【100均ガジェット分解】(26)ダイソーの「ブルートゥース高音質ステレオイヤホン」
※本記事は月刊I/O 2021年5月号に掲載された記事をベースに書ききれなかった内容を追記・修正をしたものです。
ダイソーから新しい「ワイヤレス両耳イヤホン」が発売されました。従来のモノラルからステレオになったこの商品を分解します。
パッケージの外観
■パッケージと製品の外観
パッケージの表示
新しくなった「ワイヤレス両耳イヤホン」はダイソーブランドの500円イヤホンシリーズ No.6「ブルートゥース高音質ステレオイヤホン」という名称です。
パッケージ裏面の表示(日本語のみ)によると、通信仕様は「Bluetooth v5.1」、内蔵の電池容量は「80mAh」です。
音楽の連続再生時間は「約7時間」と過去に分解した同様の製品(第13回のダイソー「両耳タイプBTイヤホン」、第21回のキャンドゥ「ワイヤレスイヤホン」)の2-3時間に比べて大きく改善されています。
製品パッケージの表示
過去の製品からの新しい機能としては2台の端末の同時待ち受けができる「マルチポイント機能」への対応があります。
マルチポイント機能(取説より抜粋)
同梱物と本体の外観
パッケージの内容は「本体」「USBケーブル(充電専用)」「取扱い説明書(日本語)」です。本体のイヤホン部は過去に分解した2製品(アルミ製)と違いプラスチック製となっています。
本体の外観はコーナー部の形状が少し異なりますが、操作ボタン、USBコネクタ、イヤホンケーブルの配置は過去の2製品と全く同じです。ただし、動作状態表示のLED及びマイクの位置が異なっています。
本体の外観の比較
背面の「技適マーク表示」はシールとなっています。
本体背面の技適表示
動作確認のためにスマートフォンとペアリングをして音楽を再生したところ、きちんと「ステレオ再生」ができました。音質はアルミ製のイヤホンに比べると若干こもった印象です。
プラスチック製のイヤホン部
■本体の分解
本体の開封
コントローラ部のケースはツメによって固定されているので、精密ドライバを隙間に差し込んでこじ開けます。内部はメイン基板とLiPoバッテリーで構成されています。イヤホンとLiPoバッテリーはリード線でメイン基板に直接ハンダ付けされています。
コントローラ部を開封した状態
■回路構成と主要部品
LiPoバッテリー
LiPoバッテリーは保護回路内蔵の400930サイズ(4.0mmx9mmx30mm)で”3.7V 80mAh”の表示があります。
LiPoバッテリー
同等品はAlbabaで$1.05(1000-4999個購入時)で販売されています。
メインボード
メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。基板表面には基板の型番「YHS-56A-YDEJ_V1.0」と製造日(2020-09-25)がシルクで表示されています。
表面に実装されているのはメインプロセッサとその周辺部品(水晶発振子、セラミックコンデンサ、電源IC用のインダクタ)、プッシュスイッチ、状態表示LED(RED/BLUE)です。Bluetoothのアンテナは直線の基板パターンになっています。Lチャンネルのイヤホン接続用のランドも表面にあります。
メインボード(表面)
裏面には充電用のマイクロUSBコネクタと、コンデンサマイク、電源ICが実装されています。RチャンネルのイヤホンとLiPoバッテリーの接続用ランド、テスト用と思われるランドも裏面にあります。
メインボード(裏面)
回路構成
基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。部品番号は基板のシルクにはありませんでしたのでこちらで割り当てました。
回路図
メインプロセッサ(U1)にはUSBの電源(VBUS)とLiPoバッテリが直接接続されており、LiPoの充電制御もメインプロセッサで行っています。
メインプロセッサの周辺部品はコンデンサと24MHzの水晶発振子だけというシンプルな構成です。内蔵のLDO(Low Dropout Regurator)で生成した電源(VDDIO,BT_AVDD,DACVDD)のフィルタ用に各端子に外付けでコンデンサがついています。
特徴的なのがDVDD(CPUコア用電源)で、外付けの電源IC(U2)によるスイッチング電源で構成され、CE(ON/OFF)端子をメインプロセッサで制御して不要時には電源を停止することで、消費電力を削減しています。
キー入力(3個)はそれぞれ独立した入力端子に接続されています。電源やBluetoothのLink状態を示すRED/BLUEのLEDは1個の出力端子で排他制御しています。
スピーカーはDACR/DACL端子と共通の中間電圧(VCOMO)に接続することで、電源ON/OFF時のポップノイズの発生を防いでいます。マイクもMIC入力(PC6)に直結されています。
プリント基板の設計としては、電源・GNDの分離はあまり配慮されておらず、Bluetooth用のアンテナは単純な直線の基板パターンになっていて、過去に分解した製品と比べても基板設計のレベルとしてはあまり高くないという印象を受けました。
■主要部品の仕様
本製品の主要部品について調べていきます。
メインプロセッサ AC6956A
メインプロセッサ
メインプロセッサはこれまでのBluetooth機器の分解でよく見かけるメーカーである中国の珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/)製の、Bluetooth Audio用プロセッサ「AC6956A」です。これまでのJieLiのLSIと同様に「AC6956A」という型番は製造元の製品一覧では出てきませんが、FCC ID検索サイト(https://fccid.io/)でこのプロセッサを使用した製品がみつかりました。関連ドキュメントからデータシートを入手することができます。
https://bit.ly/3suvqR1
パッケージは32pin QFN、1チップでBluetoothステレオヘッドセット機能を実現しています。主な機能を以下に示します。多様な周辺I/Fを持っており。Bluetoothオーディオ以外にも汎用的に使えるプロセッサとなっています。
• 最大240MHz動作の32bit CPU(FPU内蔵)
• Audio DSP+アンプ内蔵16bit Stereo DAC
• Bluetooth v5.1準拠
• 周辺I/F:USB,UART,SPI,I2C,Cap Sense Key,PWM Motor Driver, etc...
• 内蔵PMUによるバッテリーを含む電源制御
各GPIOピンには複数の機能が割り当てられ切替えて使用することが可能です。
コア電源は省電力のために外部入力、それ以外の電源は内蔵PMU(Power Management Unit)によって内部で生成しています。
PMU特性(データシートより抜粋)
ちなみに、テスト用ランドはチップのUSBDP/DMピンに接続されており、USBに接続して確認したところ、OTG Hostとして動作していました。
杰理のGitHub(https://github.com/Jieli-Tech/fw-AC63_BT_SDK)によると、公開されているツールチェーンで作成したプログラム(hex)は、淘宝網(https://world.taobao.com/)で入手できるUSB接続のダウンロードツールで書き込めるようです。
電源IC XT3406AFMR-G
電源IC
コア電源生成用の電源ICは上海南麟电子股份有限公司(http://www.natlinear.com)の降圧型DC-DCコンバータIC「XT3406AFMR-G」です。データシートは部品販売サイトのLCSCから入手できます。(単価US$ 0.0431)
スイッチング方式で最大800mA出力、効率95%と、LDOに比べて電力ロスを大きく減らすことができます。
水晶発振子 24MHz SMD3225シリーズ
水晶発振子
メインプロセッサ用の水晶発振子はSMD3225シリーズ(3.2 x 2.5mm)で24MHzのものが使われています。このタイプは複数の会社から販売されいます。簡易カタログは以下より入手できます。
Aliexpressでは同等品が10個で$1程度で販売されています。
■Bluetooth接続情報の確認
今回もAndroid版の「Bluetooth Scanner」というアプリを使用しました。本製品は「DAISO_BT002」という名前で検出されるのでペアリングして接続情報を確認すると、プロファイルは「Headset」でCodecはヘッドセットで一般的な「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。Venderは「Unknown」となっていました。
BTの接続情報
■まとめ
過去の製品と機能・外観は似ていますが、分解してみると「連続再生時間を延ばす」という特長を出すために、プロセッサ・電源構成・基板設計が大きく変更になっていました。2020年12月号で分解したキャンドゥのものと比べるとプロセッサの性能・機能も上がっていて、このクラスの製品もまだまだ進化しているという良い事例だと感じました。
補足
本製品は充電時に本体が発熱する不具合ということで2021年の春に不具合回収の対象となってしまいました。2021年秋に後継のタイプが販売されましたので、こちらは別途分解する予定です。
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