テニスで相手のスピードボールの対抗策を考える
こんにちは、トモヒトです。
今回は、相手のスピードボールに対する対応策について考えていきます。
今回の内容を考えるきっかけ
2024全豪オープンのデータですが、ジョコビッチ選手のウィナー時のストロークの球速とスピン量(準々決勝まで)をプロットすると、下のようになりました。
これを見ると、「ストロークでも200km出せる」ということがわかります。
ウィナー時のショットのデータのみを集めているため、速いショットが対象になりやすいという可能性はあります。
とはいえ、「その気になれば200kmのストロークが打てる」ことを考えると、スピードボールへの対抗策は重要度が高まると考えられます。
そこで、いくつかの対抗策について、物理学の観点から考察してみます。
検証方法
今回の検証方法について、まとめておきます。
相手ショットの条件
相手ショットの条件については、次のようになります。
ショットスピードは140~200km/hの5km/h刻み
打ち出し角度は0~20度の0.5度刻み
回転量は1000~2100回転の50回転刻み(ジョコビッチ選手のバックハンドのデータを参照)
基準ケース
今回の検証では、この基準ケースを比較対象に、条件を変更した際の最大ショットスピードや合理的待機位置からの移動距離を比較していきます。
相手のヒッティングポジションはサイドラインから0.5m内側、ベースラインから0.5m後方
打点の高さは1m
自分のポジションはベースラインから1m後方
このケースでは、合理的待機位置をセンターから0.533mの位置と仮定します。
基準ケースでの各コースの最大ショットスピード、返球ポジションへのショット到達時間、合理的待機位置と返球ポジションとの距離は次のようになります。
deep cross : 200km/h | 0.65s | 3.74m
deep straight : 200km/h | 0.65s | 4.668m
middle cross : 200km/h | 0.65s | 4.667m
short cross : 140km/h | 1.0s | 6.005m
また、必要なフットワークスピードを以下の式で求めると次のようになります。
なお、リーチの長さは0.5m、反応時間は0.2秒として計算しています。
$$
\frac {合理的待機位置と返球ポジションとの距離 - リーチの長さ} {ショット到達時間 - 反応時間}
$$
deep cross : 7.2m/s
deep straight : 9.262m/s
middle cross : 9.26m/s
short cross : 6.881m/s
対抗策① ポジションを下げる
まずは、「ポジションを下げる」方法について考えてみます。
ポジションをベースラインから2m後方に下げる場合
このケースでは、合理的待機位置をセンターから0.7mの位置と仮定します。
各コースの最大ショットスピード、返球ポジションへのショット到達時間、合理的待機位置と返球ポジションとの距離は次のようになります。
deep cross : 200km/h | 0.7s | 3.871m
deep straight : 200km/h | 0.7s | 4.858m
middle cross : 200km/h | 0.7s | 4.857m
short cross : 140km/h | 1.05s | 6.365m
また、必要なフットワークスピードを以下の式で求めると次のようになります。
deep cross : 6.742m/s
deep straight : 8.716m/s
middle cross : 8.714m/s
short cross : 6.9m/s
ポジションをベースラインから3m後方に下げる場合
このケースでは、合理的待機位置をセンターから0.858mの位置と仮定します。
各コースの最大ショットスピード、返球ポジションへのショット到達時間、合理的待機位置と返球ポジションとの距離は次のようになります。
deep cross : 200km/h | 0.76s | 4.025m
deep straight : 200km/h | 0.76s | 5.036m
middle cross : 200km/h | 0.76s | 5.037m
short cross : 140km/h | 1.11s | 6.72m
また、必要なフットワークスピードを以下の式で求めると次のようになります。
deep cross : 6.295m/s
deep straight : 8.1m/s
middle cross : 8.102m/s
short cross : 6.835m/s
自分のポジションを下げる効果
「ポジションを下げる」ことで、次のような効果があります。
相手ショットの条件は変化しないため、最大ショットスピードは変わらない
ポジションを下げることで、時間を作ることができる一方、合理的待機位置から返球ポジションまでの距離は長くなる
ポジションを下げるほど、必要なフットワークスピードは低くなる
対抗策② 相手のヒッティングポジションを下げる
今度は、相手のヒッティングポジションを下げた場合を見ていきます。
これは、「深いボールで相手を後ろに下げる」ことに成功したケースといえます。
相手のヒッティングポジションを1m下げる
相手のヒッティングポジションを、基準ケースから1m下げた場合を見てみます。
つまり、相手はサイドラインの0.5m内側、ベースラインから1.5m後方の位置でストロークを打つという想定です。
このケースでは、合理的待機位置をセンターから0.52mの位置と仮定します。
各コースの最大ショットスピード、返球ポジションへのショット到達時間、合理的待機位置と返球ポジションとの距離は次のようになります。
deep cross : 200km/h | 0.75s | 3.764m
deep straight : 200km/h | 0.75s | 4.654m
middle cross : 200km/h | 0.75s | 4.654m
short cross : 145km/h | 1.1s | 5.954m
また、必要なフットワークスピードを以下の式で求めると次のようになります。
deep cross : 5.935m/s
deep straight : 7.553m/s
middle cross : 7.553m/s
short cross : 6.06m/s
相手のヒッティングポジションを下げる効果
「相手のヒッティングポジションを下げる」ことで、次のような効果があります。
最大ショットスピードはほとんど変わらない(より速いショットが入る可能性も考えられる)
相手のヒッティングポジションを下げることで、ショットに角度がつきにくくなる
=>合理的待機位置から返球ポジションへの移動距離が短くなる(ミドルクロス、ショートクロス)時間的にも余裕ができるため、必要なフットワークスピードが低くなる
必要なフットワークスピードを見ても、反応が遅れなければどのコースに対しても対応できると考えられます。
対抗策③ 低い打点で打たせる
ここまではプレーヤーのポジションを変化させてきましたが、次は「低い打点で打たせる」について考えてみます。
これは、「滑るスライスや低い弾道のドライブで相手に低い打点で打たせる」ケースといえます。
相手の打点を0.6mで考えてみる
このケースでは、合理的待機位置をセンターから0.363mの位置と仮定します。
各コースの最大ショットスピード、返球ポジションへのショット到達時間、合理的待機位置と返球ポジションとの距離は次のようになります。
deep cross : 200km/h | 0.67s | 3.924m
deep straight : 190km/h | 0.695s | 4.499m
middle cross : 165km/h | 0.758s | 5.007m
また、必要なフットワークスピードを以下の式で求めると次のようになります。
deep cross : 7.285m/s
deep straight : 8.079m/s
middle cross : 8.077m/s
相手に低い打点で打たせる効果
「相手に低い打点で打たせる」ことで、次のような効果があります。
低い打点で打たせることで、コースによって最大ショットスピードが下がる
ショットスピードが下がる(+ネットより低い位置から持ち上げさせる)ことで、わずかに時間的な余裕ができる
時間的余裕ができる分、必要なフットワークスピードは低くなる
まとめ
今回は、相手のスピードボールへの対応策について、物理的な観点から考えてきました。
対応策によって効果が異なることがわかりました。
また、相手の打点やポジションは自分のショットによるものに対して、自分の待機位置を変えることは自分のショットの後でも実行可能なため、状況をみて選択をすれば良いと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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