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7つ目のアオヘリアオゴミムシ新規産地を発見(後編)


絶滅危惧IA類アオヘリアオゴミムシが局所的に大量発生している新規産地を訪れた際の記録記事後編。
前回は以下のリンクを参照いただきたい。



再び護岸水路へと向かった。
狙うは先ほどアオヘリアオと遭遇した、護岸水路の中でも局所的にコンクリートが存在しない素掘りの岸際。範囲としては1メートルも無い。

足を踏み入れると、一歩、また一歩と踏み出す度に2〜3匹のアオヘリアオが逃げていく夢のような場所だった。中にはオオキベリアオゴミムシや絶滅危惧II類のスナハラゴミムシも少数が混ざる。
目で追える個体を拾っては、一旦コップの中に投入していく。
そのあまりの数を前にして全てを追う事など不可能で、最終的にその場所では30匹以上のアオヘリアオを目撃したように見えたが、一時的に確保できた個体は13匹だった。
大半はコンクリートと土の間に作られた隙間や穴の中に消えてしまった。この場所に多くの個体が定住している証拠だろう。興奮のあまりに撮影を怠ってしまった事を悔やむ。

水路の周辺で捕獲した
アオヘリアオゴミムシ
スナハラゴミムシ
オオキベリアオゴミムシ


水路の深さは40センチほど。
時期的なものもあるだろうが、水の流れは緩く、水深も2〜3センチほどと浅かった。
アオヘリアオが落下しても長距離を流される事なく、流されても60センチほどで、すぐに泳いで岸壁に辿り着いた後に地上へ戻る事ができた。
いっその事、水路周辺で逃げ惑うアオヘリアオ達を全て水路に落としてから網でまとめて掬うような採集方法が最適なのではないかとさえ思えた。
水路内にはヒメタニシも多く、タニシ食のスナハラゴミムシはこれを狙って周辺に棲みついていたのだろう。

ヒメタニシとスナハラゴミムシ
近似種のゴミムシが多いが、スナハラは
ニッパーのように揃ったように見える
大顎を持つ。
よく似た大型ゴミムシの多くは
ミミズ食や種子食への特化により
先端が湾曲した大顎である事が多い。



ここはそれなりに山深い場所であるが、8000年前に東日本へ移入されたヒメタニシが定着してスナハラゴミムシの重要な餌資源となっている事が窺える。

DNAの研究から、日本には中国原産の近縁種と日本在来のヒメタニシの両方が生息しており、琵琶湖産のヒメタニシは日本在来と考えられ、他の地域より殻が大きいことが知られていた(Hirano et al., 2019a, b)。
しかし、その後の研究(Ye et al., 2020)から、東アジア(大陸)産ヒメタニシが約7万年前に自然的要因(氷河期に海水面が著しく低下し、揚子江や黄河の河川水が当時の日本海の表層から九州沿岸に流入)によって九州に侵入した後、約8000年前(縄文時代)に農耕技術とともに九州から東日本に人為的に移植、定着した。同じ頃、大陸からも東アジア産ヒメタニシが農耕技術とともに東日本に人為的に移植、定着して両者が交雑した。その後、約1200年前(恐らく平安時代)に大陸と東日本の両方から東アジア産ヒメタニシが農耕技術とともに西日本に人為的に移植され、両者が交雑して現在に至っていると考えられている(Ye et al., 2020)。すなわち、九州、東日本、西日本に生息するヒメタニシは、いずれも自然的要因または人為的に中国から日本に侵入、移植され、その後互いに交雑を繰り返した外来種と考えられている。この説が正しいとすると、本種の学名はS. quadrataとなる。

引用元
滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
『ヒメタニシ』



水路周辺では素掘りのポイント付近が最もゴミムシの密度が高く、土や草とコンクリートの境目に隠れていた個体が多かった。
その場所から少し離れてもゴミムシ達は多く観察されたが、素掘りポイントから離れれば離れるほどにその数は減っていった。
厳密に言えば、素掘りポイントから離れ、土に含まれる水分が減る毎にゴミムシの数が減っていたという印象だ。
高い水分量の環境を好むスナハラゴミムシが素掘りポイント脇に居た事もそれを裏付けているように感じる。


コップの中に大量のゴミムシを入れたままにしておくとすぐに消耗してしまうため、一旦車に戻ってクーラーボックスの中にそれらを放した。
基本的には捕獲生体の8割以上のリリースを前提としている上、トップクラスの絶滅危惧であるIA類の生体を相手にしているという事もあるのでこの辺りは慎重に行いたい。

採集を終えた後、寄生菌類や奇形等の有無を1匹1匹隈なく探した。
寄生菌類付きのアオヘリアオがオスメス共に1匹ずつ発見できたので、それらを確保した上で残りの個体は元居た水路周辺に全てリリースした。


帰り道にて、護岸水路周辺数百メートルの範囲内から小さめの素掘りの水路をいくつか発見。
どれも隈なく捜索したが、ゴミムシの類はほとんど見られず、そもそもあまり生物の数は多くなかった。大量に居たのはあの護岸水路の一部だけだ。
一見すると護岸水路周辺よりも良環境だが、生物が好まない理由があるのだろうか。ヒメタニシすらも護岸水路近辺の方が多かったほどだ。
ただし、ヒメタニシに関してはカタツムリのようにコンクリートからカルシウム等を得る目的があるからかもしれない。

護岸水路周辺の局所にアオヘリアオを含む多数の湿地性ゴミムシが群れていた理由としては、現地で徘徊をしているうちに素掘り水路等の湿潤な環境から離れて戻れなくなった個体達が方々から辿り着いたオアシスのようなポイントがこの局所であった事が一説として考えられる。
前述の通り、水路脇でも水分が少ない場所ではゴミムシの数が極端に減っていた。



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