哀愁でいと
好きな子にご飯をごちそうになった。
そのあと少しの時間、愛を交わした。
短いけれど長い時間だった。
時間が止まってしまえばいいのに
と百戦錬磨な彼が陳腐なことを言い、わたしは彼のTシャツの背中の文字のうえで手を組んだまま、
じっとして動かないで居れば時間が止まったみたい
と答えた。
純粋が故に真っ黒に穢れた腹のふたりは、最後のときを、それぞれに勝手な想いで楽しんだ。
ふたりで食事をしに行ったのは初めてだった。
靴を脱いであがった奥の座敷には客がたくさんいて、彼と、という慣れなさに少しくらっときた。
照れながら席についたわりには、最初のドリンクを注文し終わった頃にはもう、テーブルの下で足だけ触れ合って安心していた。
考えることが一緒なのはとても楽だ。
向かい合ってメニューを見ている時や箸を置く時など、遠慮無く私の顔をじーっと見る視線に耐え難く、変に照れた。
でも、やはりそれなりの気の利いたよい男ぶりを自然にみせたので、わたしは自分の「男」を見る眼に やっぱり。 と思った。
彼は相変わらず饒舌だった。
天才的に変態である彼と独特の形で愛を交わすことは、私をめんどくさくも誇らしい気持ちにさせた。
彼という人と知り合うことがなければ、絶対に来なかった彼の職場で、というとロマンチックだけれど、それをぬきにしてもっと血に近い感触で、でもいつまでも触れて居たいような穏やかさで時間が過ぎた。
私達はとても愛し合っていたが、お互いを大っ嫌いなのだった。
言葉に疲れた私達は黙って傷を舐め合い、満足して別れた。
いい友達を持ったな、と、あたしは大嫌いなこの土地を、少し愛しく思った。
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