小さなイノベイションの興し方

イノベイションは”0”から”1”を生み出す、改善は”1”を”100”にする、などと言われます。小さなイノベイションをどのように興すかについていくつかの発想法や戦術をまとめてみました。

虎の尾を踏むな

虎の尾とはすでにそこにある定型業務やシステムです。イノベイションは”0”から”1”を生み出す行為ですので、すでにそこに何かある時点で、”0”じゃないわけです。FAXでのやり取りを電子メールに変更するのはイノベイションではなく、改善業務なのです。しかも、そこに何らかの完成された定型業務がある場合は、それに慣れ親しんだ人々からの反発も起こるでしょう。虎の尾を踏むと虎が怒って襲い掛かるわけです。まずはそこに虎の尾があるかを確認し、虎の尾が確認できたら、そっとその場から撤退しましょう。

現場に聞くな、現場を視よ

現場・現物・現実で発想することは重要ですが、その際に現場の人たちを会議室に集めてヒアリングして、意見をまとめて、上司に「現場を視てきました、現場の意見も頂きました」と報告書をまとめて悦に入る方も多いと思いますが、これでは現場を視たことにはなりません。現場の方を集めてヒアリングすると、その方たちの意識にある顕在化された課題の中から、「情シス部門の人が解決できると思われる課題」のみが抽出されてテーブルの上に並びます。ここに2つの問題があります。まずその顕在化された課題が本当に重要な課題なのか。多くの課題は現象面から捉えられているケースが多く、原因と結果の関係で見れば、結果の部分を捉えているケースも多い。その上で更にもう一つの課題は、「情シス部門の人が解決できると思われる課題」のみが抽出されることです。結果的に出てくる意見が、「この画面とこの画面の2画面の操作が面倒なので1画面で操作できるようにして欲しい」というような現場意見です。典型的な改善テーマです。例えば製造の現場であれば、生産ラインで働いている人を観察して気づきを得る。どうしてこの人は伝票をもって走っているのか、どうしてこの人は手持ち無沙汰でぼーっと立っているのか、どうしてこの人は材料倉庫の棚の方をきょろきょろと眺めているのか、といった観察の中から出てくるちょっとした違和感がイノベイションのたまごです。現場の人の話しを聞くのは、まさにこういう違和感を発見した時です。まずは「今何をしているんですか?」というまったくの素人的質問を恥ずかしげもなくぶつけてみましょう。

会社をハッキング

虎の尾を踏むなと先ほど述べましたが、虎の尾がないところとはどういうところでしょうか。誰もその領域に足を踏み入れていないところ、誰も「そこはうちの部門の守備範囲」だと思ってないようなところ、そこに手を出しても誰も文句を言わないようなところ。こういうところはいわば「会社の脆弱性」のあるところであり、そこをハッキングして、自分の新しいアイデアを持ち込んで実験場としてしまう事が出来れば、イノベイションが興せ、かつ周囲から非難を受けるリスクを最小化出来ます。どこがハッキングできるかな?と頭を巡らせてみると良いでしょう。新興国で小さな規模で運営されている拠点で何か新たな試みをチャレンジしてみるように、どこかに「特区」のようなものを作るイメージです。

どこまでもPoC作戦

イノベイティブな取組みは、まずは試しにやってみるところからスタートします。これをPoC(Proof of Concept)と呼びます。アイデアの実用性を検証する作業です。それがまあまあ上手く行ったとしましょう。でもそれを全面的に推進するにはどうも心配との声がマネジメントから多く聞こえてくる。このような時は、反対派を説得するよりも、反対派の心配に寄り添う、もっといえば反対派に抱きつくような作戦がお勧めです。それが「どこまでもPoC作戦」です。PoCをある支店で実施した。うまく行った。では別の支店へ展開する。まだ心配だ。だからPoCとしてまた別の支店に展開する。このように、どこまでも検証フェーズを続け、その間に出てくる細かな課題を微調整しながら改善によって解決する。展開が進みながらも、あくまでもPoCフェーズなので、反対派が懸念するような大きな問題が発生した際にはいつでも中止が出来る。反対派にある意味「拒否権」を与えることで、平和裏に導入展開できるわけです。気づいたら大半の支店がすでに新しい仕組みを採用し、新たな定型業務として運用定着しかけたあたりで、反対派の親分に「もうそろそろ本番でよろしいでしょうか」と丁重にお伺いを立てればそれで仕上がります。

社内の強いおっさんを探せ

情シス部門の若手が何かイノベイティブな取組みに挑戦したいと思っても、反対派の急先鋒が情シス部門のボスだった、という事例も大企業ではよくあるケースです。このような場合は、R&D部門、マーケティング部門、もしくは企画部門の部長以上の強いおっさんを探しましょう。おっさんと表現しましたが、これは関西風にエッジを聞かせた比喩的キャッチコピーでありまして、男女を問わず、要は社内に強い影響力を持った戦闘能力の高い人に全面的に出てもらい、その人がそのイノベイティブな取組をリードしている、という体裁を作る。情シスのボスの意向とは異なる取組みだが、エライ人から言われたので渋々(笑)やっています、という言い訳を用意して、がっつりと進めるのです。先ほど述べた3部門を挙げた理由ですが、まずは自由になる金を持っている。PoCには軍資金が必要です。コストダウン要請でギリギリと絞られている情シス部門には戦略的な投資資金がない場合が多い。その上でこの3部門の長は、どこの会社においても、社長からの信任と各部門への影響力という意味においてヘビー級なおっさんが生息しているからです。大きなおっさんの背中に隠れて、思いっきり遊びましょう。そして将来は、あなたが大きな背中を部下に見せてください。

テヘペロ作戦

可愛い飼い猫が植木鉢をひっくり返した。「こらー!」と怒ると、いかにも反省したような表情を見せつつ(実は反省などしていない)、足元スリスリするので、まあ可愛いから許してしまう。この猫の高等戦術をそのまま実践するのがテヘペロ作戦です。これも大企業でよくある光景ですが、本人たちは真面目にイノベイションを興すためにPoCをやってるのですが、周りから見ると「仕事もせずに、遊んでいる」と見られることがよくあります。正に猫と一緒です。ですので、「こらー!」と怒られたら、いかにも弱弱しく申し訳なさそうに抵抗もせず、しょぼんとした態度を見せてその場をやり過ごしたり、健気なポーズでなんとかその場を取り繕います。ほとぼりが冷めたらまたごそごそといたずら(まじめなPoC)を始めるのです。そしたら、また「こらー!」と怒られて…(以下繰り返し)。しばらくこれが続くと怒っている人も、「しょうがねえな、だって猫だし。」みたいな諦めの境地に至ります。そうすればもうこっちのものです。ここでの最大の武器は「愛嬌」。私も修行を積んで、愛嬌だけで人生乗り切れるような本物の「愛嬌」を手に入れたいものです。でも真面目な話し、イノベイティブな人って、愛嬌たっぷりなんですよね。

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