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アリストテレス『ニコマコス倫理学』を読むための前提知識

アリストテレス(紀元前384年-紀元前322年)は、古代ギリシャの哲学者であり、その時代背景は古典期のギリシャに位置しています。

では、古代ギリシアってどんな時代?
ということを理解してから『ニコマコス倫理学』を読んでいこうと思います!

古代ギリシアの特徴

ポリス社会
 
アリストテレスが生きた時代、ギリシャは多くの独立した都市国家(ポリス)に分かれていました。最も有名なポリスには、アテナイ(アテネ)、スパルタなどがあります。これらのポリスはしばしば互いに戦争を行い、同盟や敵対関係を築いていました。

🧐 古代ギリシアでは、ポリスの中で市民として貢献することが一番良いとされており、個人として生きる発想が出てくるのはずーっと後

 また、市民の数はとっても少なかったと言われています。

重装歩兵(ホプリタイ、hoplitai)
 重装歩兵は、古代ギリシャの戦争において重要な役割を果たした市民兵のことです。彼らはギリシャの軍事史において非常に重要な存在であり、ポリス社会の軍事力の中心となっていました。

映画『スリーハンドレッド』は古代ギリシアが舞台になっています。
この映画では、ポリス間の障害者の扱い方の違いも描かれています。

奴隷制度
 古代ギリシアにおける奴隷と市民の関係は、社会の基盤を形成する重要な要素でした。奴隷は経済や家庭生活に不可欠な存在であり、市民の生活や富の維持に大きく貢献しました。
 一方で、法的、社会的な地位の差は明確で、奴隷は市民と比べて厳しい条件下で生活していました。中でも、女性は市民権を持つことができず、公的な生活や政治活動には参加できませんでした。

😖 アリストテレスは、各自の能力にふさわしい地位を与えるべきと考えていました(奴隷制擁護論)。今では道徳的に考えられないですが


社会的背景

教育と哲学
 
アテナイは、当時のギリシャ世界の知的中心地の一つでした。ソクラテス、プラトン、アリストテレスといった著名な哲学者が活動し、多くの学派が誕生しました。アリストテレス自身はプラトンのアカデメイアで学び、その後、自らの学派「リュケイオン」を設立しました。

政治体制
 
ギリシャのポリスはそれぞれ異なる政治体制を持っていました。アテナイは民主制、スパルタは二人の王が統治する独特の政体、他のポリスは貴族制や僭主制などさまざまでした。アリストテレスはこれらの政治体制に関する研究を行い、『政治学』などの著作にまとめました。


アリストテレスの生涯

出身地と教育
 
アリストテレスはマケドニアのスタゲイラ(現代のステイラ)で、貴族の家庭に生まれました。幼少期に父親を亡くし、アテナイのアカデメイアに入学してプラトンのもとで学びました。

アテナイでの活動
 
プラトンの死後、アリストテレスはアテナイを去り、アッソスやミティリーニ(レスボス島)で活動しました。その後、マケドニア王国の宮廷でアレクサンドロス大王の教育係を務めました。

リュケイオンの設立
 
紀元前335年頃、アリストテレスはアテナイに戻り、リュケイオンを設立しました。ここで彼は多くの弟子を育て、膨大な著作を執筆しました。

晩年と死
 
アレクサンドロス大王の死後、反マケドニア感情が高まり、アリストテレスもその影響を受けてアテナイを去らざるを得なくなりました。彼はエウボイア島のカルキスに移り、そこで亡くなりました。


古代ギリシアの政治学の位置づけ

古代ギリシアにおいて、政治学は学問の中で最高峰とされていました。
現在では、法学や国家学、政策学の中の一つとして「政治学」が位置づけられています。


アリストテレスの政治学についての基礎知識

 アリストテレスの政治学は、理論的・実践的・制作的な側面から成り立っており、彼の思想の基盤となっています。

理論(観照) Theoria(セオリア):episteme

 理論は、事実や現象を観察し、理解し、知識(エピステーメー)を得る活動を指します。アリストテレスにとって、理論は実践と対照的なものであり、知識を追求するための活動です。

🌟アリストテレスにとって理論とは、人間が介入できない、どーしようもできない分野のこと

理論の例として、たとえば、「論理学」や「数学」、「天文学」があげられます。

実践 Praxis(プラクシス):phronesis

 実践は、アリストテレスの倫理学と政治学の中心的な概念の一つです。プラクシスは、倫理的、政治的な行動や活動を指します。アリストテレスは、人間の幸福(エウダイモニア)を達成するために必要な徳(アレテー)の実践を重視しました。

実践の例として、たとえば、「政治学」や「法学」、「倫理学」があげられます。

3. 制作 Poiesis(ポイエーシス):techne

 制作は、物事を創造し、生み出す活動を指します。これは特にアートや工芸、技術的な制作に関連しますが、政治においても重要な概念です。

🌟アリストテレスにとって制作とは、人間の手によって変えることができる分野のこと

制作の例として、たとえば、「詩学」や「音楽」、「弁論術」、「工学(建築学, 造船)」があげられます。


有名な絵画:アテナイの学堂

 「アテナイの学堂」(原題: "The School of Athens")は、は、西洋哲学の歴史における偉大な哲学者たちを一堂に集め、その対話や議論を描いたものです。
 この絵画から、プラトンとアリストテレスの違いが見られます。

アテナイの学堂

プラトン
 
左手に『ティマイオス』を持ち、右手で天を指しています。これは彼の形而上学的な思想(イデア界)を象徴しています。
アリストテレス
 右手に『ニコマコス倫理学』を持ち、左手で地を指しています。これは彼の現実主義的なアプローチを表しています。


おまけ①:100分で名著いいよね〜


おまけ②:政治循環論

プラトンの政体循環論

プラトンは「統治する人数」と「法律(正義)に適っているか」によって政体を分類しました。

「王制」(バシレイア) - 法律に基づく単独者支配
「僭主制」(テュランニス) - 法律に基づかない単独者支配
「貴族制」(アリストクラティア) - 法律に基づく少数者支配
「寡頭制」(オリガルキア) - 法律に基づかない少数者支配
「民主制*」(デモクラティア) - 多数者支配(法律に基づくか否かでの区別無し)

ウィキペディア

*デモクラシーは、良い意味で使われていませんでした。
アメリカの台頭によりデモクラシーが評価され始めました。

ポリビオスの政体循環論

ポリビオスは、ローマ共和政時代の歴史家で、「政体循環論」という歴史論を主張し、ローマの地中海制覇を歴史研究から明らかにしました。

ギリシア・ローマの歴史には、その政治形態において、君主政→暴君政→貴族政→寡頭政→民主政→衆愚政→君主政、という一定の循環がみられるという法則があると論じた。

世界史の窓

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