IT マネジメントとしての教科書

ある日突然事業部門から情シスマネージャーに異動命令が下る。何となくITに詳しそうだからやってみなはれ的に一人情シスに任命されるケースもあれば、そこそこ大きな会社で情シス部門があるけれど、内部の人間では改革が出来ないだろう、ということで、情シス批判の急先鋒だった事業部門のエース級人材が情シス部門責任者に抜擢されるケースもあるでしょう。

ここでは情シスマネジメントとしての必要最低限の教科書2冊をご紹介いたします。

情シスのお仕事を大きく二つに分けると、一つはシステム開発、もう一つがシステム運用です。このシステム開発を進める上で重要なのが、プロジェクトマネジメントの手法です。情報システム構築のプロジェクトは比較的に大規模プロジェクトが多く、ステークホルダーも多岐にわたります。こうしたプロジェクト管理に関する基本的な知識体系を身に着けるための教科書がPMBOK(Project Management Body of Knowledge)です。ITプロジェクトに特化したものではありませんので、ビジネスパーソンとしての読み物としてもお勧めします。例えば本に出てくる「プロジェクト・チャーター」なるものは、この本を読んで初めて知りました。これがないとプロジェクトが迷走した時に立ち戻るべき原点が不明確なのですが、多くのプロジェクトがこうした原点が不明確なままイカリを上げ長い航海に旅立っています。この本は特にプロジェクトを取り回した経験ある方にこそ読んで欲しい本です。プロジェクトマネジメント知識体系の教科書ですし、IT開発プロジェクトを上手く取り仕切る上での必読書でもあります。膨大なPMBOKを要約・解説した入門書も沢山出ておりますのでご自身の手に取って、選んで頂ければと思います。

英国政府がまとめたITサービスマネジメント全体のベストプラクティス集から発展して、国際規格にまで格上げされた理論体系がITIL(Information Technology Infrastructure Library)です。ITの運用は、品質も守らなきゃいけない、コストも抑えなきゃいけない、外注管理も必要だ、システムのライフサイクル管理もやらなきゃと、とにかくやることが沢山ありますが、そのやるべきこと(what)と、それをどのようにやれば良いか(how)を一覧にまとめてくれたノウハウ集がITILです。私が勉強した頃はバージョン2~3でしたが、このnoteを書こうとして調べたらバージョン4が出ていました。勉強をさぼってはいけませんな。下に本家英国発行のITILの教科書の日本語版のリンクを貼っておきますが、ITILは解説本が多数出ておりますので、そちらから入ることをお勧めします。小さな組織の新任マネージャーの方へのアドバイスですが、ITILの体系を全部やらなきゃ、と思わないことです。無理ですから。自社の中での弱みや改善したいポイントをこのITILの体系とマッピングして、その部分にまずは注力する事をお勧めします。例えば、「インシデント管理」は重要な項目です。インシデント管理をどのようなプロセスで回せば良いのかがライフサイクルとしてITILに定義されていますので、それを教科書通りに導入する中で、全部は出来ないにしても、「ここまではやろうよ」というレベルを定めて走りながら改善して行けば良いと思います。大企業の情シス部長に突然任命されたビジネス部門の方にもハンドブックとして活用頂けます。部下から専門的な説明を受けていると、つい印象で「うん、ちゃんとやってくれてるな。」と思ってしまいますが、ITILの基準との違いに注目して、「ITILでは、こう言ってるけど、何故当社は違うやり方なんですか?」という切込み方をする事で、自社の持つ潜在的課題や、ITの運用現場で積み上げた部下たちの優れた工夫が浮き彫りになるでしょう。

ここで書いた内容は、知っている人からすれば、当たり前の内容です。この当たり前のレベルが揃う事で、共通の思考フレームワークの中で共通の言語で現場とトップが会話が出来る事が重要です。時間がないので二冊も読めない場合は、ITILから始めて下さい。「ITの事は分からん」ITマネジメントの人も、「ITILは分かっとる」になって欲しいと思います。ITILの体系は単にIT運用に留まらず、企業オペレーションのマネジメントフレームワークを考える上でも参照出来るネタの宝庫ですので、食わず嫌いをやめて栄養食として是非お召し上がり下さい。


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