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地域の防災力と住民自治

≪おごおりトーク15≫

さて、今回は「地域の防災力と住民自治」について考えてみます。地域の防災力の強化のために最も重要なことは、地域住民の共助の力による自主防災活動の活性化です。
小郡市では地域の防災力の強化と自治会における防災体制の確立を目指して、自主防災組織を中心にした共助の体制づくりを推進しており、平成24年度から現在までに市内61区の自治会(1区を除く全て)に自主防災組織が設置されています。
しかし、小郡市では毎年連続して豪雨災害が発生し、その際、地域の自主防災組織がほとんど機能しなかった実態が浮き彫りとなっており、実働的な自主防災組織の充実・強化が喫緊の課題となっています。

これまで行政では、地域の自主防災活動の活性化に向けて「地域防災力強化事業費補助金」を見直し、防災倉庫の設置や資機材の購入の補助率を30%とした上で、初動マニュアルの作成、避難訓練の実施、自主避難所の開設、避難行動要支援者の個別支援プランの作成などを行う場合は補助率を嵩上げするなど、目的達成型の補助制度により地域の自主防災活動を支援しています。また、防災リーダー養成講座やおごおり防災セミナーなど、地域の防災活動の核となる人材育成についても積極的に取り組んでいます。
…にもかかわらず、災害発生時に自主防災組織が機能しなかったのは何故でしょうか?その要因として考えられることは何でしょうか?
自主防災組織の現状としては、「自主防災組織は立ち上げたけど、何から手を付けていいか分からない」「防災資機材は購入したけど、いつ活用していいか分からない」「役員が交代したのでどうしていいか分からない」といった感じではないでしょうか。
それは個々人の防災意識や資機材の問題というより、自主防災組織は立ち上げたものの、そもそも活動を行っていくための体制が未整備であることが根本的な原因ではないかと思うのです。だとすれば、今必要なことは、住民の意識啓発や資機材の整備ではなく、地域の実情に応じた自主防災組織の実働的な体制づくりだと思います。

市内の自主防災組織は、地縁組織である自治会と一体的に組織されています。
以前、地域の見守り活動などが自治会活動と一体化して取り組まれることの有効性は、「自治会の総合的機能による付加価値の創造」と「複合的な課題に対する相乗効果」にあり、これが最小の資源(人員や経費)で最大の効果を生み出す自治会活動の“強み”であり“可能性”であると述べました。
これは自主防災活動が自治会と一体的に取り組まれる上でも同様であり、平常時の見守り活動が日常的な訓練として繰り返し行われることによって、災害時の要支援者に対する安否確認や避難支援の可能性が高まります。
今回、さらに自治会活動との一体化の有用性で着目したいのは、「ルーティン化による活動の継続性」です。これは、自治会活動において個人の意識を問わず、それが目的意識化されているかどうかにかかわらず、一度、自治会活動に位置付けられた活動は、役員交代や人員の入れ代わりがあっても組織の中でルーティン化され継続されていく特性があるということです。
もちろん、地域の防災力の向上や自主防災活動の活性化のためには、地域住民の防災意識の向上は欠かせないものですが、自治会や自主防災組織で最も課題となっているのは、1~2年で担当役員が交代した際に、前年度までの協議・検討してきたことが全てゼロからのスタートにリセットされてしまうことにあります。しかも多くの場合、役員総替えとなります(笑)。
つまり、この役員の交代によって毎年研修会や意識啓発の活動に終始してしまい、その先の具体的な体制づくりまで取り組みが至らないところに大きな問題があります。
役員交代が常態化している組織において、前年度の活動の上にさらに継続的な活動を積み上げていくためには、この自治会の「ルーティン化による活動の継続性」という“強み”を活かさない手はありません。このことが、地域の自主防災組織における災害時の防災活動を構築する上において大変重要な視点だと思います。

では、具体的にこの自治会の「ルーティン化による活動の継続性」を活用して、どんな働きかけを行えば地域の防災力の向上につながるのでしょうか?
 それは、地域の災害特性や自主防災組織の実情に応じた「災害時初動マニュアル」を策定することです。できれば現役員の任期中(概ね1年以内)に作成することが必須で、そのためには行政による具体的な支援メニューも必要だと思います。
一度策定された「災害時初動マニュアル」は組織内で共有化され、その後、役員が交代しても活動の中で引き継がれ、さらにはブラッシュアップされることも期待できます。
 行政として災害時に地域の自主防災組織に期待する活動は、自主防災本部の設置・運営や地域の被災状況の把握、住民への情報伝達、行政との連絡・調整など多々ありますが、最も重要なことは住民の安否確認と要支援者の避難支援です。これらの活動は、発災直後においては行政や公的機関(公助)では対応が不可能であり、地域の防災力(共助)でなければ対応ができないものです。
このように、災害発生時に自主防災組織の役割として期待される活動が少なからずありますが、それらの活動を実働的なものとするためには具体的な体制づくりが「災害時初動マニュアル」に盛り込まれなければなりません。

また、「災害時初動マニュアル」を地域の自主防災組織で策定する意味はもう一つあります。
地域の自主防災組織は、消防署や自衛隊とは違って、地域住民の発意と善意で行われるボランティア活動です。中には自主的に活動に参加する人もいれば、輪番制によりやむを得ず役員になった人もいる多様性ある組織です。自主防災組織の構成員である自治会役員や地域住民はボランティアであって防災のスペシャリストではありません。
そのような組織で、災害現場で危険を伴う活動を強いるのは、その人を危険にさらすことにつながります。地域で自主防災活動や災害支援を行った人がケガをしたり、万が一命を落とすようなことは絶対にあってはならないことです。
いくら眼前の住民の命を助けるための緊急的な救助活動であっても、それが危険を伴う活動である以上、望まない人にその活動を強要することはできません。まずは、そのことについて住民相互の共通理解が図られていることが極めて重要だと思います。
そして、そのことを踏まえて地域の自主防災活動について検討する際に、地域住民が話し合い、「何をやるのか?」「どこまでやるのか?」「自分の役割は何なのか?」ということを事前にしっかり想定し考えておくことは、その活動に参加する住民の命や安全を守る上でとても重要なことだと思うのです。

「災害時初動マニュアル」は、役員が交代したとしても地域の自主防災活動を可能にするために、「誰がどんな活動をするのか」、「防災資機材をいつどのように活用するのか」をあらかじめ明確にし、防災活動における住民の意識を共有化するためのものです。
それと同時に、防災活動に参加する住民の命と安全を守るために、「自分たちができないこと」、「やってはいけないこと」についてもしっかり話し合い、地域全体で共有することに意味があると思うのです。
(2021.5.19)

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