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アリにパスタを与えようとした者に対する畏敬


採取した地元産水草に混入し、いつのまにかプラ舟ビオトープの賑やかしとして活躍していた外来種ヒレタゴボウ。
その実が熟し、種が溢れる前にと根本から伐採した。

葉が赤く染まるヒレタゴボウ
伐採したヒレタゴボウ

しかし、少々判断が遅かったかもしれない。
しばらく前に発生したハスモンヨトウ等の鱗翅目幼虫がヒレタゴボウの葉だけでなく実も齧っていたようで、そこから種が溢れている様子が見られた。
その実は未成熟であったが、発芽能力を持っている可能性がある。
来年に発芽したのならばその都度伐採及び抜根すればいいだけの話ではあるが、少々手間が増えてしまう。



伐採したヒレタゴボウを一旦シート上に置いてしばらくすると、その下にクロナガアリが横切っているのを目撃した。
庭では幼い頃よりその姿が見られ、本種とは20年以上の付き合いになる。

本種は主に春と秋に活動をする種子食のアリで、今回もイネ科雑草の種子を貯蔵するために運んでいる最中のようだ。
ヒレタゴボウの種を探しに来た可能性もゼロではないが、恐らくは単純に通り道だっただけだろう。

ヒレタゴボウの下を通るクロナガアリ
イネ科種子を運ぶクロナガアリ



シートの穴に集まるクロナガアリ

多くのクロナガアリが向かう終着点にはシートに開いた穴が存在し、その周辺にはいくつかのサカマキガイの殻も集まっていた。
恐らくはこの穴の下に巣が作られているのだろう。

サカマキガイは降雨時にタライから溢れ出した個体が行き場を無くし、シート上で乾燥し亡くなったもののなれ果てだ。
クロナガアリは完全な種子専食という訳ではなく、飼育下ではミルワーム等の動物質の餌も食べる。もしかするとサカマキガイもタンパク源となったのだろうか。
個人的には、降雨時に水と共に貝殻が流されるまま行き着いた先が遮水シートの穴だったというだけにも思える。排水溝の髪の毛のようなイメージだ。
何度風に飛ばされようと、雨が降る限り貝殻はこの場所に流し戻されるだろう。


ただし、貝殻内は完全に肉抜きがされていたので、何らかのスカベンジャーの糧となっていた事実は読み取れる。
それがアリなのかダンゴムシなのかは分からない。今後それを気にして夜間に観察してみるのも面白いかもしれない。




ちなみに、前述の通りに種子食であるクロナガアリはユニークなアイデアで飼育される事もある。

それはなんと、多くの家庭にある『乾燥パスタ』を与えるというもので、昆虫館においても採用されていた手法だ。

それを最初に知った時、思わず「なるほど…」と声を漏らしてしまった。
ほぼ100%が小麦の種子によって作られたパスタならば代用餌として利用しやすく、管理も非常に容易だ。

これはアリ愛好家の中ではかなり有名な話で、10年ほど前にもフォロワーの島田拓しまだたく氏が以下リンク先の記事にてクロナガアリの生態や実施する際の注意点も併せて解説をしていた。


当noteにて何度も語っているように、自分はこうした『飼育下での代用食』や『飼育の簡略化』を考える事や試す事、そのアイデアを見聞きする事が本当に大好物で、人生における飼育趣味の楽しさや悩みの半分以上はここに詰まっていると考えている。
ゲームにおいての『裏技』や『ショートカット』『高等テクニック』に対するロマンのようなものを感じるからだろうか。
クロナガアリにパスタを与える手法はその中でも特に「虫嫌いにさえ届き、時には感心させてしまう」ほどのインパクトがある。


そうした誰かの閃いた飼育法を見聞きすると、『四六時中、生物の事を考えていた者の脳内に突如走った電撃』『閃き』を少しだけ追体験したかのような高揚感を味わえる。それらと『先人への畏敬』で心が満たされる。
この感覚はきっと数十年経っても覚えていられるだろう。

そうして自分のように『ダイソーで飼育に使えそうな物を探し彷徨う人間』が生まれ続けるのだ。

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