連続テレビ小説「瞳」ストーリー概要

 ここでは2008年上半期放送の連続テレビ小説「瞳」の物語がどのように進行していったか、ストーリー概要としてざっくりと章に分けて振り返ります。


①里子達との出会い編(第1~4週)

 祖母・節子の葬式に参列するため母・百子と17年ぶりに月島を訪れた瞳が、祖父・勝太郎の補助者として明・友梨亜・将太3人の里子達を育てる暮らしが始まる章。
 ここでは節子が亡くなったことで養育家庭の認定内容と食い違い、勝太郎が里親を続けられなくなるという一本木家特有の里親家庭の事情に触れて不安になる里子達や、瞳が里子達に向き合い徐々に里親としての姿勢が整っていく様子が描かれました。

 ここで扱われているのは人と人の気持ちが通じ合うことの難しさです。
 実の家族であっても意思疎通が難しいというのに、相手が里子となると大人に対する不信感が強くある故さらに難しくなります。
 瞳は日々の暮らしの中でおこる大小様々な出来事を発端に、時間をかけて
里子達と向き合います。月島に来たばかりの頃は勝太郎が主導していた里子達との関わりも徐々に瞳が入る場面が増えていき、特に友梨亜は瞳がいたからこそ大きく成長しました。

 友梨亜の成長は自分の気持ちを伝える勇気を持ったこと。衝突や対立などを経て人と人の間に信頼関係が生まれる、そこで大事なのはコミュニケーションだと家族が家族になる過程を描いています。

②ダンスと里親編(第5~6週)

 アルバイトをしながら里子達を育てる暮らしに渋谷のダンス学校が加わり、里親とダンスの両立を模索する章。里子達との出会い編とまとめてもよかったかもしれませんが、瞳と里子達のエピソードから本格的にダンス学校でのエピソードに移るジャンクションのような期間にあたるので別個にして章立てします。

 4週までは瞳と里子達に少しずつ信頼関係が出来ていく様子が描かれていましたが、5週ではダンスと里親の両立を巡り瞳と勝太郎が対立します。
 ダンスに夢中になって夕食の準備を忘れ、「長屋の花見」も参加せず朝帰りをしたことで勝太郎にダンスを辞めろと言われ月島を飛び出します。ダンスと里親の両立ができていなかった自分を反省し、どちらも頑張るとの心意気で月島に戻ります。

 ここで「2つの両立を目指す」と瞳が宣言し行動する所で終わらず、何でも一人でやることの限界を描いたのが第6週です。
 頑張りすぎた瞳が倒れ休養を取っている時と百子の東京出張が重なり、瞳は数日百子が泊まるホテルで寝泊まりすることに。復帰して月島に帰ってきた瞳は里子達の世話のためダンスを辞めると宣言しましたが、ダンススクールの先生からの言葉でダンスへの情熱を蘇らせます。一方一本木家では瞳がいない間に勝太郎と里子達が家事を回した経験と、酒に酔った勢いで勝太郎に話したダンスへの気持ちを受けて、瞳がダンスに集中する時間を確保するため瞳がやっていた家事を分担することになりました。

 家族との対立→仲直りという流れにダンスという瞳の自己実現が絡み、一連のステップが発展した形で提示されています。第5週は瞳の不注意で家族に迷惑が及んだため瞳の反省だけが求められましたが、6週は家事とダンスの両立を図るが故の瞳の負担が問題になったため、勝太郎や里子達も生活習慣の改善を求められています。瞳を迎え入れる側も、瞳を受け入れるための努力が必要であると描いたのです。
「どちらも頑張る」という宣言を一方的に聴くだけでなく、それを実現させる方法を考えなくてはいけない。気持ちが通じ合う難しさに加え、気持ちが通じた後はその気持ちに答える行動をとる大切さを扱っています。

自分を気にかける人が身の回りにいる。
心と体を元気づける人がいる。
一人では難しい事も、自分の周りにいる人が力を貸してくれる。
人と人の繋がりを大切にする考えは、ダンス学校でも生かされることになります。 

③ダンス学校編(第7~20週)

瞳のダンス学校に纏わる物語がメインになって展開される、本作のボリュームゾーンにあたる章。その中で里子や一本木家と交流のある人の物語が章全体を貫く形、又はサイドストーリーとして語られます。
最初に提示された事件や対立などを経て信頼関係ができるという流れが他の人物にも適用されます。同時にダンス学校関係者が月島へ来たり、月島の住人達が瞳のダンスの話題に触れたりといった横の広がりが増していきます。

瞳のダンス学校物語と共に章全体で語られているのは、勝太郎と百子の関係修復です。

瞳のダンス学校物語

渋谷にある瞳のダンス学校のクラスで出会ったのは、ツートップ・純子と
由佳。違うクラスながらも最初に知り合った萌も加えたダンス学校を通して描かれているのは、違う個性が集まり仲間になることに意味があるということです。本作のダンサー達は「一人で踊る」という選択肢を選んでいないか、選んでも失敗しています。それは互いを理解した上で仲間となると、その効果が自分へ帰ってくるという主張が込められていることの現れです。

それを象徴するように、瞳、純子、由香の3人はダンスに打ち込む目的も、ダンスのスタイル・腕前も異なります(瞳に至っては「デカいから飛び道具になる」というダンスの実力を無視した個性が2人から見出される始末)。だから最初は3人で踊っても失敗してしまいます。それぞれ実力を出し切るためといって2人と1人に分かれてバックダンサーのオーディションに挑んでも、結果はどちらも不合格でした。

そんな瞳達3人がショーのアルバイト(実際は着ぐるみショー)を経てクラブ主催の夏のコンテスト(夏コン)で優勝できたのは、3人が互いに気持ちを受け取り合ったからです。瞳が住む月島の夏祭りで「仲間と一緒に踊る快感」を得た純子と由佳は、瞳がずっと提案していたユニット結成と夏コン出場にようやく頷きます。一方で瞳は、このユニットは夏コンが終われば解散という意識を受け取り、2人との実力の差を埋める努力をします。気持ちを理解し気持ちに答えた3人に結果がついてきたのは、仲間がいることへの賛辞になりました。
お祭りのような熱気ではなく、皆が頑張って楽しく踊れたのが良かったという瞳に2人は共感し、全国規模のダンスの大会であるダンスビートに挑戦することになります。

そんなダンスビート東京予選のエントリー直前で純子と由佳に家族が絡む問題が発生するエピソードでは、そうしてできた仲間の存在に救われます。仲間がいなければ諦めていたであろう所がそうならなかったというのは、仲間と共にいるから自分のダンスを追求できたことを示しています。

ダンスビート東京予選でユニットは敗退するも、純子と由佳はスカウトされました。1人になってしまった瞳が次に考えたのは、ダンスに関わる自分をどう月島で実現させるかでした。

勝太郎と百子

札幌に本社を構える化粧品会社で営業本部長として働いていた百子は、夫を巡って勝太郎と対立し17年余りの間絶縁関係になっていました。節子の通夜の場では勝太郎と喧嘩が勃発(第1週)。瞳が里親とダンスの両立に疲弊し倒れた際には、ダンスに理解を見せておいて瞳をこき使っていると勝太郎を非難していました(第6週)。
しかし銀座にある東京支社へ転勤してからは、瞳や勝太郎と関わる機会が増えます。里子卒業生・恵子が浮気されていると瞳から聞いたときは、恵子を「お父さんの大事な娘」と言って相手のアパートで待ち伏せしたり、勝太郎が怪我で入院した時は瞳を助けるという名目で里子達の世話をし、やがて信頼関係ができます。

勝太郎との信頼関係がある人達と関わる中で、百子は自分達親子が上手くいってないのは互いに意地を張っているからだと気が付く一方、長年の時の重みで決定的な和解に踏み切れないと感じます。

それでも2人の間には雪解けの様子が見られるようになります。
自分にとっては気難しい人であっても、その人を大切に思う人と関わる中で意識が変わっていく。意識が変われば相手もそれに応じた受け答えになっていく。一緒にいるだけで喧嘩になっていた親子は徐々にその内容が他愛のないものに変わり、終盤は2人が一緒に瞳の将来を考えるまでになります。2人は時間をかけてほとぼりが冷めていくのです。

その他のサイドストーリー

章を通じて扱われていたのはこの2点ですが、サイドストーリーに目を向けると、どれも自分と関わる相手との信頼関係に関わるエピソードになっています。

  • 結婚を決めた相手への信頼が裏切られる悲しみと、それを受け止める悲しみ(恵子とフィアンセ・勝俣)

  • 過去を知り、追体験までした相手から受け取る「あなたを理解したい」という気持ち(明とガールフレンド・奈緒子)

  • 家族との対立を恐れた故に家族を作れてなかったという後悔と新たな決意(ウメとその息子・哲夫、哲夫の近所仲間であった百子)

  • 親との衝突を避けるための嘘が発覚して破談            (将太の母・美紀恵と婚約者・今里満)

  • 自分と長らく関わりがなかった人と踏み出す新生活          (将太と美紀恵)(美紀恵と美紀恵の父・水島利男)

  • 犬猿の仲の幼馴染との出会い直しと結婚(恵子と勇蔵)

瞳、百子、里子達、恵子など勝太郎に関わる人たちがそれぞれ対立や衝突、葛藤しながらも、誰かと繋がっていきます。

④ダンスと月島編(第21~22週)

瞳が「ダンスに関わる自分」を月島でどう実現するのか描かれた章。
これまでダンスビートに出場という自己完結的だった瞳のダンスが、幼稚園での披露や中学校のダンス部の指導という形で社会性を増していきます。その下地になっていたアルバイトの着ぐるみダンスも瞳にとってはユニット結成の仲間作りの一貫という側面が強くあったため、ダンスが人にもたらす効果を客観的に捉えるのがこの章になります。

これまで瞳がダンスをしてきた環境は、当然の如く周囲はヒップホップに
情熱を燃やす人達ばかりでした。しかし、そういう場から離れると必ずしも最初からヒップホップへのやる気があったり、理解がある人ばかりとは限りません。自分には無理だという人・偏見を抱く人がいるのはおかしいことではなく、社会性が伴うとはそういった人たちに向き合うことを指します。

そんな人達にダンスを根付かせる鍵となったのが、人間の可能性が広がるというダンスによる効果です。ダンスを通して生まれた達成感や自信、仲間への意識が自分を変える。そんな自分が人を動かし、よりよい人間関係へと繋がっていく。中学校のダンス部の部員の祖父が孫がダンスをやることに難色を示すも、ダンスへの思いを受け止めたエピソードはそのことを表しています。
このドラマの序盤で描いたのは、気持ちを通じ合わせることの難しさでした。そこをダンスなら乗り越えられるかもしれない。乗り越えるきっかけになるかもしれない。そうしたらお互い元気になり、仲間になれる。瞳は月島の人達にダンスを教える中で、自分のダンスの原点に仲間作りの意識があったことを思い出したのでしょう。
幼稚園の交流会の成功は瞳のダンススタジオ開設に繋がり、世代を問わず月島の人達が集う場として機能していきます。

3週で閉店のエピソードが描かれた電器屋が売っていた製品のように、
ダンスが月島の人たちの日常生活に欠かせないものかと問われると、そんなことはありません。それでも瞳はダンスに価値を見出し、言葉がなくても気持ちが通じ合うツールとして月島の人達にダンスの魅力を呼びかけています。

瞳が出会った伝説のダンサー・KENが言った「ダンス・イズ・ライフ」とは直訳すると「ダンスは人生」。その人の人生がダンスに現れるという意味でした。
この言葉を、瞳は「人生にダンスを」と自分なりに再解釈したのです。

⑤長瀬渡編(第23~26週)

瞳の父・長瀬渡の登場、長瀬の百子・勝太郎との面会、例大祭、エピローグと怒濤の展開を繰り広げる最終章。これまで作中で提示されていた事柄をもってこの物語の根源ともいえる瞳の父に向き合います。

長瀬渡が登場したことで、この物語が何を描いてきたのかが一層鮮明になります。何度も言及している通りそれは個人と個人が対立を経て信頼関係を
成し、家族や仲間となる過程
です。

このドラマは家族や仲間になるためには人間同士の対立・苦悩が伴い時間がかかることを扱ってきました。事情や目的、価値観が異なる相手との対立は簡単に解決しませんし、人を不幸にしてしまった・不幸に触れた人の怒りや不安、恐れ、生きていくための熾烈な競争等々家族や仲間になる過程には人間同士の軋轢があります。それらは心乱されるものである故、避けたい/避けたかったものと捉えられることがあります。
でも、信頼関係を作る過程で対立することは、人間が他者と心を通わせるため・社会の中で共に生きるためには忌避すべきものではありません。それがあってこそ互いに信頼が生まれ、連帯が生まれるのが人間社会です。

百子と長瀬は互いに信頼関係が構築されてませんでした。
百子と長瀬に欠けていたのは、自分達が対等な力関係の夫婦でないからこそ、何でも話せるような家族を努力して作る必要があったという意識です。
そのことに気づけなかった理由は、勝太郎が父親として百子に向き合わなかった反動で、百子が幸せを追い求めるあまり結婚相手を求めすぎてしまっていたからです。

勝太郎は、家族は与えられた時完成するのではなく絶えず努力して作っていくものという気づきを持って長瀬の謝罪と覚悟を受け止め、百子に父親として家族を作ってやれてなかったと謝りました。
とはいえ、ここまでの18年分の思いは様々な感情が混ざり合うもの。
勝太郎の複雑な思い、即ち長瀬を信用できるか否かの最後の判断は大好きな祭りで決めることになるのでした。

例大祭で千貫神輿リベンジに挑み、やり遂げた長瀬。これを持って百子と
復縁する訳でも、瞳や勝太郎と同居し始める訳でもありません。

家族は与えられるのではなく、絶えず努力して作っていくもの。

これからの瞳と両親、勝太郎は集まったその時その時に家族ができていく。
瞳、百子、長瀬が一つ屋根の下で暮らさないのは「望まない別離」では
なく、それぞれの日々の生活の中で家族を作る努力を課した覚悟です。

百子、勝太郎、長瀬を囲んだ瞳
「きっと、今日という一生忘れられない日に、乾杯」

「瞳」第154回より

これから里子達はどんな風に育っていくのか?
瞳のダンスはどう発展していくのか?
瞳の家族の交流は続いていくのか?

それらはまた別のお話。

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