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第六感…?(ある夏の日のこと)

 ある夏の日のこと、僕は仲間と6人でラフティングをしに旅行へ出かけた。ラフティングとは、8名程度が定員の大型ゴムボートにガイドが乗り合わせ川くだりを楽しむレジャーで、僕にとって初めての経験だった。夏の積乱雲のせいか、前日は土砂降りの雨だったが、晴れ男を自負する僕の後押しもあり、当日はすっきりとした快晴だった。

 ウエットスーツの上にライフジャケットを羽織り、準備は万端。その後、乗り合わせるガイドからラフティングについての説明を受けた。
 まず、「漕いで」「ストップ」「掴まって」「しゃがんで」等のガイドの指示に従うこと。万一、ボートから落ちたら、手足を広げずラッコのポーズを取って、流れに身を任せること。急流の中、手足を伸ばした状態で、岩などの危険物にぶつかってしまったら、骨折や怪我の怖れがあるためのようだ。
 あまり泳ぎが得意でない僕は急に怖くなって、ラフティング経験のある仲間に「どのくらいの頻度でボートから落ちるものなの?」と聞いてみた。友人は、「今までの経験上、一度もない」と言ってくれて、僕はホッと胸を撫でおろした。

 その他、細かい注意事項を聞いた後、いよいよ乗船。日常とかけなはれた光景にワクワク感が募る。太陽の光に照らされた木々の緑と水面がキラキラと輝いている。川の流れはかなり早く、ボートはぐんぐん進んで行き、絶えず上がる水しぶきにテンションも上昇。ガイドの指示に従いながら、パドルを漕いだり、船内にしゃがんだりと、クルーたちと協力してミッションをこなしていく。出発後しばらくして、ふと僕の視界の右側に、「増水注意報」という文字が点滅している電光掲示板が目に入った。僕は「そうだよなぁ。昨日は土砂降りだったもんなぁ。今日のラフティングは、通常時よりもスリリングな回になるかもしれない。」とぼんやり考えていた。といっても、僕にとってこれが初めてのラフティングだったので、通常回と比較する術もないのだけれど。

 ボートには、6名+ガイドの計7名が乗船し、クルーは全員友人だったので、リラックスして臨めた。2名ずつが並んで座り、ガイドを先頭に僕は列の3番目にいた。前が見えない分、この先にどんな急流や岩などによる衝撃が待ち受けているのかが全く予測できず、それはそれでエキサイティングだった。

 あるポイントに差し掛かった時、ガイドが「漕いで」と指示を出した。その時、僕は「嘘だろぉ」と思った。今振り返ってみても、前が見えていない僕が、何でそう思ったのかは分からない。人一倍ビビりだったからかもしれない。ただ、なんとなく漕いではいけない気がして、他のクルーが指示どおりにボートから乗り出してパドルを漕いでいる中、僕は一人だけ船内でしゃがんでいた。次の瞬間、バーン!!という強い衝撃がボートに走って、反射的に僕はギュッと目をつむった。その一瞬の衝撃の後、恐る恐る目を開けてみると、僕以外の全員が川へ投げ出されていた。もちろんガイドも居ない。僕ひとりがポツンとボートに乗っているそのシュールな光景にしばらく呆然としていると、ほどなくガイドがボートに戻ってきて、仲間たちも次々と自力でボートに戻ってきた。僕以外の仲間たちは、水のレジャーに慣れていて、ガイドにとっては当たり回だったかもしれない。遠くの方に流されてしまった友人も、しばらくしてガイドによって救出され、無事にその後の行程に進むことが出来た。

 水のレジャーに慣れている友人たちにとっては、このイベントはかなり刺激的な体験だったようで、さらにテンションが上がっていた。その後の行程では、広い川に出て、比較的流れも穏やかだったため、あまり泳ぎが得意でない僕にとっても、存分に楽しむことが出来た。
 本来であればガイドを信じ、その指示にちゃんと従うべきだが、あの瞬間だけは、自分の第六感を信じてしゃがむ判断ができたのは幸いだった。
 何はともあれ、仲間たち全員が良い思い出としてこの旅を締めくくることができたことに感謝したい。
 

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