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【100均ガジェット分解】(27)ダイソーの「12桁ソーラー電卓」

※本記事は月刊I/O 2021年6月号に掲載された記事をベースに、書ききれなかった内容を追記・修正をしたものです。

2021年に入ってから「半導体の不足により自動車の減産」というニュースをよく聞くようになり、一躍半導体が注目され始めました。

そこで今回は少し趣向を変えて、半導体の発展の象徴と言える「マイコン」の原点でもある「電卓」が現在はどうなっているか分解してみようと思います。

01_パッケージ外観

パッケージの外観

■はじめに

1991年にNHKスペシャルで「電子立国日本の自叙伝」(https://bit.ly/32KKmiL)という番組が放送されました。半導体の誕生から電卓への応用、そして集積回路(LSI)化による世界初の1チップマイコンであるIntel 4004が誕生するまでが番組では描かれていました。(2021年4月時点でも番組は「NHKオンデマンド」で配信されています)

番組の舞台でもある昭和40年代の最先端技術である「電卓」も現在では100円ショップで手に入れることができるようになりました。

ほとんどが「8桁」なのですが、ダイソーで「12桁」のものが100円(税別)で売っていましたので、これを分解してみます。

■パッケージと製品の外観

パッケージの表示

パッケージはヘッダー付ポリ袋です。ソーラー電池仕様(ボタン電池は使えない)で、パッケージの表示によると「1.5V/25uA」と非常に少ない電流で動作します。

02_製品パッケージの表示

製品パッケージの表示

同梱物と本体の外観

パッケージの内容は「本体」のみです。

本体にはソーラーパネルと液晶表示部及びキーが配置されています。パッケージには「アルミフレーム」と書いてありますが、実際は白の成形品がアルミ風の銀色に塗装されています。

機能としては通常の四則演算に加えて「平方根(√)」と「パーセント(%)」の計算もサポートしています。

03_本体の外観

本体の外観

■本体の分解

本体の開封

本体はツメによる固定ですので、間にドライバ等を差し込めば簡単に開けることができます。内部はメイン基板と表示用のLCDパネル及び電源用のソーラーパネルで構成されています。ソーラーパネルはリード線で直接メイン基板に半田付けされています。

本体を開封した状態

本体を開封した状態

キー側のカバーを外すと、メイン基板はキー検出用のパターンがあります。シリコーン樹脂のキーの裏には導電塗装がされていて、キーを押すとメイン基板上のパターンがショートされ、どのキーが押されたかがわかる仕組みです。キーと電極の位置はケース上のボスに基板の穴をはめることで決まるようになっています。

05_キー側のカバーを外した状態

キー側のカバーを外した状態

■回路構成と主要部品の仕様

メイン基板

メイン基板は紙フェノールの片面基板です。プロセッサが実装されている基板表面には基板の型番「KS-017」と基板の製造日(191023)がパターンで表示されています。

表面に実装されているのは樹脂モールドされたプロセッサとその周辺部品(セラミックコンデンサ、LED)のみです。メイン基板とLCDパネルは電極付フィルムで接続されています。基板パターンとフィルムの電極の接続は半田付けではなく接着となっています。

メイン基板表面

メイン基板(表面)

基板裏面にはキー入力検出用の電極が基板パターンではなく導電塗料で印刷されています。

07_メイン基板_裏面

メイン基板(裏面)

基板の表面と裏面の接続部には穴があいており、導電塗料が表面に回り込むことにより電気的に接続されています。これにより基板自体が紙フェノールの片面でよくなり、スイッチも不要となりコスト削減に大きく貢献しています。

表面と裏面の接続

表面と裏面の接続

回路構成

基板パターンからメイン基板の回路図を作成しました。部品番号は基板に表示がありませんのでこちらで割り当てました。

09_回路図

回路図

プロセッサ(U1)の電源にはソーラーパネルの出力が直接接続されています。LED(D1)はソーラーパネルの出力電圧がある場合には微かに光って状態を表示します(製品外部からは見えない位置にあります)。

また、回路的には[+]と[-]の基板パターンに電池を接続して動作させることができるように配慮されています。

LCDパネルはプロセッサと40ピンで直接接続されています。

キーは合計23個、10本の信号線(K1〜K10)がお互いに接続される組み合わせ(マトリックス)で検出しています。

基板から起こしたキーアサインを以下に示します。計算に使用するキーはK1~K9の組み合わせで構成されていて、K10は電源ON/結果クリアの専用入力になっています。

10_キーアサイン

キーアサイン

主要部品の仕様

本製品の主要部品について調べていきます。

●LCDパネル

11_LCDパネル

LCDパネル

CDパネルは12桁のセグメント液晶でフィルム電極(40Pin)が直接接続されています。パネル自体には成形品の部分も含めて型番等の表示が何もなく詳細はわかりませんでした。

●ソーラーパネル

12_ソーラーパネル

ソーラーパネル

ソーラーパネルは4セルタイプです。こちらも何も表示はなく詳細はわかりませんでした。

室内照明の下での出力電圧実測は解放(無負荷)で「2.65」V、メイン基板に接続した状態で「1.65V」でした。パッケージの表示は「1.5V/25uA」ですので、室内照明のレベルでも動作に必要な電力は供給できています。

●プロセッサ

プロセッサは樹脂モールドされていますので、モールドをヤスリと砥石で削ってチップを観察してみます。

13_プロセッサのモールドを削った状態

プロセッサのモールドを削った状態

チップの周辺のモールド断面には多数のワイヤボンディングの跡があります。

今回はワイヤの接続先の基板パターンがモールドの下になってしまっていたので、回路図作成のためにモールドを剥がして基板パターンを確認しました。

14_モールド下の基板パターン

モールド下の基板パターン

モールドを剥がしたところ、プロセッサのシリコンチップ(ダイ)は基板パターンに対して10度ほど傾いて実装されていました。チップが傾いた状態で実装し、基板パターンに対してワイヤボンディング作業をしているようですが、基板を見る限り理由がわかりませんでした。

次にシリコンチップを拡大して表面を観察してみます。顕微鏡はこれまでと同様にPCやスマートフォンにUSB接続するタイプ(https://amzn.to/3pQHc7A)を使用しました。

15_使用したUSB顕微鏡

使用したUSB顕微鏡

次の写真はチップの拡大写真です。チップサイズは実測で1.8mmx1.8mmと大きめです。

16_チップの拡大写真

チップの拡大写真

写真の左上が回路図のプロセッサ(U1)の1番ピンになります。チップ内の右の方にある縦長の長方形の領域がメモリです。LCDパネルの駆動部(左辺~上辺~右辺の上半分)も特にLCDドライバのようなものはないので、論理回路から直接接続しているようです。

チップの下辺に配置されているキー検出のためのI/O(K1~K10)の部分はワイヤ接続用のPad(四角い銀色)が2列になっています。

■まとめ

100円ショップで電卓を見かけるのが当たり前のようになってようになってから、既にかなりの時間が経ちました。

あらためて分解してみると、チップは予想以上にサイズが大きかったという感想です。

全体としては、キースイッチが導電塗料での印刷になっていたり、基板が電池接続もできるようになっていたりと、コストダウンのための工夫を知ることが出来ました。

2021年4月号で分解した300円のUSBテンキーはコネクタ接続のシート電極で修理交換可能でしたが、本製品で採用している導電塗料によるキースイッチは、耐久性という面では問題があると思うのですが、価格的には壊れたら買い替えればいい、という割切りがはっきりしていてある意味感心しました。

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