才の祭小説

「アヴェ・マリア」

12月24日。
色とりどりの靴音が響く街。
街路樹で靴磨きを営んでいる少年がいた。
10代前半くらいだろうか。
寒い中にもかかわらず、少年の眼差しはどこか穏やかだった。

今日はお客が少なく、少年は少し風の吹いている高い空を見上げた。

「頼むよ」
歳は50代くらいのスーツを着た男性が来た。
少年は靴を丁寧に磨いた。

「ほれ、これくらいでいいだろう?」
男性は金を渡した。
少年が手のひらの金を見ると、
掲示している金額の半分だった。
いつものことだ。
まともに払ってくれる客は少ない。

少年は黙って金をポケットにしまった。

しばらくすると、1人の女性がやってきた。
少し金色がかった髪をキレイに整えた美しい女性だ。

「こんにちは。
お店どう?」
女性は微笑みながら少年に尋ねた。
少年は女性を見ると、だまって頷いた。

「今日は、もうお客さん来ないから帰りましょう。
美味しいケーキも買いましょうか」
そう言うと、女性は少年の頭を撫でた。
少年は照れくさそうに笑った。

少年は店の道具を片付けると女性と一緒に歩き出した。

街の音楽が少し小さくなる道。
ふと、道路脇でビルの壁にもたれるように座っている男性がいた。
髪の毛は伸びてボサボサで、
身につけていた服も土にまみれていた。
女性と少年は、男性を見ると立ち止まった。

女性が、その男性に駆け寄ると肩を抱き寄せた。

「大丈夫ですよ」
そう声をかけると微笑んだ。

うつろな目をしていた男性は少し驚いた表情をした。

「なぜ・・なぜ私のことを・・・」
男性は髭が伸びている唇を震わせながら言った。

女性は微笑んだ。

「あなたを愛しています」
そう言うと、女性は男性を抱きしめた。

女性の身体が黄金色に光る。
遠くまで届きそうな光は男性をゆっくりと包んだ。
そして光が消える。

「おお!これは・・」
男性は驚いて自分の身体を見た。
土にまみれた服も身体もキレイになっている。
髪も短く整い、髭も無くなった。
男性は立ち上がって、そっと頭を下げた。

「あ、ありがとうございます。
ありがとう・・ございます・・」
男性は目に涙を浮かべ、女性に感謝した。
女性は黙って微笑んだ。

「さあ、行きましょう」
女性は少年を促すと、二人は歩き出した。

夕暮れ。
街は夜の雰囲気へと変わろうとしている。

「贈り物を受け取ってくれる人いましたね」
少年が女性に言った。

「さあ、ケーキを買って、今日の良かった日をお祝いしましょう」
女性は少年に向かって微笑んだ。

「わあ、嬉しいなぁ。
キャンドルも照らして歌も唄いたい。
今日は特別だもんね。
マリア様」
少年は満面の笑みで女性を見つめた。

少年の背中がキラリと光る。
小さな翼が生えた。

少年は賛美歌を口ずさむ。
1つ2つ星が浮かびだした空に響く。

♪♪
汚れなき聖母
我を許す微笑み
私には見えます
命の灯火が

ああマリア
この世界は美しい
汚れに見えるものすらも

ああマリア
その限りない赦しを
我が子らに微笑みを

ああマリア
希望の光を

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