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スタートアップ企業にデザイン組織が必要かを、CEOと検討した話

先日とあるCEOと話していて、スタートアップ企業でデザイン組織をつくることに関して、デザイナーと経営目線から考えて自分なりに整理できたのでちょっと書き残しておきます。

現状ヒアリング

「ちゃんとデザインができるようにしたい」
さくっとまとめると、そんなオーダーでした。
ちゃんとデザインができるようにしたいとは?と、色々とヒアリングする中で、パラパラと出てきた要望や課題としては
「エンジニアと協力してデザインを実装できるデザイナーが社内にいてほしい」
「そろそろ会社のブランディングが必要。コーポレートのデザインがほしい」
「PJごとにデザインを統一するかしないかなど差配できる人がほしい」
「自分が入らないと品質が上がらないのでなんとかしたい」
などなど。

状況を整理していくと、エンジニアと営業ファーストな開発になってしまっており、デザインの優先度がやや下がってしまっているのかなと推測しました。
スタートアップの少数精鋭で開発しているときありがちな状況です。
ビジネス要件があり、開発するエンジニアがいる。でも社内にデザイナーがいない(あるいは声が小さい)ので、UIUXの考えられたデザインにならない。今後はデザインにも力を入れたい。
だからデザイン責任者を採用して、デザイン組織を自社に作りたい←いまここ。

まずはデザインへの投資が可能かを考える

ということで、まずは冷静になって、デザインへ投資した結果、得られる利益があるかを考えませんかという話です。
デザインによって新たな価値を創出し、収益を増やせるのかなどを検討しました。ここでデザインに力を入れることで会社利益に繋がらないのであればデザイン組織を社内につくる必要はないと思います。
単発的に「良いものが作りたい」だけなら、信頼できる制作会社やクリエイターに依頼する方がよっぽど安上がりです。そしてこれは後ほど述べますが、不幸なクリエイターを生み出さないためでもあります。

デザイン組織は本当に必要か、先に結論

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デザイン責任者を採用したほうが良いケース

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・デザインの良し悪しで利益に差が出る自社サービス・事業がある
・競合がいて、サービス・事業を比較検討される可能性がある
・複数のサービスを平行して作っており、フロントデザインを効率化したい
・代表、もしくは役員メンバーにデザインに関する理解・知識・こだわりがある方がいる
・IPOを視野に入れている
これらに多く当てはまる場合、信用できるデザイン責任者を立てるほうが後々のメリットがあります。ちなみに「デザイン組織をつくる」ではなく「デザイン責任者の採用」、としています。理由はのちほど説明します。


優先度は高くないんじゃないかなと思うケース

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・競合がおらず、市場独占状態
・デザインを良くしても利益は変わらない
・代表、もしくは役員メンバーがデザインに関して興味関心があまりない
・開発に関わるクリエイター以外のメンバーに、クリエイターとの業務経験がない
・デザインで勝負したい(できる)とは考えていない
絶対いらない、とは言い切れないので「優先度は高くない」という言い方をしました。こちらはひとつでも当てはまる場合は再検討したほうが良いケースです。

デザイン組織があるメリット・デメリット

デザイン組織を持つことへのメリット・デメリットを考えてみました。
フェーズや状況によって様々なので、今回はスタートアップ企業から見たメリット・デメリットで考えます。

メリット
・制作会社・クリエイターに都度依頼しなくてよい
・ブランドコンセプト・ユーザーを都度説明しなくてよい
・急な依頼にすぐさま対応可能
・自社サービスのデザインのナレッジを蓄積できる
・制作コストが変動しない
・個人の得意不得意をフォローしながら組織で対応するため、品質・スピードの向上が見込める
デメリット
・採用費がかかる
・評価制度の導入など、会社の仕組みの変更が必要
・育成のためのマネジメント工数がかかる
・開発期間が伸びる可能性がある(これはのちほど説明)

これだけ見るとこの断面ではメリットのほうが多いように思います。これを中長期で「投資」として考えるとどうでしょうか。

デザイン組織は本当に今の課題を解決するか

デザイン力に投資した場合に、企業としてデザイン組織に期待することを明確にすることが大事だと思います。
「良いものが作りたい」だけなら、アートディレクターを採用して、品質管理をすればいいし、「企業ブランディング」であれば広告代理店に依頼するほうが組織をつくるよりもコスパが良い可能性があります。
そうではなく、課題は別のところにあって、本当はその別の課題を解決するためにデザイン組織を作れば解決すると思われていることがあります。
個人的によく聞くケースとしては、「開発が遅延する」「デザイナーがいてもデザインが反映されない」など、開発体制に課題があるケースと、単純に「デザイン領域はよくわからないから、分かる人に来て欲しい」というケースです。
どちらも本質的な課題解決は「デザイン組織」をつくることではないのに、デザイン組織さえ作れば解決すると思われているケースです。

デザイン組織をつくったら、開発フローが整う?

ちょっと話が脱線しますが、この話も入れておこうと思います。

デザイン組織を作った結果、開発フローが整う確率は高いです。
なぜなら「良いデザインをつくるためには要求を整理し、その要件通りに開発がスケジュールどおりに進むことが大前提だから」です。

要望ヒアリングに要件定義、設計から仕様作成、スケジュールを立てて厳守しながらすすめる。
その環境によって、どの職種がやるかは様々ですが、これらはデザイナーがやらなくても良いけれど、スタートアップ企業では「良いデザインをつくるために」デザイナーがやってしまいがちな工程です。なのでデザイン組織をつくることは、(主目的ではないけれど)開発フローの改善に繋がることもあります。

デザイン組織ができると開発期間は長くなる

たまに説明すると驚かれるのですが、デザイン組織が入り込んで良いものを最短で作ろうとすると、多くの場合開発期間は長くなります。
これは今まで優秀なエンジニアやデザイナーが属人的に作っていたプロダクトを、チーム開発にするということで、さらに良いものをつくるための工程がプラスされるからです。
どういうことかというと、こんな感じです。

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一般的な工程で図にしましたが、実際には並行して動くラインもありますし、この通りではありません。お伝えしたいのは工程が増えることです。
大きな違いは「設計」と「検証&改善」が入っていることです。
やり方を工夫すれば、実際には同じ開発期間で開発したり、もっと短期間での開発も可能になりますが、個人開発からチーム開発へ移行する際は一時的にスケジュールは伸びると思ったほうが良いです。
設計段階で要件を確定しますので、その後の「やっぱりこうしたい」という融通もこれまでどおりにはできなくなります。
今までと同じ期間で柔軟に開発してほしい、ということがMUST要件であれば、デザイン組織はスケジュールを遅らせ、かつ融通をきかなくさせるお荷物に感じるかもしれません。

会社としてこのスケジュールを許容できるフェーズにあるかが見極めのポイントになると思います。
着手を前倒せるか、納期を遅らせるなど調整は可能か。場合によっては今までの倍の開発コストがかかる場合もあります。

そもそも現状の課題はなにか、どうしたいのかを整理する

実際に起こっている現状の課題は
「よろしくいい感じにデザインが実装されないこと」

これがどうなったら解決なのか

「よろしくいい感じにデザインが実装されてほしい」
ではどうしたら「よろしくいい感じにデザインが実装される」のか、手段を無限に考える。
このプロセスが超重要だなぁと思いました。
この「よろしくデザインされる手段が分からないから丸投げしたい!」という思いから、「デザイン責任者を入れよう!」になるのかもしれません。

では続いて、課題の要因を洗い出して深堀りします

・デザインをちゃんと実装する工数がない
 →なぜ? → 開発期間がそもそも短い→本当に?→途中で開発要件の変更が何度も入るから時間が足りない
・チームでデザインをちゃんと実装しなければならないことが理解されていない →なぜ? →デザインをちゃんとしても売上は変わらないと考えている

と、要因を整理すると見えてくるのは

・開発要件の変更が何度も入るため、デザイン実装の優先度が下がっている
・必要以上にデザインを整えても売上には関係しないと考えている
・要望から体験設計をきちんとできるスキルのあるメンバーがいない、その必要性を重要視していない
・などなど

つまり、現状課題を解決したいだけなら、デザイン組織をつくる必要はない上に、現場の担当者はそれを望んでいないわけです

この状況で、「デザイン組織をつくりました!さっそくユーザーリサーチから行います!設計には時間がかかるのですぐに開発着手は無理です!要件を整理するので待ってください!」と言ったら、受け入れてもらえないと思います。

「よろしくいい感じにデザイン」するために、解決しなければならない課題は別にあります。デザインされた結果、チームに何がもたらされるのかの具体的な可視化。またそのプロセスにどんなメリットがあるのかを説明する必要もあります。「要件を決めて進めることで仕様変更を減らせる」など、それらを提示できないのであれば、デザイン組織は必要とされない状況なのです。


デザイン組織をつくりたい別の理由で、最近よく耳にするのが、デザイナーが採用できないから、「デザイン組織をつくる」です。
転職経験のある優秀なクリエイターは、企業においてそのデザイン組織がどう扱われているかを気にします。なので、そもそもデザイナーのチームや部署がない会社は「デザインに重きを置いていない」と見られがちです。
なので、箱を作って人を集めようというのは理解できるのですが、これも場当たり的で、良い結果にならない可能性があります。
というのは次で説明します。


デザイン組織をつくるということ

クリエイターの転職理由を聞くと、「デザインの理解が会社になく、良いものがつくれる環境がない」という声が多いなぁと思います。また企業側からは、「クリエイターは扱いが難しい」と言う声も聞きます。

クリエイターができることは、「良いものをつくる」ことです。
中には業務領域を広げて、ディレクションやマネジメント、企画、エンジニアリング、経営なども理解して業務を遂行するクリエイターもいますが、非常に稀な人材です。それらのスキルをもった優秀なクリエイターはスタートアップ企業ではなく、大企業のデザイン力を最大限発揮できる環境で働くことを望みます。
話がそれましたが、デザイン組織をつくるということは、クリエイターが最大限力を発揮できる環境をつくることです。
そして経営判断としては、「デザイン力に投資し、デザイン力で戦う」という判断をすることだと私は思います。
他のITベンチャーを見てみても、スタートアップ企業でデザイン責任者を雇い、そのデザイン責任者が目に見える利益・成果を出すまで、三年くらいの時間がかかります。
ジョインする時期にもよりますが、すでにプロダクトがある場合やクリエイターがいる場合などは、まず現状の課題解決に奔走し、優秀なクリエイターを採用できるまでの土台を整え、その後優秀なクリエイターを採用、育成しチームを作ります。ここまでで1年〜2年です。周囲の理解を得られればもっと早いケースもありますが、コツコツと改善を積み重ねていき実績を積むことになるので、かなり骨が折れる工程です。

デザイン組織に求めることを明確にする

デザイン組織をつくる前に、クリエイターも企業も「こんなはずではなかった」と後悔しないために明確するべきことは「どこまでデザイン組織に求めるか」です。
個人的には、現在企業がデザイン組織に求める段階は三段階に分けられると思っています。

1.見た目と使い勝手を良くして欲しい
2.一貫して安定した顧客体験を提供してほしい
3.価値を創造してほしい

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最終的なゴールが2か、3か、によってデザイン力への投資は大きく変わります。

1.見た目と使い勝手を良くして欲しいは現状の課題を解決したいケース、これはデザイン組織をつくる理由にはならないため、外部の制作会社に相談するか、デザインコンサルティング会社に相談する選択肢もあります。ここでデザイン組織をつくりはじめると、「良いものをつくろうとして環境整備をはじめるデザイン組織」と「そこまでは望んでいない現場と経営」の衝突が置きかねません。一番避けたいケースです。
2.一貫して安定した顧客体験を提供してほしいに関しては社内にデザイン組織があっても良いと思いますが、クリエイターを積極採用しなくても、デザイン責任者と、ディレクター数名でも外部の制作会社と協力するなど様々な対応できるかと思います。ここでクリエーターを採用してしまうと環境整備コストがかかるので、デザイン組織をつくるかは、デザイン責任者に委ねたいところです。ここでデザイン力に投資して、結果が出てきたらを検討するでも良いと思います。
3.価値を創造してほしいになると圧倒的に結果を出せる優秀なクリエイターを雇用できる環境が必要になり、力をもったデザイン組織が必要になります。最初から3を目指すのであれば、早い段階から投資を行い、環境を準備する必要があります。

将来的に経営の中でデザインを重要視し、投資する価値があると考えているか。これがデザイン組織をつくるか否かのポイントになるかと思います。
2の一貫して安定した顧客体験を提供するまでであれば、クリエイターではなく、ロジックの説明ができるディレクターを採用し、UXチームをつくるほうが成果は早く出ると思います。横断して戦略的に全方位のアートディレクションを行う、少数精鋭のチームです。
多くの場合、スタートアップ企業が求めているのは「顧客が離れないための統一されたデザイン」までだと思います。1なのか2なのか3なのか、求めるゴールによってやるべきことの優先順位も違えば難易度も投資額も桁外れに変わるため、検討は慎重に行ってほしいと思います。

繰り返しますが、デザイン組織をつくることは今の課題を解決するのではなく、未来に向けた投資判断になります。

スキルを持った優秀なクリエイターが働きたいと思う環境をつくること。
それがデザイン組織をつくる意味だと私は思います。

また、3の価値を創造できるデザイン組織ができたときに起こりがちな現象としては、「デザイン組織が強すぎる」問題です。
デザイン組織の声が強すぎて、デザイン通りにつくることをコミットさせられるようになったケースです。エンジニアとしては、仕様を少し変えてくれれば工数が激減するのに…ということも交渉できなくなってしまった場合は、デザイン組織に求めている以上にデザイン組織がパワーアップしてしまった状態になります。
企業は優秀なデザイン組織に課題を感じることになりますが、それはそれでまた別の問題なので、別の記事で話したいと思います。

ということで、1〜3、どの状態のデザインの力が中長期的に必要なのかを見極め、投資として検討するべきです。

まとめ

デザイン組織をつくることは2〜3年かかる投資である
デザイン組織をつくることが問題の解決になるとは限らない

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という話でした。

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