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「台所」から、いってらっしゃい。
お店の名前、正しくは「暮らしの台所 あがりこぐち」という。店名をフルネームで読んでくれるお客さんはいなくて、「あがりこぐち」もしくは「あがりこ」と呼ぶ人がほとんどだ。
ちょっと影の薄い「暮らしの台所」という名前。
なんで、「台所」という家の場所の名前をお店の名前に入れたかというと、いろんな人が集まってくつろぐことができる団欒できる場所を作りたいなと考えたから。その時に、そういう場所は「台所」だ、と思ったから、そういう名前をつけた。
リビングや客間じゃないの?と言われることもある。確かに、そう。でも、大切にしたい場所としての空気感がちょっと違う。
リビングや客間は住む人と訪れた人という隔たりがどうしても生まれてしまう。気がつかないうちに、お互いジリジリと出方を伺ってしまうような関係性が生じてしまう。個人的な感覚だけど。
一方で、台所という場所は食べ物やお酒を囲みながら語り合うことが日常のワンシーンとして常にある。客間とかに生まれる隔たりがほんのちょっとだけ無くなるような感覚が台所にはあったりする。
だから、台所では色々なシーンが繰り広げられやすいのだと思う。
お父さんとお母さんが痴話喧嘩をすることもあるだろう。
子供がキラキラさせた顔をして家族みんなに今日あったことを話ししたりするだろう。
お父さんの友人が訪ねて来て、夜遅くまでビールを飲み交わすこともあるだろう。
台所は、1日という時間のなかで色々な登場人物が現れて、喜怒哀楽の感情が現れる場所という個性がある場所だ。きっと、世界が動く瞬間が多いのも台所が多い(と勝手に思ってる)。
そんな喜怒哀楽の感情を出せる場所で、知らない人とも肩を組みながら、酒を酌み交わす時間を楽しんでもらいたいと思って、「台所」という場所の名前を店名につけた。
場所に名前をつけると、ちゃんとそういった場所になるらしい。
お客さん同士の会話が柔らかく家にいるような場所になっている。目指した景色が少しだけ、目の前に現れてくれる。
サードプレイスという言葉が流行っているけど、1とか2とか3とかの区切られた場所のあり方ではなくて、宙に浮いているようなポワポワした場所になりつつある。
そのポワポワした場所から、またそれぞれの場所に戻っていく。
だから、いつもお客さんがお店から出られるの時は「ありがとうございました」のあとに
「いってらっしゃい」という。
またこのポワポワとした台所に帰って来てもらうために。
記事を読んでいただきありがとうございます。ただいまお店は長期休業中のため、当店のレモンサワーを封印しております。店舗継続のため、もし記事を面白いと思っていただけましたら、サポートをしていただけると嬉しいです。