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【100均ガジェット分解】(21)キャンドゥの「ワイヤレスイヤホン」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです

キャンドゥから新たに200~500円(税別)のデジタルガジェットシリーズが発売されました。今回はその中からアルミボディで両耳タイプの「ワイヤレスイヤホン」(税別500円)を分解してみます。

■パッケージの外観

01_パッケージの外観

​ パッケージと製品の外観

パッケージの表示

「ワイヤレスイヤホン」はキャンドゥのスマートフォンの周辺機器コーナーで販売されています。通信仕様は「Bluetooth v5.0」、内蔵の電池容量は60mAhで音楽再生時間は2.5時間。技適認証済の表示もあり、6ヵ月の製品保証がついています。輸入元は記録メディアで有名な秋葉原の「株式会社 磁気研究所」(http://www.mag-labo.com/)です。

02_製品パッケージの表示

製品パッケージの表示

同梱物と本体の外観

パッケージの内容は「本体」「USBケーブル(充電専用)」「取扱い説明書(日本語)」です。本体のイヤホン部はアルミボディで左右をマグネットで固定できます。本体形状は2020年4月号で分解したダイソーの「Bluetoothイヤホン」に似ていますが、こちらの方はケースのコーナーが角形状になっています。(ダイソーは丸形状)

03_本体の外観

本体の外観(上がキャンドゥ、下がダイソー)

背面には「技適マーク」の表示があります。

04_本体背面の技適表示

本体背面の技適表示

ペアリングをして動作確認したところ「ステレオ再生」ができました。ダイソーの「Bluetoothイヤホン」はモノラル再生でしたので、機能的に大きな差別化ができています。

■本体の分解


本体の開封

コントローラ部のケースはツメによって固定されているだけなので、精密ドライバを隙間に差し込んでこじることで簡単に開けることができます。内部はメイン基板とLiPoバッテリーで構成されています。イヤホンとLiPoバッテリーはリード線でメイン基板に直接ハンダ付けされています。

05_コントローラ部を開封した状態

コントローラ部を開封した状態

​ ■回路構成と主要部品の仕様

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の350926サイズ(3.5x9x26mm)で”3.7V 60mAh”の表示があります。

06_LiPoバッテリー

LiPoバッテリー

Aliexpressでは同等品が10個で$20程度で販売されています。

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面に実装されているのはメインプロセッサとその周辺部品(水晶発振子、セラミックコンデンサ、BTアンテナ用のインダクタ)、プッシュスイッチ、コンデンサマイク、状態表示LED(RED/BLUE)となっています。Bluetoothのアンテナは基板パターンで構成されています。

メインボード表面

メインボード(表面)

裏面に実装されているのは充電用のマイクロUSBコネクタのみで、イヤホンとLiPoバッテリーを接続するためのランドと、テスト用と思われるランドがあります。基板の型番である「XL-001-AC6936D V1.0」と製造日(20190505)の表示もあります。

メインボード裏面

メインボード(裏面)

回路構成

基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。「NM」はパターンはあるが実装されていない部品です。

09_回路図

回路図

Bluetooth用のアンテナは基板パターンで構成された板状逆F型アンテナ(Planar Inverted-F Antenna)となっています。
メインプロセッサにはUSBの電源(VBUS)とLiPoバッテリが直接接続されており、LiPoの充電制御もメインプロセッサで行っています。

メインプロセッサ内部の電源はすべてプロセッサによって生成されています。電源は5系統 (AVDD, VDDIO, BT_AVDD, DVDD, DACVDD) に分かれていて内蔵のPMUで制御、GNDも細かく分離されています。
Bluetooth用の電源(BT_AVDD)は内蔵のスイッチングレギュレータの出力(SW_OUT)を外付けのLC回路で平滑して生成しています。

キー入力(3個)はそれぞれ独立した入力端子に接続されていて、KEY2,KEY3が接続された端子はテストランド(DP,DM)と兼用になっていています。電源やBluetoothのLink状態を示すRED/BLUEのLEDは1個の出力端子で排他制御しています。

スピーカーはDACR/DACL端子に直接接続されたステレオ構成、マイナス側を共通の中間電圧(VCOMO)に接続することで、電源ON/OFF時のポップノイズの発生を防いでいます。マイクもMIC端子に直結されています。

メインプロセッサを動作させるための周辺部品は、
・24MHzの水晶発振子
・内部で生成する電源平滑用のコンデンサ
・前述したBluetooth電源平滑用のチップインダクタとコンデンサ
だけという非常にシンプルな構成です。

プリント基板のパターンは電源・GNDも完全ではないですが機能別に分離されていて、全体的に「きちんとした設計」という印象です。

主要部品の仕様

本製品の主要部品について調べていきます。

●メインプロセッサ AC6936D

10_メインプロセッサ

メインプロセッサ

メインプロセッサはこれまでのBluetooth機器の分解でもよく使われている、中国の珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/)製のBluetooth Audio用プロセッサ「AC6936D」です。
これまでのJieLiのLSIと同様に「AC6936D」という型番は製造元の製品一覧では出てきませんが、中国の文書共有サイトである道客巴巴(https://www.doc88.com)でデータシートが参照可能です。

https://bit.ly/2HpkWAj

メインプロセッサのパッケージは32pin QFN、1チップでBluetoothステレオヘッドセット機能を実現しています。主な機能は以下です。
• 32bit RISC CPU(160MHz動作,数値演算コプロセッサ内蔵)
• Bluetooth V5.0サポート
• 16bit Stereo DAC(アンプ内蔵)
• MIC入力 x 1(アンプ内蔵)
• プログラマブルGPIO x 14
• 10bit ADC x 11
• USB 2.0 OTG コントローラ x 1
• UART x 3
• IIC interface x 1
• 内蔵PMUによる電源制御
• バッテリー充放電制御

GPIOピンには複数の機能が割り当て可能です。以下はテストランド(DP/DM)に使用されているピンの例です。同じピンをUSB/UART/IIC/ADCとして使用することができます。

12_ピン割り当ての例

ピン割り当ての例(データシートより抜粋)

内蔵のPMU(Power Management Unit)によって必要な電源は内部で生成されます。表には記載がないのですがAVDD(Analog電源)も3.3Vが内部で生成されています。

13_PMU特性

PMU特性(データシートより抜粋)

データシートにはこの他にもADC/DACやBTの特性等の詳細が記載されています。
ただ、プログラミングに必要なレジスタ設定等の情報は記載がなく、検索でも見つけることができませんでした。

●水晶発振子 24MHz SMD3225シリーズ

11_水晶振動子

水晶発振子

メインプロセッサ用の水晶発振子はSMD3225シリーズ(3.2 x 2.5mm)で24MHzのものが使われています。
このタイプは複数の会社から販売されていて完全には特定できませんでしたが、"JF"のロゴから深圳市晶峰晶体科技有限公司(Shenzhen Jingfeng Crystal technology, http://www.szjf.com/)のものだと思われます。
簡易カタログは以下より入手できます。

https://bit.ly/34nYhgy

Aliexpressでは同等品が10個で$1程度で販売されています。

■Bluetooth接続の確認

スマートフォンでの確認

今回もAndroid版の「Bluetooth Scanner」というアプリを使用しました。本製品は「HDBT36BK」という名前で検出されるのでペアリングして接続情報を確認すると、プロファイルは「Headset」でCodecは「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。Venderは「XEROX CORPORATIN」となっていました。

14_BTの接続情報

BTの接続情報

Windows PCでの確認

Windows10(64bit)搭載のPCとペアリングをしてデバイスマネージャーで確認すると「Bluetoothヘッドセット」として認識されています。入力デバイスとしても選択できるので通話用のマイクとしても使用できます。

AVRCP(Audio/Video Remote Control Profile)」もサポートしてて、本機からPC本体のボリュームが制御できることも確認しました。

15_ヘッドセットとして認識

ヘッドセットとして認識

16_Windowsでの接続プロトコル

Windowsでの接続プロトコル

​■まとめ

スマートフォンとペアリングして実際に音を聞いた限りでは、全体的にクセの少ない素直な音で、低音もある程度出ていました。ステレオ対応でもあり、音楽を聴くためのワイヤレスイヤホンとして使えるレベルでした。数年前の中国製のイヤホンの音質から考えると大きく進歩しています。

メイン基板はスイッチ・LED・USBコネクタ・接続用ランドがダイソーのものと同じ配置になっていて、共通の外装が使えるいわゆる「公板」だと思われます。
外装も外形が若干違いますがスイッチ・LED・USBコネクタ等の位置はダイソーのものと共通でいわゆる「公模」だと思われます。

本製品はこれらの標準化された半製品を組み合わせて機能・外観が異なる別製品として売るという良い事例だと思います。

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