見出し画像

【100均ガジェット分解】(24)ダイソーの「電子メモパッド」

※本記事は月刊I/O 2021年3月号に掲載された記事をベースに追記・修正をしたものです。

今回はダイソーから500円(税別)で発売されて話題になっている「電子メモパッド」を分解します。

01_パッケージの外観

パッケージの外観

■パッケージと製品の外観

パッケージの表示

「電子メモパッド」はダイソーの「500円電子機器シリーズ No.1」として販売されています。

ボタン電池(CR2016)1個で動作し、書き消し回数は約5万回。付属の専用ペンで絵画エリアに書き込みを行い、削除ボタンを押すことで書いたものを消去します。裏面のロックスイッチで削除ボタン機能をロックすることもできます。

02_製品パッケージ記載の使用方法

製品パッケージ記載の使用方法

同梱物と本体の外観

パッケージの内容は「本体」と「専用ペン」です。テスト用のボタン電池(CR2016)は本体に取り付けられた状態ですので、絶縁用のシートを引き抜くことですぐに使うことができます。

本体は黒のABS樹脂に絵画エリアの液晶シートが貼り付けられていて、サイズは8.5インチ、重量は約114gと軽量で持ち運びしやすいサイズになっています。

03_本体の外観

本体の外観

実際に文字を書いてみたのが以下です。筆圧により線の太さが変わるので、「はね」や「はらい」も表現することができます。

04_実際に書いた文字

実際に書いた文字

■本体の分解

本体の開封

本体のABS樹脂に貼り付けられた絵画エリア裏面の両面テープを剥がすことでプリント基板と液晶シートを分離することができます。

液晶シートからは2個の電極が出ていて、テープで制御基板の液晶シート電極用ランドに貼り付けられています。液晶シートの電極の横には削除ボタン用電極があり、押すことで制御基板のパターンがショートされる構造になっています。

液晶シートと制御基板

液晶シートと制御基板

■内部の構造と回路構成

制御基板

制御基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。部品は全て面実装部品で基板表面に実装されています。コントローラはワンチップの専用ICで、周辺には電源昇圧用コイルと整流ダイオードがあります。ロックスイッチとボタン電池用電極も実装されています。

制御基板(表面)

制御基板(表面)

制御基板の裏面には部品はなく、液晶シート電極用ランドと削除ボタン用のパターンが配置されています。

制御基板(裏面)

制御基板(裏面)

回路構成

基板パターンから制御基板の回路図を作成しました。「NM」はパターンはあるが実装されていない部品です。

08_回路図

回路図

液晶シートの制御はワンチップの専用IC(U1)で、電源はボタン電池(CR2016)から直接1番ピン(VDD)に供給されています。

U1の8番ピン(DIO)とL1・D1・C3で「昇圧チョッパ回路」が構成されていて、液晶シート制御に必要な電圧を生成して7番ピン(HV)に入力しています。6番ピン(FB)は昇圧チョッパの出力電圧制御用のフィードバック端子です。

液晶シートは「コレステリック液晶(ChLCD)」でU1の4-5番ピン(X1-X2)の間に接続されていて、削除ボタン(K1)が押されて2番ピン(KEY)がHレベルになると液晶シートの電極間に電圧が印加されて液晶シートの内容が消去される仕組みです。

ロックスイッチ(SW1)をLock側にすると、ボタン電池が切り離されて消去動作が実行されなくなります。

■主要部品の仕様

●コレステリック液晶(ChLCD)

絵画エリアの液晶シートを分離すると、液晶材料を挟み込んでいるシートの両面にそれぞれ1個づつの電極がついています。

液晶シートを分離した状態

液晶シートを分離した状態

使用されている液晶シートは「コレステリック液晶(cholesteric liquid crystal display, 以下ChLCD)」です。

ChLCDでは電圧を印可しない状態では安定した2つの状態(双安定性)が存在します。

• 特定波長の光を反射する「Planar state」
• 弱い散乱で光を反射しない「Focal conic state」

ペンで加圧した部分は「Planar state」に変化し光を反射するので黄緑色に見えるようになります。

電圧を印可すると液晶の配向が揃う「Homeotropic state」となり、背面の黒を透過する状態=描画が削除できます。

電力が必要なのは描画削除だけですので、ボタン電池で超低消費電力動作ができます。

10_コレステリック液晶の状態

コレステリック液晶の状態

●コントローラIC 「KX360A」

11_コントローラIC

コントローラIC

「コントローラIC」はマーキングで検索した結果、中国の「合肥宽芯电子技术有限公司(BROADSEMI)」の液晶メモパッド専用ICである「KX360A」であることがわかりました。

コントローラICと評価ボードのデータシートは文書共有サイトの「道客巴巴(doc88)」から入手できます。

・コントローラIC
http://www.doc88.com/p-1082901621286.html

・評価ボード
https://www.doc88.com/p-9846172935741.html

ただし、入手できるデータシートは概要のみで用途とピン情報以外の記載はありませんでした。

ちなみに、「合肥宽芯电子技术有限公司(BROADSEMI)」は中国語・英語の両方で検索したのですが公式のホームページは存在しない様です。

■動作波形を確認する

使用機材

今回はオシロスコープを使用して実際の動作波形を測定しました。
波形測定のためのオシロスコープは、AliexpressでUS$130で購入できる「FNIRSI 1013Dタブレット型オシロスコープ」を使用しました。

12_使用したオシロスコープ

使用したオシロスコープ

Aliexpressの商品ページは以下です。
https://www.aliexpress.com/item/4001074969697.html

昇圧チョッパ回路の動作

以下はK360Aの昇圧チョッパ回路部分を抜粋したイメージ図です。

13_昇圧チョッパ回路

昇圧チョッパ回路

削除ボタン(K1)が押された時のコントローラIC K360AのHV端子の実測波形は以下のようになっていました。

14_KX360A_HV端子の波形

KX360A HV端子の波形

通常はボタン電池の電圧(3V)が出力されていますが、K1が押されるとDIOの内部のスイッチング素子(トランジスタ)がPWM動作し「昇圧チョッパ回路」の出力(HV端子)が上昇します。

HV端子の電圧はChLCDの消去動作に使われます。波形が揺れている部分は消去動作期間(約1.6秒)で、消去動作が終了すると昇圧動作が停止し、出力が徐々に下がっています。

ChLCDの消去動作

以下の波形は消去動作時のChLCD電極間(コントローラIC K360AのX1-X2間)の実測波形です。

15_KX360A_X1-X2端子間の波形

KX360A X1-X2端子間の波形

消去動作が開始するとK360AのHV端子に印加された電圧を使ってChLCD電極間に消去電圧(±15V)がトグル状に印加されます。

これによって液晶の配向が揃う「Homeotropic state」となり、背面の黒を透過する状態=描画が削除されます。

​ まとめ

コレステリック液晶を使用した電子メモパッドは、数年前までは数千円で販売されていましたので、100円ショップで入手できるようになったのは驚きです。

分解してみると専用ICを使って最小の部品点数で実現されていることがわかりました。動作原理もシンプルで、使用目的を絞ってよく考えられた商品という印象です。

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

よろしければサポートお願いします。分解のためのガジェット購入に使わせていただきます!