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おソラ(一次創作 詩471)

お買い物の帰りにすれ違った
にこやかな老婆が
「たいしたものですねぇ」
と声をかけてくれた
何のことだかわからないわたし
少々キョトンとしてから
「えっと?」

老婆は笑みをたたえたままで
「いえねぇ、おソラですよ」
「おソラ」
「たいしたものです」
「はあ」
愛想笑いしか出来ない

やさしい目元の老婆
「おソラさんでしょう?」
もはや何のことだか
だけどわたしはなぜか
無視をして通り過ぎることも
出来なかったんだ

「はい。わたしがソラです」
「そうですよねぇ、ごりっぱな様子で」
「え、と」
「毎日ね、こうしてお話しができたら」
「はあ」
「でも。お忙しいわけですしね」
「え、ええ。そこそこ」
「朝が来るたび、お願いしているんです」
「そうなんですね、ありがとうございます」

間が抜けた会話のようで
なのにわたしは吹っ切れなかった
もしも能うならば
この古びてしまった女性の願いを
かなえてあげたかった

「こうして。お言葉を交わせたこと」
「はい」
「じいさまにも、報告しましょ」
「そうなさってくださいね」
「呼び止めておきながら、失礼いたします」
「こちらこそ、お気をつけて」

狐に化かされた、とかは
こんなことを表すのか
中途半端に付き合ってしまった
その申し訳無さも在る

はからずも
おソラと言う認定をもらえたわたしは
二度と会うかもわからない
あの老婆の後ろ姿に、深く
深く頭を下げて、改めて帰路についた

(画像はわたし撮影)

未熟者ですが、頂戴いたしましたサポートは、今後の更なる研鑽などに使わせていただきますね。どうかよろしくお願い申し上げます。