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第13章「ユイとヨシキの考察」

 神社に到着し、宮司さんが、竹箒を持って掃除をしていた。
「卒業おめでとうございます」と竹箒を止めてアスカにお辞儀した。
「宮司さん、岩を返しに来ました」と走って宮司さんに近づくアスカ。
「これ見て下さい。深海と同じ環境下の中、一年以上漬けて置いたところ、岩にひびが入りました。また、大切にこの岩を保管して欲しいと思います」とアスカは宮司さんに岩を渡した。

「先人の人々がなぜ、この岩を割ることが出来なかったのか、ようやく分かりました。力づくではなく、環境を整える。環境は、生命にとって重要な要素、それ故、この岩は、生命を司る石の由縁なのでしょう」と宮司さんは、アスカから岩と長三宝を受け取り、またお辞儀をした。アスカは、そのまま階段を登り、狛犬にお辞儀をして神社の鈴を鳴らして、お賽銭を入れてお参りをする。

「私、四十六億年前の火星に行っていました。地球と月に助けられました。あの日、神社に立ち寄らなかったら、この地球に戻れなかったかもしれません。生命を司る石に呼び戻されたように感じます。私がここに居ること、命の繋がりの尊さを教えて頂きありがとうございます」とお祈りをして神社を後にした。

 その後、アスカは、学校の美術室に戻ると、そこには、ユイとヨシキがアスカの荷物を整理して待っていた。
「荷物の整理ありがとう」とアスカが言うと、
「遅かったじゃん! 待ちくたびれたよ」とユイ。

「電話どうだった?」とヨシキが聞いたので、アスカは、火星に行っていたのかもしれないと二人に伝えた。ヨシキは「なるほど、実に興味深い」と話し始めた。

「これで全ての謎が解けた訳だ。確かに火星は、初期から四億年程度は水があったとされている。そして、地球と火星どっちが初めに出来たか。詳細は分かっていない。火星が地球より、早く出来ていたってことかな。そして、火星の叡智が詰まったカプセルはジャイアントインパクト後の地球へとゆっくりと運ばれて、広大な海が広がる初期の地球に落下して、深海で温められ、自己相似型フランクタルのDNAプログラムみたいなものが発動されて、地球の環境に合わせながら、進化して行ったわけか。そして、地殻変動して、海底にあった八個の内の一つが押上られて、ここの神社に祀られている。それが、昔から生命を司る石として崇められているのか」

「なんだか、不思議な感じだよね。まるで、アスカに会うために、ここの神社にあったような感じだね」とユイが頷きながら呟く。

「そして、アスカが見た火星の周りには、チリがたくさんあって、そのチリが火星に向かう隕石とならないようにバリアフィールドがあり、同時に重力制御装置の役目もあった。ハルスの攻撃により、横断シャトルは崩壊、重力制御装置が、破綻して、砂煙は宇宙に放出され、バリアフィールドの周回軌道のところで、破損したバリアフィールドの微弱な引力により、宇宙に放出された火星の砂煙は集められて、長い時間を経て今のファボスになっていった。それを裏付けるように、日本の快挙として最近、報じられたMMX計画のサンプルリターンだ。そのサンプルの成分を調べたところ、火星の表面から舞い上がってファボスが形成された可能性や、太古の火星の土壌とされる成分が検出されているから、今後さらにファボスの正体が明らかになってくるだろうな。そして、アスカが見た外側のチリはダイモスとなったのかもしれないな。しかも、ファボスは、ギリシャ神話に登場する恐怖を意味する神ポボスから名前がとられていて、火星の恐怖がファボスとして残ったのなら、とても感慨深い。そして、赤い星の意味も説明がつくかもしれない。火星の表面の岩石や土には鉄分が含まれこれが酸化して赤っぽく見える。さらに、大気のほとんどが、二酸化炭素だ。これは、建物に使用されていた鉄が、ゼノスにより分解されて、大気に流れ込み酸素と結合して、舞い上がった砂煙が、地表に降り注いだのかもしれないな。そして、重力制御装置の崩壊で気圧が制御出来ずに、軽い原子は宇宙へ、重たい二酸化炭素は大気へ残った。バリアフィールドを失った結果、太陽風に去らされて磁気嵐の影響を直接受けてゼノスも機能停止、そして、火星では、四十六億年以上の間、砂嵐が生じていることから地表の塊もさらに細かくなって行ったのかもしれないな。まあ、ゼノスは自らも素粒子分解したかもしれないけどな」とヨシキは話した。

 いつになくユイは聞いていて頷いていた。
「もしかしたらさ、ゼノスが消去プログラムを発動した後にカプセルを打ち上げることに成功しているんだとしとら、地下にいたサンド博士たちは、ゼノスの影響を受けてないのかもしれないね」とユイはヨシキに賛同するように話した。

「確かにそうかもしれない。サンド博士がいた場所は、政府と隔離されていて、秘密基地みたいな場所だもんな。そうなると、ゼノスの消去プログラムは避けられていたのかもしれない。そして、サンド博士達が住む場所が第二のマスゴットのような施設なら、今でも祖先がいるかもしれないな」とヨシキは期待を込めてアスカに伝えた。

「そうだよね。火星で活躍したあの忍耐の車も火星に生命の痕跡に近づく発見をしているから、かなり望みがあるんじゃないかな」とユイも力強く答えた。

「忍耐って、確かにそうだけど、パーサビアランスだよ。あれは、日本人も関与してる大きなプロジェクトで、あの発見が本当に生命の痕跡であるなら、ハルスの爆発で一度舞い上がった砂煙が、宇宙空間に放出しゼノスの消去プログラムを免れて、バリアフィールドがなくった影響で、ダイモス周回軌道の隕石が、砂煙を付着させもう一度火星に舞い戻ったのかもしれないな」とヨシキが訂正する。

「でも、重力制御装置で地場がなくなってたら、隕石は落ちるのかな」とアスカはヨシキに疑問を投げかけた。
「火星の重力は、地球の三分の一でファボスは今も百年に二メートルは火星に近づいているみたいだぜ、さらに、興味深いのが、ファボスとダイモスは火星の赤道面に沿いながらほぼ完璧な円軌道で周回していることだ」とヨシキが言うと、
「それが、なんなの?」とユイ。

「月の軌道は楕円軌道、火星の衛星はピッタリ赤道面に円軌道、俺は、バリアフィールドのかけらが火星の内部とまだ交信してるんじゃないかなって思ったんだ。そう考えると、ユイが言った。地下にサンド博士の祖先が生きててもおかしくないなと思ってさ」とヨシキは満足げに話した。

「さすが、ヤヒコが師匠と崇める男ね」とアスカが笑った。
「この前、ヤヒコに会った時に、MMX計画とパーサビアランスの記事があったから渡したんだぜ、あいつ喜んでたよ」とヨシキは思い出すようにアスカに言った。
「あれ、ヨシキがヤヒコにあげたんだ。たまたま見たから、この話しについて行けたけど、読んでなかったら全くついて行けてなかった。ここに来る前に読んでて良かったわ」とアスカ。

「でもさ、そうななると、怖いな」とユイは不安げな表情を浮かべた。
「何が怖いんだよ」とヨシキはユイに問いかける。
「だってさ、火星の地下に人が住んでて、四十六億年前にゼノスを開発した人たちでしょ、今も生きてたらどんな驚異的な技術を持っているか分からないじゃん。これから、地球人が火星を目指して有人ロケットで火星移住することもあるじゃん。そうなると、争いが起きて、地球の技術じゃ太刀打ちできないじゃん」とユイは、ヨシキを見た。

「んー。それは、一理ある。けど、火星の人たちは、地下から出れないのかもしれない。もし、出てきてたらすでに、地球に来ているかもしれない。それが、UFOとゆえば簡単だけど、そうじゃなくて、地下に止まる理由がある。それは、バリアフィールドをなくした火星の人たちは、外に出るのも命がけなのかもしれない。そもそも、マスゴットの空間から出れないのかもしれないな。もし、地球人が、マスゴットに足を踏み入れようものなら、争いが起きるかもしれない。だから、争いは、避けられない」とヨシキは返した。

「じゃ怖いじゃん。昔の宇宙戦争みたな話になるのかな。何か、地球人と火星の人たちが仲良くなる方法はないの?」とユイ。
「いや、難しい」とヨシキ。
「そうか、仲良くなれる方法は、私のこの記憶がキーポイントなのかもしれない」とアスカ。
「どうゆうことだ?」とヨシキがアスカを見た。

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