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2回目のフルマラソン

40㎞地点手前。後ろから追い付いたミヤタ君に、ポンと肩を叩かれた。
「やっと福田に追いついたよ」
「おー、キツイなあ。オレもう走れないから、先に行っちゃって」
タッ タッ タッ タッ・・・。
蛍光オレンジの背中は、ゆっくりと、しかし崩れそうもないリズムで進んでいた。そうして弧のきついカーブが続く湖畔道路の先にその姿は消えて行った。
オレはその10㎞も手前から“歩いて100歩、走って100歩”を課し、辛い時は声に出し数えて前進していた。

イチ、ニ、サン、シー、ゴー、ロク、シチ、ハチ・・・。
あと何回繰り返したら終わるのだろうか。
僅かな路面の凹凸によろめいて、他の人の肩に触れてしまい「すいません」と言って横を向いたら、なぜかその彼も「すいません」と返した。
よろよろで表情を創れない者同士の妙な連帯感。
極限のランナーたちの意識は、1㎞ごとに立てられた残り距離を示す次の看板を見つけることに集中している。

ゴールまで5㎞の辺りに、「あと少し、もう10分!」と沿道から声を掛ける阿呆なオッサン。
ウケるわけない。

5時間34分43秒。
苦痛から解放された選手たちでごった返すゴールエリアに到達した。もう進まなくていい場所は、喜ぶ元気もない顔、顔、顔。

そのまましばらく前に歩くと、ボーイスカウトの子供たちが完走したランナーの首に記念メダルをかけてくれていた。
たぶん最年少らしき子の前で、首を深く垂らしてメダルをかけてもらった。

少年は無言だったけど、オレは「ありがとう」と上ずった声で返した。
どうしたものか涙腺が緩んでしまった。

ダウンコートを預けた場所に進もうとしたら、ゴール直後の選手たちに交じって、湯気が沸き立つ豚汁を食べているミヤタ君を見つけた。
「おう」とオレ。
「おう」と彼。
冷え切った体を温めたいが、喉に通りそうもない。
「豚汁はいいや」と言って、オレはダウンコートのほうへ足を引き摺りながら向かった。

※2015年12月

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