【100均ガジェット分解】(25)キャンドゥの「USBテンキーボード」
※本記事は月刊I/O 2021年4月号に掲載された記事をベースに追記・修正をしたものです。
今回は300円(税別)で買えるキャンドゥの「USBテンキーボード」を分解します。
パッケージの外観
■パッケージと製品の外観
パッケージの表示
「USBテンキーボード」は2020年後半開始したキャンドゥの100円(税抜)にこだわらない「300円・500円商品」のシリーズとして販売され始めました。
品番は「KEG-0001」、供給元は日用雑貨品の企画・販売を行っている「株式会社 ショーエイコーポレーション(https://www.shoei-corp.co.jp/)」です。サポート用の電話番号も記載されています。
対応OSは「Windows7~10, Mac OSX 10.5以降」です。筆者の環境のWindows10Pro(1909)およびmacOS Big Sur(11.2.1)でもドライバ不要で動作しています。
製品パッケージ記載の使用方法
同梱物と本体の外観
パッケージの内容は「本体」のみです。テンキーボード部分の材質はABS樹脂、USBケーブルはコネクタではなく本体から直接出ています。裏面には角度調整のための針金製のスタンドがついています。
本体の外観
■本体の分解
本体の開封
本体は裏面のビス(8か所)を外すことで開封できます。
内部はキーパッドと制御基板で構成されています。キーパッド裏面にはシート電極が配置されていて、シート電極には穴が開いておりキーパッドのボスにはめることで位置合わせをしています。
開封した本体
シート電極はパターンが印刷された1枚のシートを3つ折りにしたシンプルな構成、キーボタンの位置に穴が開いたスペーサを間に挟むように折り込むことでシートが押された時にスイッチONとなる「メンブレン式」の構造です。
シート電極を開いた状態
■回路構成と主要部品の仕様
制御基板
制御基板はガラスコンポジット(CEM3)の片面基板で、基板表面には「YR-03C」という型番がシルク印刷で表示されています。
コントローラICはシリコンチップを直接基板に実装して樹脂モールドされています。
USBケーブルは基板に直接ハンダ付け、シート電極との接続はフラットケーブル用コネクタが使われています。
制御基板(表面)
LEDはリード部品を基板裏面から挿入して表面からパターンに半田付けしています。
制御基板(裏面)
回路構成
基板パターンから制御基板の回路図を作成しました。「NM」はパターンはあるが実装されていない部品です。
回路図
コントローラIC(U1)はUSB機能を内蔵し、1チップでテンキーボードの機能を実現しています。
LEDは直接コントローラICから駆動、信号線は「縦4 x 横5」のマトリックス構成、キー数は全部で19個、キー押し下げでショートした信号線の組合せで検出をしています。
制御基板のコントローラICの樹脂モールド部分のパターンはそのままでは接続先がわからなかったため、樹脂モールドを削除してプリントパターンを確認しました。外付けコンデンサC01、C03はシリコンチップの下のパターンを経由して基板のGNDパターンに接続されています。
樹脂モールド下のプリントパターン
主要部品の仕様
・コントローラIC(U1)
基板に印刷されている「YR-03C」の型番から検索をしたのですが、コントローラICを特定することはできませんでした。
周辺回路はコンデンサ3個のみであり、テンキーボード専用のICだと思われます。
型番からでは素性がわからなかったので、接続機器のUSB情報を表示する「USBView」(https://bit.ly/3kT4170)を使ってデバイス情報を確認してみました。
「USBView」の確認結果
USBのバージョン(bcdUSB)は1.1、接続スピード(Device Bus Speed)はLow(1.5Mbps)です。
デバイスの識別情報である「idVender: 0x13BA」及び「idProduct: 0x0001」を元にWebで検索したのですが該当するチップは見つかりませんでした。
そこで、linuxのUSB IDリスト(http://www.linux-usb.org/usb.ids )を確認した結果、チリで事業を展開している「PCPLAY Technology Development Co. (https://www.pcplay.cl/)」という会社が「Konig CMP-KEYPAD12」という製品で取得したものであることがわかりました。
「usb.ids 」の確認結果
この型番で検索したところ、欧州系のAmazonで「Numerical Keypad」として同等の製品が販売されていたことがわかりました。PCPLAY社のプロファイルを調べたところ、元々香港の会社で、深圳でも製品を製造しているので、この製品向けのチップが本製品に提供されていると思われます。
■シリコンチップの観察
今回も「ベアチップ実装」なので、モールドを削って顕微鏡でシリコンチップを観察してみます。
顕微鏡は以前のマウスでも使用した、PCやスマートフォンに接続できるUSB接続のもの(https://amzn.to/3pQHc7A)を使用しました。
使用したUSB顕微鏡
まずはモールドを削ってシリコンチップを露出させました。チップサイズは実測で1.8mm x 1.4mmです。
露出したシリコンチップ
ボンディングワイヤの確認
まずは、顕微鏡でボンディングワイヤの痕跡を確認したのが以下の写真です。
モールドの断面に確認できるボンディングワイヤは16か所です。各ボンディングワイヤには回路図の記載にあわせた接続先を追記しています。
ボンディングワイヤの確認
前出した樹脂モールド下のプリントパターンの位置と大体一致していそうなことがわかります。
シリコンチップの確認
露出したシリコンチップをさらに倍率を上げて見たのが以下の写真です。
各パッドにも回路図の記載にあわせたピン番号を追記しています。
シリコンチップの拡大写真
パッド数は合計で17個ですが、ボンディングワイヤの痕跡は16か所で、1か所未接続のパッド(NC)がありました。
左下のDP/DMパッド付近はUSBデバイスブロックです。Low Speedデバイス(1.5Mbps)ですので、専用のPHYマクロは使用していないように見えます。VCC/GNDパッドの上付近は電源ブロックだと思われます。全体としては左上半分の(写真では一部削りすぎてしまいましたが)ロジック回路のブロックが大きな比率を占めています。
■まとめ
供給元の「株式会社 ショーエイコーポレーション」は大阪でフィルムパッケージを中心とした包装資材の販売・ダイレクトメール、カタログ等の発送をメインとした会社で、2012年より日用雑貨品の企画・販売も行っているようです。
本製品のベースとなっていると思われる「Konig CMP-KEYPAD12」は、欧州系の複数のWebショップで販売ページが見つかりましたが、そのほぼ全てで品切れで、扱いがある場合も日本円で1000円程度の値段がついています。
PCショップ等ではよく見るテンキーボードですが、分解してみるとシート電極の構造や使っているコントローラIC等、100円ショップで扱える価格で売るための仕組みがわかったような気がします。
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