見出し画像

【100均ガジェット分解】(35)ダイソーの「ニッケル水素電池専用USB充電器」

※本記事は月刊I/O 2022年2月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。

ダイソーからニッケル水素電池用の「USB充電器」が300円(税別)で販売されていました。早速購入して分解してみました。

パッケージと製品の外観

エネループ(エボルタ)に代表される「ニッケル水素電池」は単三・単四の乾電池と同じサイズで非常に使いやすい充電池です。ダイソーでも「ReVOLTES」で販売されていましたが、この充電器は「LOOPER」という新しいシリーズ用として発売されました。USBケーブル付きで300円(税別)と、アマゾン等で売っている充電器と比べてもかなり安めの価格設定となっています。

パッケージの外観

パッケージ記載の仕様は「入力電源:DC5.0V」、「出力:DC1.4V 130mAh」となっており、通常のスマートフォン用のUSB充電器を使用して充電できます。

パッケージ裏面の記載によると 充電制御は電池サイズにかかわらず約8時間のタイマー制御式となっていて、電池の充電状態の監視はしていないようです。

パッケージ記載の充電時間

発売元は大阪の「日本レクセル株式会社」(http://www.nihonlexel.co.jp/)です。
ホームページによると、中国深圳に本社のある1997年創業の「深圳市力可兴电池有限公司」 (LEXEL BATTERY(SHENZHEN)CO.,LTD. http://www.lexelbattery.com/」の日本支社で2005年設立と15年以上の歴史がある会社です。

発売元の表示

本体の分解

本体の外観

パッケージの内容は本体、USBケーブル(充電専用)及び取扱説明書(日本語)です。

本体の外観はシンプルで、正面は電池取付部(2本)とそれぞれの充電状態を示す赤色のLEDが2個あるだけです。本体裏面には型番・定格の記載されたラベル(銘板)が貼り付けられています。

充電器本体

電池取付部のマイナス側の電極は2段になっていて、単3型/単4型のどちらでも取付けられるようになっています。

電池取付部のマイナス側の電極

本体の分解

本体のケースは固定している裏面の4か所のビスを外して開封します。
内部はプリント基板 1枚構成です。メインボードはケースにはめ込む形で、基板固定用のビス等は使用していません。

開封した状態で見えるのは基板裏面です。裏面には実装部品はなく、丸いテストランドが配置されています。電池取付部の電極は基板のスルーホール通って基板裏面からハンダ付けされています。

開封した本体

回路構成

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。基板上には型番「DN226E-1.2」と製造日「20210409」の表示があります。写真はメインボード表面の主要な実装部品を記載しています。

メインボード(表面)

コントローラと思われる8ピンのIC、充電状態表示用のLED、充電制御用のN-MOS FETやダイオードが実装されています。ICの電源用のツェナーダイオードは電力定格の大きなガラス封止パッケージです。

回路図

基板パターンより回路図を作成しました。

回路図

マイクロUSBコネクタ(J1)はVBUS(5V)とGND以外のピンはNC(未接続)です。
コントローラ(U1)の電源(VDD)はVBUSから抵抗(R7)を通り供給されています。U1の電源(VDD)-GND(VSS)間に入っているツェナーダイオード(DZ1)は5.1V。これは過大電圧の入力時の保護用です。

ニッケル水素電池(Ni-MH, BAT1/BAT2)は並列に接続されていて、それぞれに直接に充電電流制限用の抵抗(R1/R2)とダイオード(D2/D3)、および充電状態の表示用のLED(LED1/LED2)とLED電流制限用の抵抗(R3/R4)が入っています。

充電動作のON/OFFは各ニッケル水素電池個別ではなく共通のN-MOS FET(Q1)で行っています。コントローラ(U1)で使用しているポートは充電ON/OFF制御用でQ1のゲートに接続されている1個のみです。
ニッケル水素電池の充電状態の検出は行っておらず、コントローラに電源が印加されると、設定された充電時間(約8時間)だけHレベルになりQ1がONされて充電操作を行うという単純な動作です。ニッケル水素電池は充電状態での両端電圧の変化が少なく、標準充電での充電状態の検出が難しいこともあり、割り切ったものと思われます。

充電電流の計算

次に、この回路での概略の充電電流を計算してみます。計算の前提条件は以下としました。

  • USB VBUS電圧:5V

  • ニッケル水素電池:1.4V(常温無負荷)

  • Q1のRDS(ON):56mΩ

  • 赤色LEDのVF:1.9V

  • 1N4007 VF:1.0V

LED側の電流は1.7mA、ダイオード(1N4007)側の電流は118.2mA、合計するとQ1:ON時の充電電流は電池1本あたり約120mAと仕様記載の130mAにほぼ近い値になりました。

ニッケル水素電池のWikipedia(https://bit.ly/3mHFzcz )によると「標準充電は1/10 lt 以下程度の弱電流により10数時間の時間を掛けて充電」なのですが、本機は単3型(1000mAh)を完全放電状態から8時間でほぼ満充電にする(120mA x 8h = 960mAh)条件に合わせて設計しているものと思われます。

Q1がOFFの時も並列に抵抗(R5)があるので、完全にはOFFにならず、LED消灯後も充電電流を減らしたうえで常時充電状態となっています。この常時充電電流を計算するとニッケル水素電池1本の時で約35.6mA、2本の時で約41.8mAとなります。

ちなみにWikipediaのトリクル充電の項では「標準充電電流の1/2から1/3以下で常時充電可能」となっていますので、使用条件に収まっています。

主要部品の仕様

次に本製品の主要部品について調べていきます。

コントローラIC(U1) 詳細不明

コントローラIC

コントローラICはパッケージ表面には何もマーキングがありません。ピン配置を確認したところ、1番ピンが電源(VDD)、8番ピンがGND(VSS)となっていました。これはMicrochip社のPIC12Cxxx等の「PICマイコン」と同じで、中国製の安価な電子機器でよく見かけるPICからの置換用のピン互換マイコン(いわゆる「ジェネリックPIC」)です。

ちなみにチップを基板から外して裏面を確認したところ以下の写真のマーキングがありました。これも表面にマーキングがないチップではよくあります。ただし、こちらのマーキング(D702052D)で検索しても、やはり詳細は分かりませんでした。

コントローラIC裏面のマーキング

N-MOS FET(Q1) SI2302

N-MOS FET

充電動作のON/OFF用のトランジスタQ1は「2302」のマーキングがあります。これは、N-MOS FETの「SI2302」です。オリジナルはNXP(Philips)ですが、同じ型番で複数の会社から販売されています。データシートは以下より入手できます。

https://docs.rs-online.com/cd93/0900766b812e05d7.pdf

小型パッケージ(SOT23)ですが、定格は20V/2.5A、ON抵抗56Ω(typ.)とかなり電流が流せます。

実際に「マルチファンクションテスター TC-1 *」を使用して現物を測定してみました。
 https://www.shigezone.com/product/multi_tester_tc1/

測定結果は以下になりました。ON抵抗(RDS)は実測0.4Ωと仕様書の定格より大きく出ていますが、測定用にハンダ付けしたリード線や、テスターとの接続のコンタクト部を考慮すると問題はない範囲だと思われます。

Q1の実測確認結果

ダイオード(D2/D3) 1N4007

ダイオード

「A7」のマーキングのあるダイオードは、中国製の電子機器でよく見かける汎用の整流ダイオード「1N4007」です。これも同じ型番で複数の会社から販売されています。
データシートは以下より入手できます。

http://www.szyxwkj.com/UploadFiles/Others/20170816150402_99600.pdf

定格は1000V/1.0Aですので、本製品でも余裕を持った使い方をしています。

まとめ

ニッケル水素電池は両端電圧の変化が少ないため、充電電流制御は急速充電を行わない限りはリチウムイオン電池に比べるとシンプルな構成で実現できることがわかりました。
バッテリーメーカーが販売元でもあり、充電動作に致命的な問題はなさそうです。

ただし、本製品では単純なタイマーでの充電時間制御ですので、使用する場合は以下の注意をした方がよさそうです。

  • 2本の電池の充電状態は同じとする

  • 継ぎ足し充電は過充電になるので避ける

  • 充電開始したら完了まで連続する


いずれにせよ充電状態や温度の監視は全く行っていないので、充電する際はできるだけ周囲に可燃物はおかずに、目が届く場所で行うことをお勧めします。

よろしければサポートお願いします。分解のためのガジェット購入に使わせていただきます!