(非100円)回転寿司の元板前ライターが100万人に伝えたいこと【板前の技術編】

(前回の投稿へのリンク)

前回のエントリーを広くたくさんの方々にお読み頂き、大変嬉しく思っています。

ありがとうございます。

今回は、板前の「技術」について書かせて頂きます。

前回のエントリーにたくさんの反響を頂きまして、特に「お役立ち情報」に対するお喜びのお声を多数頂戴いたしましたので、今回もそういった情報を含めてお伝えできればと思います。



まず本題に入る前に、「板前の良し悪しを見極める方法」を列挙します。

「良い板前」かどうかを見る際の参考にしてください。

1.白衣が真っ白で清潔
2.手先に清潔感がある
3.ふきんをこまめに取り替える
4.手水(シャリが手につかないようにする水)をこまめに取り替える
5.常に笑顔
6.手元が散らからない
7.商品提供の仕方が丁寧
8.すべてのお客様に対する「ありがとうございます」を欠かさない
9.平静を失わない
10.一貫一貫しっかり握っている


以上です。

まとめると、「お客様を不快な気分にさせないこと」と「誠実さが表に出ていること」です。

これらは板前がすべき最低限の仕事であります。

技術以前の問題、「前提」と言っていいと思います。

板前にとっては非常に大切なことですので、ぜひご利用ください。



さて、それでは本編に入ります。


回転寿司の板前の「基本的な技術」を列挙すると、このようになります。

1.握り
→速さ、美しさ、口当たり
2.軍艦・巻物
→速さ、巻き方のかっこよさ
3.魚をさばく
→速さ、歩留まり
4.捌いた魚をネタにする
→正確な重量、美しさ
5.トーク力
→和ませる、楽しませる、売る
6.所作
→美しい動作


本エントリーでは、これらの基本的な「板前の技術」の詳細に加え、消費者の方々にとってのお役立ち情報についても併せてご紹介していきます。


【1.握り】

まず、とても大切なことに触れます。

「なぜ機械が作ったシャリが不味いのか」についてです。

20年以上前の回転寿司チェーン店が提供していたシャリを覚えていますか?

あの、押し寿司のようにカチカチのシャリ。私は幼児の頃に食べた覚えがあるのですが、幼児ながらに「二度と食わん」と思いました。

あの頃を思えば、現代のシャリ製造マシンはだいぶ、というか物凄く、良くなっています。高性能マシンであれば(板前が握ったもののように)シャリの中に空洞をつくることもできます。

それでも人の手には敵いません。

板前の握った寿司のシャリはテカって見えると思いますが、あれは油ではなく、照り(テカり)を出す技術によるものです。

パタパタとうちわなどで酢飯を仰いで冷ます姿を見たこと(またはイメージ)はありませんか?

あれは、シャリに照りを出すための大切な作業です。

美しく輝くシャリは、板前の技術の産物なのです。

板前の握りの技術。

それは機械の性能を凌駕します。

最も初歩的なところに、その差が如実に表れます。

板前が寿司を握るときに、シャリが手につくのを防ぐために使用するものは何でしょう?

「水」です。

そう、人間にとっての命の水です。

一方で、機械はどうでしょう?

機械にとって、水は毒。

水は故障の原因になります。

察してください。

ほんの初歩的な、この1点。

たったこれだけのことにこそ、人が握る寿司の価値の高さを表しているように私は思います。

加えて。

握りには、板前の技術だけでなく、真心もこもります。

料理の味は心で引き出すものです。

美味しくしたいと思う心が手間をかけさせ、手間をかけたぶんだけ美味しくなります。

板前が真心を込めて握った寿司、食べてみてください。

美味しいです。私はその味を知っています。


ここからは具体的な「握りの技術」に話を移します。

寿司の世界では「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」と言われます。が、回転寿司ではシャリ炊きと合わせを学びません。システム化されておりますので、テクノロジーの力を借ります。

私はそれでいいと思います。

若者の8年。どれだけ貴重なものか、考えなくてもわかります。

なので8年の修行をすっ飛ばし、いきなり握りから始められるのは非常にありがたいことだと思います。

余談ですが、ある有名和食料理店では「瓶詰め10年」からキャリアが始まります。

「うちの味を覚えたいなら10年耐えろ」ということです。10年も忍耐力が持ちこたえた若者が、味を継いでいく世界。瓶詰め10年、できますか? 私にはできません。絶対に嫌です。

しかしそこには「文化を引き継ぐ」という意味合いもあります。古くからあるシャリ炊きや合わせの技術を、熟練の先輩から引き継ぐ。職人の世界とはそういうものです。

ですから、文化そのものを否定しているわけではありません。私ならしない、というだけです。

板前には、こんな教えもあります。

「見て学べ」という教えです。

「技術は教わるものではなく、盗むものだ」ということです。

板前の世界では、ボケっとしていても誰かが丁寧に教えてくれることなど、(基本的には)ほとんどありません。

そんなに甘くはないです。

これも余談ですが、私は新人の頃、常に店に張り付きました。出勤の日には人より早く来て、最後に帰る。さらに休日の朝にもなぜか店にいる。いくつかの仕事を終わらせておく。こういうことをひたすら繰り返しました。可愛がってもらうためです。現状を打破するためなら喜んでやりました。

積み重ねの末に仕事を任せてもらえるようになってきた頃には、「先輩の昼飯の用意」を毎日して「しっかり食わないとダメっす!」などと言って先輩を現場から追い出し、引き換えに仕事を奪う。そうして仕事の幅を広げる努力をしながら技術を磨いていきました。

そういったことは必ずしも必要なことではないと思いますよ。今は、こういう時代ですし。

甘やかしてくれる先輩板前も中にはいますよ。「ドM体質を装ったほうが可愛がってもらえるだろう」と思って、私はそれを実践していただけです。「こいつ可哀相だな」と思われたほうが、色々面倒見てもらえると思って。

話を戻します。

寿司を握る行程は、左手(利き手ではないほうの手)でネタを持つ→ネタを取る間に正確なグラム数のシャリを右手で取る→わさびを右手人差し指でネタにつける→シャリをネタに乗せる→ひっくり返す→握る→まわす→握る。

人によってシャリを乗せるときに穴をあける(口の中で解けるように)人や、ひっくり返すときに縦に返す(または横に転がす)人、3回以上まわす人など、様々です。

最も重要なポイントは、握りは「左手(利き手ではないほうの手)」に繊細な技術が求められている点。

右手(利き手)はシャリを取るのとシャリの裏(ネタの裏の面)の形を整えるくらいのことしかしません。寿司は左手で握ります。

なので、握りには利き手ではないほうの手を使う難しさがあります。

まず左手でスムーズにネタを取るだけでも、たいていの人が躓きます。

人間は、繊細な動きほど利き手を使いたがるものです。

なので、まずは左手を起用に動かす練習をするのが有効です。

普段右手で行うことを、左手でやる。それだけです。

もちろん寿司を握るための訓練ですから、寿司をたくさん握ればそれだけでも勝手に上手くなります。さらに早く上達したい人はやってみてください。

握り寿司の理想的なシャリの形は「船底型」と呼ばれる、「寿司を横から見たときに船底のように見える台形」と言われます。

その形を作るためには、一般的には「左手の親指を使う」と言われますが、私は左手の人差し指と小指の腹をうまく使って船底型を作ります。握り方は色々です。

私はそれが最も美しい寿司を握れる技術だと思っています。

寿司の握り方は人によって違います。

サッカーでいうところの「魅せるプレー」的な見た目重視の握り方(8の字・大回転)もあったり、本当に色々あって面白いですよ。

握る速さは、それなりの板前なら5秒もあれば1貫握れます。回転寿司の場合は1日に何千貫と握るので、速さも大事。私は現役の頃、学校給食のごはんいれ(シャリびつ)6〜8箱分ほど握ってました。そりゃあ速くもなります。

さらにいうと、1グラムの誤差もなく握れる板前も多いです。

体に染み付いて、感覚だけで何グラムのシャリなのかわかるようになるのです。

私は8から20グラムの間であればほぼ正確にわかりました。日々の鍛錬により洗練されると、人間の平凡な感覚を凌駕するのかもしれませんね。感覚を研ぎ澄ませば、こういうこともできます。


【2.軍艦・巻物】

回転寿司の板前は2貫分のシャリに一息で海苔を巻く人が多いですが、カウンターの(回らない)お寿司屋さん上がりの人には1貫ずつ海苔を巻く人も多いです。

しかも肉眼では確認できないような速さで、一瞬のうちにシャリを回転させます。

物凄くかっこいいので、達者そうな板前を見つけてたら、実演してもらってみてください。ちなみに私はできません。

次に巻物ですが、これは巻物専門店あがりの板前が間違いなく最強です。

彼らは魔術のような技術で巻物を作ります。

通常、巻物を作るには巻き簀(まきす)の上に海苔を乗せる→シャリをのばす→ネタを乗せる→巻く→締める→巻く→締めるという一連の流れがあるのですが、

パッと見たかんじでは巻くからの工程が「ただ巻き簀をめくっただけ」に見えるのに、きちんと締まった巻物ができあがる魔術師のような板前もいます。

彼は、

「これが技術ですよ」

と言っていました。

カッコいいかよ。

うらやましいので私も練習したのですが、これも習得できませんでした。

数をこなさないと習得できない技術もあるのです。何万、何十万本と巻いてきた人には、数に比例した技術があります。

そういう意味では、回転寿司の板前に握りに関しては一流の人が多いのも頷けます。

みんな上手いですよ。やる気のある人は。

あと、巻物をつくるのが上手い人は、たいてい「いなり寿司」を作るのも上手いです。

お持ち帰りのお店は、いなりも大量に作るので。

私の知っている板前は、1時間に1000個のいなり寿司を作れます。

「んなわけなかろう」と思いましたが、本当でした。

「誰でもできるよ」

なんて言っていましたが、いやいや、無理です。


【3.魚をさばく】

魚の基本的なさばき方は3枚おろし。あとは2枚と5枚も基本です。

魚は基本的に頭を左にして置きます。

その際に地に接する身が「下身」。接しない身が「上身」。あと骨で3枚です。

アジの開きは身を切り離さないので2枚(寿司ネタのアジは3枚)。イワシも2枚。

5枚におろすのはカレイやヒラメなどの平たい魚。でも3枚におろすこともできます。私は5枚派です。

3枚おろしの工程は、頭を落とす→肛門から包丁をいれて腹を開く→内蔵を取る→下身から腹、背の順に骨から包丁で(骨と身を剥がすような気持ちで)外す→中骨を外す→上身の背、腹の順に以外同文

です。

魚をさばくときに身を切るような感覚になる人が多いと思いますが、そうすると骨に身が残ります。

大事なことなのでもう一度。

骨と身を剥がすような気持ちで、包丁を入れます。

練習したい人は、イナダ(ワラサ)がオススメです。ブリ(ハマチ)の子どもです。

とにかく値段が安く、骨が頑丈なので身を剥がす感覚を身に着けやすいです。

私も最初に練習したのはイナダでした。

人の目を見ないほど人見知りの先輩の心をあの手この手で口説き落としたら、毎日深夜まで練習に付き合ってくれました。いい思い出です。

あと、特徴的な魚としてはカツオが挙げられます。

赤身の魚は、背ビレに骨があるので先に外します。

頭を外して内蔵を取ったら、尻尾をもって吊るし、包丁で背ビレをトントン叩くと外れます。あとは同じ要領です。

次に2枚おろし。

2枚おろしは腹を開いて背は繋がったまま残します。

イワシはこのさばき方をします。

おろし方は色々ありますが、最も基本的な工程は、頭を落とす→腹側を水平に切り落とす→内蔵を取る→頭側を右にして背骨の上から尻尾まで包丁を入れる(剥がすイメージで!)→ひっくり返して骨の上から包丁やわ入れる(背骨がまな板側)、です。

あんまり上手く伝わらないと思うので、魚のさばき方を学びたい人は動画サイトで調べてみてください。

魚をさばくのは、魚屋が最強です。鮮魚コーナーの従業員や、漁師、市場の人などです。

技術は、結局こなした数に比例しちゃいます。

それらの人たちの実演動画は某最大級動画サイトにたくさんありますので、見てみてください。

神業ですよ。

そして最後に5枚おろし。

内蔵を取る所までは同じで、その後は皮目から中骨に沿うように切れ込みを入れる→ヒレに向かって骨から剥がす、

これを4回繰り返すと5枚になります。

難しいことはありません。

ですが、きれいにおろすのは難しいです。

でもあまり肩に力を入れないでください。ダメで元々です。

あと、ちなみにですが私は生き物に触れない人間だったので、板前になる直前は恐怖しかありませんでした。

が、今ではだいたいなんでもいけます。苦手意識なんて、そんなもんです。やってやれないことはないですから、苦手意識がある人もどうぞ。

でも活きた甘エビだけは、今でも苦手です。ありゃ受け入れがたい。脚が、ね……。1mくらい上に飛ぶし……。


【4.捌いた魚をネタにする】

これを「切りつけ」と言います。

スーパーなどでもよく見掛けると思いますが、長方形に切られた魚の身を「柵(さく)」と呼びますが、大きな魚はそのままだと切りにくいのであの形にします。それを「柵取り(さくどり)」と言います。

柵取っていない魚は、高さのあるほうを手元から遠いほうにして切りますが、

アジや小さなのどぐろなど(小さな魚)は例外で、尻尾を左にして「背中側を広く取るように」切ります。

大きな魚で高さがありすぎる場合には、高い部分を地面と水平に切ります。これを「天パネ・天パ(てんぱね)」と言います。(寿司ネタの切りつけは皮目を下にします。なので天パネるのは骨に近い部位です)

お寿司屋さんのボードなどで「天パネ」と表記されていたり、板前がそう呼んでいるのを聞いたことはありませんか?

それは本マグロの「最高級赤身」を意味している可能性が高いです。

マグロの「天パネ」は高級品です。

最も骨に近い部位なので、最もたんぱくにマグロの旨味が凝縮した部位であり、希少性も高いからです。

特にインドマグロ(南マグロ)のものは最高ですよ。

さて、切りつけの話に戻ります。

包丁と身が接している部分の長さがそのまま「ネタの長さ」に、包丁を寝せた分だけ「ネタの幅が広く」なり、切るときに見えている部分の幅が「ネタの厚さ」になります。

それらは包丁を持つ手の親指を包丁の面に当て、力の加減によってコントロールします。

また、弧を描くように切ると握りやすいネタに(シャリにフィットするため)なります。

あと、切りつけ最大のポイントなのですが、切りつけて包丁がまな板に接する直前に、寝せていた包丁を垂直に起こしてから切り終えます。

するとネタに立体感がでます。

余談ですが、刺身は皮目を上にして切ります(寿司の板前は皮目を下にして切るので)。なので和食の板前は寿司ネタの切りつけが苦手です。

実際に、私は超有名店の元料理長に、寿司ネタの切りつけを教えたことがあります。

「私なんかでいいの?」と思っていましたが12歳年上のその人は「教えてくださってありがとうございます!」と言っていました。

この姿勢ですよ。

技術に貪欲な人は、とにかく素直です。

年下だろうが、職歴が短かかろうが、「教えてください!」の姿勢を崩さずに、感謝も忘れない。

働く上で本当に大切なことだと思います。

ちなみに私は、所謂「板長」に相当するポストにいたので、1番年下でしたが、技術的な指導もしていました。それでも認めてもらえれば、素直じゃない人でも、ちゃんと聞いてくれました。

技術があれば。それが大前提ですが。

板前の世界はやはり技術ありきです。技術がなければバカにされて、言うことを聞いてもらえないことも多いです。

でも、技術はその気にさえなればそれほど時間をかけずに習得できると思います。

どんな仕事も、やる気次第ですね。

もしも回転寿司の板前になりたい人がいらっしゃいましたら、色々とお教えしますよ。

板前とて会社員ですから、一般的なサラリーマンと同じです。

なので、技術に加え、会社員に必要なことも学べます。

今はどこも板前が足りなくて困っていると思いますから、チャンスですよ。

すみません脱線しました。

切りつけの技術については以上です。そんな難しいことはありませんから、気軽にやってみてください。

ちなみに、多くの板前は正確なグラム数に切れます。感覚だけで、切る前から「こう切れば何グラム」とわかっているのです。

これはとても大切な技術です。

誰かが得をし、誰かが損をすることを最小限に抑えるのがサービスの基本だからです。

もちろん、部位によって味に違いはあります。そういう意味での当たり外れ、運のようなものは確かにあります。

ですが、板前は基本的に質のいいネタから握ります。自分が提供した商品でお客様を不快な気持ちにさせたくないからです。

回転寿司は、回っているお寿司にはお客様の意思が絡みますが、注文した商品は違います。

なので、どうかご容赦ください。

板前は、お客様に喜んで頂きたいと思っています。


【5.トーク力】

トーク力も板前の技術のうちです。

お客様を楽しませること。

喜ばせること。

和ませること。

それらは技術と努力でどうにでもなります。

トークの技術の根本的で最も大切なことは、「自分から話しかけること」です。

お客様に応じて、適切な話題を振ります。

常連さんなら、「毎度ありがとうございます」。

一見さんなら、「何かご不明なことはございませんか?」

これだけで、十分です。

話しかけるという行為そのものに苦手意識のあるお客様も多いです。

まずは自分から話しかけること。

それが大切です。

その他私が実際に行っていたことを列挙します。

・お客様の顔と会話の内容、注文したものを可能な限り記憶しておく(基本的には全部)
・声を出して笑う(「ははは」は強い音なので、「あ、この人笑ってる」とわかりやすく気づいてもらえるので)
・オススメする(食べ方、今日の一押しなど)
・話しかける順番を決めておく(優先順位は子ども→お年寄り→大人。子どもを最優先するのは、子どもが笑うと家族全員嬉しいから。次にお年寄りは「本当はもっと話したい」と思っている人が多いからです。お年寄りのお客様には「私と喋るために来店してくださる方」が非常に多かったです。それだけ話したい欲求が満たされていない方が多いんです。子どもさん、お孫さん、もっとたくさん話してあげてください)
・口説く(お客様の話したい欲が満たされると、ファンになってくれることが多いです。具体的には話したいこと、知りたいことを探って、引き出します。恋愛でもそうでしょう。相手を口説こうと思ったら、相手が気持ちよくなるように会話を進めたほうが口説ける。口説くとは、「相手の期待を上回る」ということです。期待を引き出し、応えるよう努めます)
・お客様を師と思う(「ありがとうございます!」を事あるごとに言います。私は若い板前だったので、常にお客様を尊敬する気持ちを意識していました)

こんなところです。

他にも細かな技術がありますので、気になる方はASKfmなどからお気軽にご質問ください。


【6.所作】

板前は、所作のひとつひとつをお客様に見られながら商品をつくる職業です。

なので、お客様からどう見えるか、簡単に言うと「スマートでかっこいい動き」そのものが技術になります。

たとえばこんな板前がいるとします。

忙しい時に声を荒げたり、手元がごちゃごちゃしていて汚らしかったり、無精ヒゲだったり、etc.

ダサいですよね。

冒頭でご紹介した板前の技術以前の問題の多くは、ここにつながります。

タキシード仮面様や、怪盗キッド様のようにスマートな板前(イケメン度ではなく、所作の話です)こそ、ちゃんとした板前です。

感覚的に「ダサい」と感じる板前は、技術もたいしたことない場合が多いです。

最低限のモチベーションが欠けている人間は、その他もどんどん欠けていくものですから。

あと、この件に関連する「衛生面」についても、少々。

名誉のためにもお伝えしますが、会社は衛生面に対して本気で取り組みます。

口を酸っぱくして、何度も何度も同じことを言います。何度も何度も何度も何度も。それしか衛生面を良好な状態に保つ方法はありません。

衛生管理はすべて店舗に委ねられています。すべて働いている人間の気持ち次第です(もちろん細めに確認に来る役割の人もいます)。

板前が衛生面にしっかり取り組んでいるかどうか、それはお客様にとって大切なことだと思います。

寿司はナマモノ。お腹を壊すリスクは火を通したものより高いです。

加えて。

不衛生なものを見て食欲が落ちた状態で食事をするのは嫌ですよね。

食事は、食欲の上に成り立つものです。

食欲が落ちれば、美味しさも落ちます。

なので、そのことに気付かない、または気付いていても見ないフリをするお寿司屋さんは決してオススメできません(多いですけどね、汚いお寿司屋さん)。

じつは、本来お寿司屋さんは汚れにくいはずなのです。

油を使う量は他の飲食店に比べて明らかに少ないので空気中に浮遊している油が少ないですし、魚をさばくことを考慮して水を撒きやすい構造になっています。

こんなに掃除しやすい環境、なかなかないですよね。

さらに加えて、最近では一般にも有名になりつつある「電解水(でんかいすい)」を常備しているお店も多いのではないかと思います。

電解水とは水を酸性水とアルカリ水に電気分解した液体です。酸性なら殺菌作用、アルカリなら浄化作用がある。

本当に便利で、水由来なので(薬品ではないので)有毒性もない(酸性水は体内に入ると滅菌してしまうので飲んではいけませんよ!)。

これだけ条件が揃っていても汚いお店は、単純に仕事に対する意識が低いだけだと私は思います。

このようなことをお伝えせずとも、お店が汚かったらもう行かないですよね。

美味しいものほど、きれいな環境の中で食べてください。

板前の所作や衛生管理には、お客様のことをどれだけ考えて仕事をしているかが最も表れるポイントだと私は思っています。

どんなに素晴らしいサービスも、素晴らしい商品には勝てません。

美味しさこそ、飲食店の価値です。

サービスはおまけです。

ですから、「商品の美味しさを損なうような行為」にこそ、最も配慮すべきだと私は思います。

サービスは、それからです。

私は、そう思います。



以上!

今回は板前の技術について書かせて頂きました。

「長い! 長いよ!」

というお声もいくつか頂戴しましたので「今回はもう少し短くしよう」とは思っていたのですが、あまり短くなりませんでした。

すみません。





板前の仕事、楽しいですよ。

本当に辞めるのに苦労する仕事です。

辞める理由がなくて困るんです。

何もかも楽しいですから。

なので、

試しに、お魚をさばいてみてください。

試しに、お寿司を握ってみてください。

わからないことがありましたら、(答えられる範囲ではありますが)私がお答えします。

板前は楽しい仕事です。

板前は明るい仕事です。

板前は奥深い仕事です。

「毎日同じことの繰り返しでつまらなそう」と思う方もいるかもしれません。

私は毎日、その日を振り返って反省点を書き起こしていましたが、1日として「新たな発見のない日」はありませんでした。

板前とは、そういう仕事です。

板前の技術編 完

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