全体最適が全体不幸に

「全体最適」- 情シス部門が良く使うフレーズです。経験的に「全体最適」を錦の御旗とするプロジェクトは、誰のためにもならないプロジェクトが多い。「全体最適」に「ガバナンス」とか「ベストプラクティス」のようなトッピングが盛られたプロジェクトは間違いなく「おもしろくない」「ワクワクしない」プロジェクトです。しかも「全体最適」を口にする人が、本社部門で事業にタッチしない人の場合、間違いなく「地雷プロジェクト」です。

結論を先に述べると、「顧客最適」を志向した「事業最適」な取り組みこそがあるべき姿です。ビジネス上の目的や顧客提供価値こそが設定すべき課題なのです。

本社は個々の事業部の仕組みがバラバラなので全体最適を叫ばなければならないのでしょうが、事業の特性を無視した全体最適は全体不幸への道です。顧客の特性が同じで、流通チャネルも同じであれば、顧客ニーズの充足プロセスの同質性が高いので「プロセス」と「IT」を共通にできる可能性が高いでしょう。ある事業部があるお客様と商談する。別の事業部が同じお客様を訪問して「初めまして」と挨拶すれば、お客様は戸惑ってしまいます。事業部をまたいだデータとプロセスの連携がお客様の為に必要です。グローバルにB2Bビジネスを展開するお客様ですと、お客様のアメリカ本社から全世界の発注をまとめて自社の米国子会社に出すので、世界中の拠点に製品デリバリーして欲しい、といったニーズが出てきます。そうすると、全世界の在庫管理、受発注管理が密連携していないと、お客様のニーズには対応できません。こういったお客様のニーズを基礎にした「事業最適」を行う取り組みに「全体最適」が謳われているならば、いいわけです。全体最適が、本社による本社の為の取り組みにならないようにしなければなりません。

とはいえ、情報システムへの投資は投資効率の面からも考慮されなければなりません。事業最適だからといって、別々のパッケージシステムをそれぞれの事業部が導入する事にはムダが多い。投資効率を高めながら個別事業への対応力を高めるような二律背反な命題を背負って立つのが情シスで働く者に課された宿命です。宿命とは与件です。ですので、これを問題だと感じない方が心と身体の健康の為には良いでしょう。これも「何を課題とすべきか」という適切な課題設定の問題なのです。

理想を言えば、事業部の現場からは「うちの現場の為に作ってくれた」と思わせるシステムを、共通の仕組みの中で提供出来れば最高です。「現場最適なプロセス」を「共通化されたシステム」で実装する。こういった理想を持ちながらも、個別事情による例外を容認する「寛容さ」が求められます。組織の潤いはこういった寛容な態度から生まれます。重箱の隅をつつくような企業内警察活動に取り憑かれた「ガバナンスオタク」にならないよう気をつけなければなりません。

ある程度規模の大きな会社では、事業ドメイン毎に裁量権を渡し、そのトップが話し合いで全体としてやるべき事を合議で決める「連邦制」的運営が上手く行くでしょう。小規模で単一事業の会社では「トップダウン」でやった方が良い。2つのアプローチは手法は異なりますが、目指すところは「スピード感ある意思決定を現場の納得感を獲得しながら行う」ことで共通しています。アリの目で現場を視ながら、鷹の目で会社全体を俯瞰するように、事業オペレーション全体に対して責任を持った対応が求められます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?