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俺と老博士のDead or alive

 山奥にある廃屋を探索中、目の前にゾンビが現れたので、俺は持っていた拳銃を撃つ。この国では、今、人口の三分の二がゾンビだ。南博士特製の銃弾のおかげで、ゾンビは蛍光ピンクの粘液になって飛び散った。南博士が勝ち誇ったように笑うと、ポニーテールにした白髪が揺れる。
「さすが私の作った対ゾンビ兵器だな」
満足げな南博士の背後からもゾンビが出てきたので、再び拳銃を撃つ。南博士の白衣や服が蛍光ピンクの粘液まみれになり、南博士が抗議の目で俺を睨んだ。俺は彼の服を洗濯せざるを得なくなった。
 近くの川で俺は洗濯を始めた。トランクス一枚の南博士は、枯れ枝のように長い手足を折り畳むようにして、岩の上に三角座りで座っている。空で鳶が鳴きながら輪を描いていた。
「木下君…」
「俺は川上です。どうしました?」
「今すぐ銃を取れ。あっちの茂みから来るぞ」
俺は大慌てで洗濯物を川岸に放り出し、腰に提げていた拳銃を構える。南博士の指差す先の茂みが動いた直後、現れたのは五メートル以上の大きさの巨大ゾンビだった。複数のゾンビが合体しているらしく、その手足は何本にも枝分かれし、体の至る所に顔がある。俺は拳銃を撃ったが、蛍光ピンクの粘液に変わったのは、巨大ゾンビの腕の一部だけだ。まずいと思った時、南博士が立ち上がり、手のひらを空に向けた。
「浄化の風よ、吹け!」
南博士がそう叫ぶと、青く輝く風が巨大ゾンビを包む。一瞬で巨大ゾンビが銀色の粉に変わり、青い風と共に消えたので、俺は南博士の方を振り返った。南博士はずり落ちかけたトランクスを直しながら、岩の上にあぐらをかく。
「こういう非科学的な解決方法は好まないのだよ、木下君」
南博士は心から不服そうな様子だ。俺は名前を訂正する事も忘れて、南博士を見上げる。よく考えれば、南博士が口にする「木下」という名前は、俺にとって無関係ではなかったのだ。
【続く】

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