勇蔵は恵子を気にするようになります。そんな恵子は「男の人との関係を持つのが怖くなってしまった」と言いながらも、再び見合いをすることになります。見合い当日、恵子への思いに気がついた勇蔵が見合い会場に駆け込んで恵子への思いをぶつけ、見合い相手を下がらせます。初恋を邪魔された時のような勇蔵の身勝手さを非難しながらも、これを機に交際が始まりやがてプロポーズを承諾します。
破談を経験しても自分の夢を諦めない恵子の行動があったから、勇蔵が土壇場で恵子への思いに気づけた。そして恵子も勇蔵が自分を大切に思っているのを身に染みて感じていたからこそ、勇蔵を迎えることができたのでした。
母・百子
月島に残って里親になる瞳と別れ札幌に帰った百子でしたが、数か月後に東京支社へ転勤したことで勝太郎と関わる機会が増えます。
百子で描かれたのは、瞳や里子達を通じて変化した勝太郎への意識です。
恵子が勝俣と結婚すると聞いた際は、結婚を祝福すると同時に「自分が家を出ていった後一本木家に来て育った、お父さんの大事な娘」と捉えます。自分も浮気されたことがあるが故なのか、瞳から恵子の結婚相手の浮気を見たと聞いた時は、瞳と共に勝俣のアパートで待ち伏せをしたりと踏み込んだ行動にでます。
勝太郎が怪我で入院した時は、瞳に説得されて自分を「大好きなお父さんの敵」と見る里子達の世話をします。百子は勝太郎と違うやり方に里子達から反発されながらも、節子直伝の生姜湯をきっかけに信頼関係が生まれます。
最初は勝太郎と顔を合わせて言い合いになると勝太郎を罵っている印象でしかなかった所が、百子は勝太郎の大切な人達と関わる中で、自分達親子が
上手くいってないのは互いに意地を張っているからだと気づきます。
しかし、お互い素直になれば母に長年悲しい思いをさせたのは何だったのか、お父さんもきっと同じ気持ち、と対立の”解消”に恐れる内面が語られます。
勝太郎が退院してからは瞳のダンスビートを一緒に見に行ったり、百子のマンションに来て食事をするまで親子の仲は回復します。会うだけで喧嘩になっていた勝太郎・百子親子は徐々にほとぼりが冷めていきました。
その後、元夫である長瀬渡が物語に絡むと再び勝太郎とぶつかります。かつて長瀬が家を売って欲しいと頭を下げた時に「家を売ったら祭りができなくなる」と言った勝太郎に、自分と祭りのどちらが好きかと聞いたら「祭りだ」と答えて傷ついたと話し、「もっとお父さんといろんな話したかったわよ」と当時の本音が出ます。
喧嘩とはいっても勝太郎との仲が物語の振り出しに戻ったのではなく、より良い関係を望んでの喧嘩になるのです。
祖父・勝太郎
このドラマは勝太郎に大きな存在感がありました。瞳が里子達との関わりに悩んだ時は助言をし、里子達に信頼関係を台無しにする嘘について説いたり、入院した時に百子が里子を看病した事を写真の節子に報告したり、実の母に会いたいという将太の気持ちを受け止めたり…
ドラマの終盤は、瞳が父・長瀬と偶然再会したのをきっかけに勝太郎が中心となって展開されます。長瀬は神田にデザイン会社を構え、例大祭のポスター制作の打ち合わせで月島に来ていた所でした。
そのことを聞くと、勝太郎は瞳に長瀬と会ったことは忘れろと言うも、長瀬は瞳にとって父親のためしぶしぶ静観します。一方で、百子が長瀬に会っていると知ると前述したように百子とぶつかります。さらに勝太郎は、長瀬が過去の非礼を謝りたいと言っていると知った時長瀬を強く拒絶しますが、勇次郎の説得により例大祭が間近に迫る中で面会を許します。
長瀬は自分のせいで百子と月島の一本木家との縁が切れてしまったこと、
瞳や百子に温かい家族を作れなかったことを謝り、今ここにいるのは瞳や
百子、勝太郎から逃げずに向き合っていこうという覚悟があるからと話します。
この場面で勝太郎は、これまでの生活史を踏まえて2人それぞれを受け止めています。
勝太郎は頭を下げた長瀬に、かつて自分も百子の世話を節子に押し付け、父親として向き合わないまま百子が出ていってしまったと話します。そして、その後里親として里子を育てる中で家族は作っていくものだと気づいたと言います。
勝太郎がこう話すのは、里子を育ててきた(作中外の)過去の蓄積に加え、作中で描かれた1年あまりの出来事も大きく働いています。
里親になると決め里子達と信頼関係を作り、ダンスを通じて地域の人を
巻き込んでいった瞳。
瞳と信頼関係を築いた後は、それぞれ外部の人と新たに関係を築き始めた
里子3人。
破談を経験した後、かつてご近所さんでありながら犬猿の仲だった勇蔵を
「他に代わりがないくらい安心できる人」と言って結婚を承諾した恵子。
そして、元夫を巡る喧嘩を重ねながらも、瞳を間に挟みながら徐々に勝太郎に向ける態度が変化した百子。
勝太郎は、自分の縁者達が対立を経て誰かと繋がる様子に何度も立ち会ってきました。「信頼関係が生まれること」「対立を経て家族・仲間になる
こと」の繰り返しというドラマの積み重ねが、勝太郎に強く働きかけているのがわかります。
こうして勝太郎は長瀬の謝罪と覚悟を受け止め、百子に対し父親として家族を作ってやれていなかったと謝ります。
とはいっても、ここまで実に18年。
勝太郎の鬱憤を晴らすため、本祭りである今年(2008年)の夏、長瀬が千貫神輿を担ぐことになるのでした。
「あんたがどんだけの男になったのか、見せてくださいよ」という長瀬への言葉は、百子に対し空白の18年を「家族が家族になるために必要だった時間」と位置づけようとする気持ちが表れているように思います。
祭りの当日徹夜明けになるというアクシデントがありながらも、瞳の助けでトレーニングを積んだ長瀬が神輿を担ぎ切る姿を見届けた勝太郎。これにて一本木家は、再び家族のスタートラインを切ったことになるのでした。
まとめ
本作の全体の流れは以下の通りです。
全ては説明しきれていませんが、月島を主な舞台にしながら様々に話が展開されていることがわかります。サイドストーリーとして語られているのも、人と人が関わるが故におきる人間関係のトラブルやその解決がベースになっています。
ストーリー概要についてはこちら↓
感想はその2に続きます。
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