可視化を通じて仕組みを再構築するVisual Discourse Method(仮称)の検討とその過程
2021年春頃から、これまで行ってきたグラフィックレコーディングなどの可視化手法を用いて、新しいプログラムを開発できないか試行錯誤してきた。何回かプログラムを作って→壊すを繰り返していて、現時点でもやっている本人たちにとってはまだまだとっちらかっているが、備忘録的に残しておこうと思う。
瞬間的なコンテンツとして消費されてしまう難しさ
グラフィックレコーディングは、それを実施することもそれを周囲に理解してもらいつつ、手法として溶け込ませるのもとても難しいというのは、この数年認識としては変わっていない。
実施する点では、周囲に上手く(=自己満足のスケッチにならない、周囲に伝えるものにするため)伝えるための方法として表現のスキルを磨き続ける必要がある。周囲に理解してもらい、溶け込ませるという点では「可視化」による「対話の創出(を通じた想像力の発揮)」ができる場づくりが求められる。
特に後者の「対話の創出」と言う点が抜け落ちることをどう興味を持ってくれた相手に伝え、場を設計していくかと言う点は、これを考えていく限りずっとついて回ることなのではないかと思っている。
会議やイベントなどの会話を聞き、それをテキストと図を使ってグラフィカルに表していく行為は、多くのイベントに存在するキーノートやディスカッションといったスピーカーの話や事後レポートとは異なるコンテンツであり、彩りを加える意味で評価いただけることも多い。
しかし、できればその先に可視化したものを使って発表者や参加者が対話し、抜け落ちている部分や検討の余白などを含めて次に繋げるという行為はさらに抜け落ちてはならないのではないかと感じている。
以前そのようなことをこのエントリに書いた。
今日はその続きをお伝えしようと思う。
「可視化を通じた踏み込んだ解釈」を思考する
上述のような課題感を持っている中で、同じくIDL[INFOBAHN DESIGN LAB.]に所属するグラレコ部のメンバーともう少し、グラフィックレコーディングとは、可視化とは、を伝えやすくするために、プログラムを作った方がいいのではないか?という会話が出た。それもレクチャープログラムではなく、デザインプロジェクトの現場で利用可能なもう少し踏み込んだものを。
可視化をすること自体が、プロジェクトメンバーの共創姿勢を引き出し、コラボレーティブなプロジェクトの土台になる実感とともに、そういった姿勢を持ちながら可視化を行う人を増やしていくことがチームとしての強みになるかもしれない。仮でVisual Discourse* Methodというプロジェクトネームをつけ、プログラム化をすすめることになった。
*discourse:言説などの意味を持つ単語。ここでは組織や経営に関わるコミュニケーションの側面をデータとして取り出し、一連のテキストとして分析する組織ディスコース研究の文脈を踏まえている。それらのdiscourseをVisual(可視化)で検討するためのプロジェクトと位置づけている。
……とはじめてみたものの、右往左往してなかなか前に進まない。試行錯誤したのは、特に以下のような問いだった。
会話の全体図(時には要点)やアイデアを整理・構造化して可視化するグラフィックレコーディングではなく、「会話の中にある(組織やプロジェクトの)見えない構造・課題をあぶり出す」とでも言うような、深い解釈を参加者を主体として呼び起こすことは、従来の可視化手法で可能なのか?
描く側の主観に基づいた解釈で「こうじゃないですか?」「私にはこう見えました」という提示はできるかもしれないが、ボトムアップでやるにはどうしたらいいのだろうか?
会話を聞き分け・構造化することは、描き手の主観のフィルターを通す。それをベースにさらに深い解釈をしながら、チームとして一つのまとまりを導くレベルに昇華することを参加者が体験を通じて学ぶことができるのか?
結局どんな状態を目指しているのか? 具体的に例示する。
例えば、ある企業の従業員の働き方の指針を検討するプロジェクトでこの手法が使われたとしよう。グラフィックレコーディングを用いた場合、会話の内容をメモ的に取っていったり、会話ベースで行われた皆のアイデアをビジュアル化するなどの方法がある。
一方、私たちが目指すのは、そこの会話で使われている単語やフレーズなどの共通点などから、会話からは見えないその企業が背景として持つ企業文化やしきたりなどを明らかにし、そのレイヤーから考え直すためのヒントにするイメージだ。
「可視化」と「解釈」のつながりを考える
まず1)はスキルを見につけていく段階を、大きく「インプット」「可視化」「構造化」「アウトプットへの挑戦」という4つの段階に分けて検討した。
グラフィックレコーディングを学ぶ際に「聞く」「組み立てる」「描く」という段階があると教わることがある。
その一連のプロセスに、グラフィックレコーディング以外の可視化手法としてのリアルタイムドキュメンテーション(主にテキストを中心とした可視化の方法)、情報構造についてや読む人に伝わりやすくするためのグラフィックデザインのTIPSなどを組み入れている。
しかし、ここまでだと「整理・構造化」はできたとしても(とはいえこれも相当難しいことだと感じるが)、「見えない構造・課題をあぶり出す」ということは難しいと考える。一歩、二歩踏み込んだ解釈をするには、
と、2)にもつながる課題が出てきた。
そこで2)を「応用編」と位置づけて、現在も検討を行っている。
一度、リアルタイムドキュメンテーションとグラフィックレコーディングを組み合わせた形で“ヘルスケア”をテーマにプログラムを試してみたのだが、レコーダーが描く図解は対話の彩りとしての共感を得られたものの、会話の手綱をひくモデレーターとの連携が取れておらず、単なる彩りに終わってしまった。
仮説としては、解釈はファシリテーターも参加者も実施するとした場合、参加者にも何らか手を動かす(例えば付箋を動かす、自分で描くなど)の没入をする必要があると考えているが、スキルを見につけたばかりの可視化に慣れていない人が簡易的にできる方法はあるのかなど、検討の余地は多い。
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しばらくこの試行錯誤は続きそうだが、なんとか形にできたらまたご報告したい。
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