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葦原の住民・アオヘリホソゴミムシ


出張の際、休憩時間を利用してヨシ焼きが行われた湿地帯に訪れた。

かつては稲に付くウンカやヨコバイ、カメムシ等の越冬場所を焼き払う「害虫駆除」を目的として全国でヨシ焼きが行われていたが、現在は環境保全のために行われる場合も多い。

一見すると大規模な環境破壊に見えるこの行為だが、アシの群落は年月が経つと次第に陸地化をし、最終的には森林化へと至ってしまう。

遥か昔は湿地帯の洪水が頻発しており、周辺環境も定期的に洗い流されてリセットが起きていた。
しかしそれが起こりにくくなった現代では『ヨシ焼き』という人為的攪乱がその代替となっており、葦原や草原を好む各種生物の生息地維持のために非常に重要なものとされている。



今回はこうした葦原に多数生息するゴミムシを狙って軽い捜索をする。

本来は焼け跡の石や流木のような障害物を起こせば、その下に隠れている個体が得られる事が多いが、ここはそれらの数が少ない。

のんびりもしていられないので、捜索箇所を『焼け残った葦原沿いの崖』に絞る事にした。

以下のように小さな段差となっている箇所をブロックハンマーで打ち崩す。
一振り目が土に刺さった瞬間、すぐさま『正露丸』や『消毒液』のような懐かしい匂いが鼻腔に届いた。
これは特定の種類のゴミムシから発生するメタクレゾール臭だ。
何かがそこにいる事、それを掘り当てた事を確信する。

葦原の中の小さな段差




掘り進めた穴の中に居たのは大量の本命アオヘリホソゴミムシと、1匹のアオゴミムシだった。
なんと一つの穴にこれだけの数が潜んでいた。

ウンカを好んで捕食すると考えられているアオヘリホソゴミムシは各地の葦原に多数生息するが、活動時期は深い藪の中に潜んでいる事もあって何匹も見かける事は比較的少ない。
基本的には崖掘りやヨシ焼き後の石起こしでなければ一度に多数の成虫を確認する事は難しいだろう。
現に昨年の夏に全く同じ場所でライトトラップをした際には、1匹も発見できなかった。

本種は葦原さえあれば九州、四国、本州などのあちこちで見られるため、本種のみを目的として採集を行う者はかなり少ないが、その特異な食性を詳しく観察したい自分にとってはこの時期何よりも出会いたいゴミムシの一種だった。
…というより、冬を逃すと一気に数を集め難くなるため、春までに決着をつけておきたい宿題だった。

飼育下でウンカ(ヨコバイ?)を捕食する
アオヘリホソゴミムシ

野外では葦原に棲むさらに小型のウンカを
狙っているものと思われる。


30分程度の短い滞在だったが、この場所にも多数のアオヘリホソゴミムシが生息している事が分かり安心した。

ちなみに、関東地方の一部の河口にある葦原には
キイロホソゴミムシという関東地方の固有種が生息している。
いつの日かそちらにも出会いたい。




アオヘリホソゴミムシやアオゴミムシが越冬をしていた穴の最奥部さいおうぶには、コオロギと思われる生物の死骸が詰まっていた。
湿地帯に棲む小型のコオロギといえば…タンボコオロギだろうか。

翅がある程度育っているこれは成虫に見えるが、タンボコオロギは幼虫のまま地中で越冬するという比較的珍しい生態を持つ。

ケラやタンボコオロギのような昆虫の作る巣穴(坑道)は、ゴミムシを含む様々な生物達が利用する重要な越冬場所としての役割も担っているのかもしれない。



次回

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