人生を変えた名盤シリーズvol.11 『空洞です』
「完成された後に残るもの」
第11回目は、日本のロックバンド「ゆらゆら帝国」から、11作目の『空洞です』です。
「ゆらゆら帝国」は1989年に結成し、インディーズレーベルで三作品ほど発表した後、1998年に『3×3×3』でメジャーデビューします。
過去に何度かメンバーチェンジを行っていますが、メジャーデビュー以降は一貫して、坂本慎太郎(vocal、guiter)、亀川千代(bass)、柴田一郎(drums)のスリーピース編成です。
彼らの特徴として、坂本慎太郎の独特の世界観を持った歌詞、ファズを利かせた歪んだギター、奇抜なコード進行など、それまでの日本のロックバンドとは一線を画すサウンドを生み出している点が挙げられます。
曲目は以下の通り、全10曲の構成となっています。
1.『おはようまだやろう』
2.『できない』
3.『あえて抵抗しない』
4.『やさしい動物』
5.『まだ生きている』
6.『なんとなく夢を』
7.『美しい』
8.『学校へ行ってきます』
9.『ひとりぼっちの人工衛星』
10.『空洞です』
冒頭1曲目の『おはようまだやろう』から、揺れるようなギターと、どこか肩の抜けた管楽器をバックに気怠いサウンドが奏でられています。一見バラバラで不安定に思えますが、綿密に計算されており、違和感なく聴き通すことができます。
それまで『めまい』や『しびれ』などのアルバムに見られるように、様々な音楽的実験を経てきたことが、ここに来て高度に昇華されているのが感じ取れます。
その後もアルバムは大きなアップダウンの波がなく、淡々と進んでいきます。
しかし、ちりばめられたー音一音がこれまでの作品とは比較にならないほどに洗練されており、聴くものに不思議と単調さを感じさせません。
7曲目の『美しい』は、シングルカットもされた曲で、頭の中で輪廻のように繰り返されるリフと、作中で何度も出てくる「く○」という言葉が対比となっているのが印象的です。こちらも、後述する園子温監督作『愛のむきだしで』使われています。※動画は食事中は視聴注意です。
そしてラストのアルバムタイトル曲『空洞です』は、軽快なバッキングをベースに、このアルバムのコンセプトである「空洞」について歌った曲です。
こちらの曲は園子温監督作『愛のむきだし』の挿入歌として使われており、絶妙な場面で流れています。映画自体も新興宗教問題などの複雑なテーマを取り扱っており、考えさせられる内容になっているのでぜひオススメです。
アルバムを通して聴き終わった後、一曲一曲のことをあまり覚えていないのですが、なぜか浮遊感と心地良さに満たされます。
彼らの持ち味である、歪んだ激しいギターなどは鳴りを潜め、全体的にタンパクで抑え気味なサウンドです。
正直なところ、今作だけではその凄さの全体像がつかみにくいかもしれません。しかし、ここにいたるまで色々実験してきた彼らの経緯を追うと、納得できるものがあります。
ゆらゆら帝国に興味を持たれた方は、彼らの過去作を順に追っていくと、今作をより楽しむことができます。どれもクオリティが高く、特に初期はガレージバンドの要素が強いので、そういう曲調が好きな方にもオススメです。
また、今作を持ってゆらゆら帝国は解散します。
その理由は”『空洞』を持ってゆらゆら帝国が「完成」してしまった”からとのことです。
たしかに、これ以降の作品は過去の焼き増しになる可能性が高いと思わせるほどのクオリティであり、これを超える作品の想像がつきません。
結局のところ、最後に行き着くのは余分なものを削ぎ落とし、一つ一つが洗練された”シンプル”な場所なのかも知れませんね。
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