「昭和なちゃぶ台返し」から企業の意思決定モデルを考える

大企業で事業ドメインが複数あったり、海外拠点が複数ある場合の意思決定の問題について述べたいと思います。意思決定にもレベルが様々で、全体最適での意思決定が個別事業にとって最適ではないケースもあるでしょうし、どちらに決めても大差なければ、「エイっ」とトップが決めてしまえばいい問題もあります。ERPを導入する場合で言えば、何をグローバルテンプレートとして、何をローカライズするかについての意思決定が短期間に求められます。いずれにしてもフェアで透明性と納得性の高い意思決定システムの構築と維持は、情シス組織の運営において重要な問題です。先ずは意思決定において私が参照している3つのモデルを紹介した上で、私が推奨するモデルをご紹介します。

国連安全保障理事会常任理事国モデル
このモデルの最大の特徴は、意思決定の参加者に拒否権がある事です。そして1人でも拒否権を行使すれば、その議案は可決されません。一つの会社に複数の事業ドメインがあり、それらの政治力が拮抗している場合は、この意思決定モデルが有効でしょう。全員が賛成する事のみを本社としての施策として実施するのです。

EU特定多数決モデル
欧州連合理事会で採用されていた意思決定モデルで、加盟国の人口に応じて票数を割り当てた上で多数決を行います。欧州の場合は可決要件は複雑で、詳細は省きますが、要は全会一致せず、意見が割れるものについても何か1つの案に決議する必要があるケースについての意思決定モデルとして参考になります。会社にいくつかあるドメインや会社の文字通り従業員数に比例按分した投票数や、売り上げ等業績に関するKPIに応じた投票数で意思決定を行うモデルです。

マキャベリズムモデル
トップが圧倒的なカリスマを持っている企業や、創業経営者がリードする大半のスタートアップ企業はこのモデルです。話し合ったり、意見の違いを擦り合わせたり、反対する人を説得したりする時間がなくなりますので、意思決定は早くなります。トップダウンではあるが、トップが対話を心がければ納得性の高いモデルでもあります。

私がお勧めするモデル
参加者の中の限られた数社(数人)で意思決定コミッティーを作り、そのコミッティーメンバーには「拒否権」を与えます。よってコミッティーでの意思決定は全会一致が前提。一致出来ない場合はその事案はローカライズ事案として各社で自由に決めて良いものとなります。コミッティーメンバーの選出はある程度の事業規模以上という仕切り方や、日米欧の3拠点の代表者という地域軸など、それぞれの組織においての納得性と効率性の均衡点を探す必要があります。コミッティーメンバー以外の会社や事業部はリファレンスメンバーとして、議題に関して事前に意見を表明したり、意思決定事項に対して納得が出来ない場合はコミッティーに対して不服の申し入れが出来る様、エスカレーションのパスを用意しておきます。コミッティーメンバーはリファレンスメンバーから寄せられる少数意見にも耳を傾けながら、責任ある意思決定を行うのです。不服の申し入れがあれば、速やかに審査を行い、決定事項を改めるか、決定事項を追認します。その際に十分なコミュニケーションを取る必要があります。コミッティーメンバーには全ての参加メンバーに対して説明責任があるのです。 

意思決定システムのない世界は「影のボス」が支配する世界です。「〇〇さんが聞いてない!というと面倒くさい事になる」と誰もが恐れる〇〇さんが持っている権力は一体何か。それが「拒否権」です。拒否権は意思決定における最高レベルの権利と言って良いでしょう。米国大統領は連邦議会で可決された法案に対して「No!」と言えます。これは「大統領拒否権」と呼ばれる権利です。マンガの世界に出てくる昭和な家庭のオヤジが持っていた「ちゃぶ台をひっくり返す」権利(笑)、これこそが拒否権の本質です。令和な時代のモダンなオフィスで「影のボス」が昭和なちゃぶ台返しをやっているのは、なんとも辛い光景です。

意思決定システム構築においてもっとも重要な事は、この拒否権を誰に渡すのか、だと思います。「拒否権」を意識して、今ある意思決定システムを眺めてみる事で、何らかの発見があるのでないかと思います。拒否権を明示的に権利として定め、意思決定のシステム化を行う事をお勧めします。また国連やEUの様な高度な多様性と政治が絡む問題を扱う組織が採用している意思決定システムは、多国籍企業の意思決定システムの良いリファレンスモデルになりますので、良いものをどんどん模倣すれば良いと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?