私的ベスト・ミュージック10枚(2022年2月編) by 高橋アフィ

PARASAiL​-​18 / The Growth Eternal

 LA拠点のシンガー/ベーシストThe Growth Eternalの初のフルアルバム。今まではワンアイデアで終わるような短い曲が多かったのですが、本作ではほとんどの曲が4分越えとなり、展開込みで聴かせるアレンジに。
 ヴォコーダーの使用とジャズ由来のころころと変わるコード感を「浮遊感が共通点だよね→合わせてサイケデリック」みたいにまとめた作風が魅力で、ありそうでなかったオルタナティブR&B×ジャズ=サイケR&B。アンビエントな方向かつバックビート系のリズムという難しいバランスを見事成り立たせています。
 チルな作風とも言えるけど、ヴォコーダーのロボ感含めてどことなくケミカルな雰囲気が、リラックスなまま刺激的な音像の追求になっていると思います。ちょっと耽美的というか不健康そうな雰囲気が好きです。
 個人的な興味として、「マッチョになりがちなR&Bとチル/メディテーションの折り合いをどうつけるか」というのがあって、そういう意味でもドンピシャでした。特にこのALは、フリーフォームに近い過去作と比べると、R&Bとの距離が近く、だからこそThe Growth Eternalの独自性が明確に見えた作品かと思っています。

Dragon New Warm Mountain I Believe In You / Big Thief

 Big Thiefによる2枚組の新作。とはいえトータル80分でヒップホップだとしれっと出しそうな気もする(配信した後、LPで2枚になってるとか)。これをLP(CD)基準でちゃんと2枚組というところにBig Thiefの(マーケットの?)方向が出ている気もしています。
 今年の音良い作品として優勝でしょう。バンドが演奏をそのままパッケージしたような、「リアル」で魅力的な音像が素晴らしかったです。程よくローファイなのが良く、その場の演奏を録音したというハイファイさとはまた違った、バンドとしての生々しさが録音されているんですよね。
 その音像含めて、トラディショナルでありながらモダンにも聞こえて感動でした。

Kuni / LNDFK

 イタリアのシンガーLNDFKのフルAL。Jason LindnerやPink Siifu、日本からAsa-Changが参加しています。
 ざっくり言えばハイエイタス・カイヨーテ的なネオソウル×現代ジャズの最新版という感じなんですが、メロディの和テイストが刺激的で面白かったです。北野武『HANA-BI』からインスパイアを受けているようで、つまり久石譲感なんですね。
 良い意味でソウルやR&Bやヒップホップとは少し距離のある、ジャズを軸としてビート・ミュージック経由で色々聴いていったような、リズムは強いけれど浮遊感ある演奏が良かったです。

Tinted Shades / Fatima & Joe Armon-Jones

 Ezra Collectiveの鍵盤奏者でもあるJoe Armon-JonesとシンガーFatimaのコラボEP。鍵盤からシンベなどドラム以外のすべてをJoe Armon-Jonesが演奏し、ドラムをMoses BoydとMorgan Simpsonが担当しています。
 R&B/ヒップホップとジャズの新たな融合を狙ったRobert Glasperに対し、こちらはUKジャズのままボーカルが乗ったような、遠慮のない演奏に歌が乗るのが良かったです。結果歌のポジションも中心になり過ぎず、歌ものとしてもジャズとしても面白い作品になったのは、偶然にしろ狙いにしろ、パワフルなプレイヤーが多い現在のUKジャズ・シーンの魅力が最大限出た結果かなと思います。
 別の話として、現在のアンビエント的な潮流やローファイ文脈とは驚くほど関係ない雰囲気なんですよね。TenderloniousやKamaal Williamsは反応している(ように聞こえる)ので、「UKジャズが」というよりはJoe Armon-Jones及びEzra Collectiveのモードなのかなと思います。それが彼の発する演奏することの祝祭感とパワーにつながっているようにも思えて面白かったです。Ezra Collectiveの新作AL、シングルは出つついつ出るかわかりませんが、どういう感じなのか楽しみですね。

Feeding The Machine / Binker and Moses

 サックス奏者Binker GoldingとドラマーMoses BoydのデュオBinker and Mosesの新作。今回は唯一のゲストプレイヤーとして、Max Luthertがエレクトロとして全編参加しています。
 元々サックスとドラマーのデュオということで、ストイックかつスピリチュアルな作風だったのですが、今回はよりストイックで、本当にサックスとドラムが中心の音像になっています。その世界観のまま拡張するプレイヤーとしてのMax Luthertが素晴らしく、ドラムのバスドラのサスティンが自然に伸びていくような感覚というか、音の隙間を楽器の残響が伸びていったような雰囲気で埋めているんですよね。結果デュオらしいミニマルさがありながら、音の寂しさが無い不思議な音像になっています。
 「ヘヴィー・フリー・ジャズ」を志向しており全体的にずっしりとした演奏なんですが、その音のうねりがそのままビート化していくことで、ダンスミュージック的な解放感まで繋がっているようにも思えました。

Both Only / Joona Toivanen Trio

 スウェーデン拠点のフィンランド出身ピアニストJoona Toivanenによるトリオ。スウェーデンのジャズ・レーベルWe Jazzからのリリース。
 「ピアノ・トリオとミニマル・ミュージックの親和性を探る」作品とのことで、アコースティックを基調としたスタンダードなピアノ・トリオでありながら、エレクトロやアンビエントを独自解釈し発展させたような演奏が素晴らしかったです。エフェクター(あるいはポストプロダクション)の使い方も良く、さりげなくかかったフリーズ系リバーブが滅茶苦茶良かったです。
 演奏としては実験的でコンテンポラリーなんですが、それがケレン味ではなく、スタンダードなピアノ・トリオの延長して見えるんですよね。プレイヤーの底力を感じさせるアルバムでした。

Vermillion / Kit Downes

 UKのピアニストKit Downesの新作。ENEMYというトリオで2018年から活動してきたPetter EldhとJames Maddrenとのトリオでの録音です。
 このインタビュー(『Interview Kit Downes - Vermillion:僕らが選んだのではなく、録音した環境が演奏を決定していた』)読んでもらうのが一番良いんですが、劇場というリバーブ強い場所&返し無しという環境で録音されたからこその間を活かした演奏が素晴らしかったです。かつ録音は結構タイトというかリバーブ少なめで、その結果音のニュアンスに注目する作品になっているんですよね。録音におけるマジックを感じるアルバムでした。

To Live & Die In Space & Time / Lynn Avery & Cole Pulice

 ポートランドのpsychedelic cassette & record labelであるMoon Glyphからリリースされた、鍵盤奏者/エレクトロのLynn Averyとサックス奏者/エレクトロのCole Puliceのデュオ。Moon GlyphからはそれぞれLynn AveryはユニットIceblinkで『Carpet Cocoon』を、Cole Puliceはソロで『Gloam』をリリースしています。
 生楽器とエレクトロの混ぜ方が絶妙で、ほっこりシンセとハイファイな楽器の混ざりが現代のニューエイジという感じで良かったです。全体的に緩やかにサイケデリックでやや仄暗い。語り過ぎないメロディセンスがモダンで良く、ディープなメディテーション作でした。

Prisma / Mohammad Reza Mortazavi

 打楽器奏者Mohammad Reza Mortazaviのミニマル・ミュージック的アルバム。リズムと音響が凄過ぎてドローン/アンビエント化する凄さ。まだ全然解析出来てません。必聴。

Hope Sonata / ulla

 アンビエント・アーティストUllaによる23分間の記録。フォーキーなギターとサックスの生々しい録音というか、マイク立てっぱなしにしていたらたまたま録れていたみたいな無作為(に聞こえる)な音が素晴らしいです。音が音楽になる瞬間のドキュメンタリーのようにすら聞こえるというか。
 とはいえ、真剣に向き合うと息が詰まるような音の微細な選択が見え、小さな会場で見る弱音の即興演奏的というか、それが音楽としての凄まじい強度になっています。ただそれをフィールド・レコーディング的なざらついた音として聴かせることで、アンビエント化しているのが面白いですね。


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