余白を歩く 《思い出しグルメ⑤ 吉祥寺〜ウッドベリーズ本店》


ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。



         * * *



吉祥寺駅公園口を降りて数分、井の頭通り沿いにあるフローズンヨーグルト専門店「ウッドベリーズ本店」。飲食店の盛衰が激しい吉祥寺だが、今年でオープンして25周年だそうだ。


「ウッドベリーズって知ってる?」


ダンナに連れられて初めてこの店に来たのは、もう20年程前だろうか。大通りに面している割には簡素な作りで、言われなければ通り過ぎてしまいそうなほど小さな店だ。ウッドベリーズのファンだったダンナは、もともと他の店舗に通っていたらしい。


「ここホントに美味しいから食べてみてよ」


ダンナが通っていたのは、新宿店だったか下北沢だったか…。どちらもだったかもしれない。ダンナのカバンから出てきた古いポイントカードに「吉祥寺店・下北沢店・新宿店」とある。けれどつい最近、下北沢の熱帯魚店だったか爬虫類店だったかに、二人で行ったことを思い出した。きっとダンナはその店に通いながらウッドベリーズにも立ち寄っていたのだろう。カードにはスタンプがいっぱい押してあった。


「どう? 美味しいでしょ」


初めて食べてみて、手作りの新鮮な味に驚いた。ごまかしのない味だと思った。ほんとだ、美味しい! そう言うと、ダンナは顔をほころばせた。そして何度も同じことを聞いてきた。
それからは吉祥寺に行く時には必ず寄るようになった。いや、ウッドベリーズに行くために吉祥寺に行っていたかもしれない。
ダンナが好きだったのはイチゴやミックスベリー。それからマンゴー。チーズをダブルにしてよく頼んでいた。私はスイカやレモンをシングルで頼むのがお気に入りだった。
子どもたちが生まれてからもよく行った。ダンナが選んだ真っ赤なベビーカーに娘をのせ、吉祥寺まで押して行った。伊勢丹が閉店し、コピスというビルに変わった頃だったと思う。下の息子も連れて行った。四人で入るといっぱいになるような店内だったが、ペロリと食べ終えてしまうから気を遣わなくて済んだ。食べ終わると店の脇にある駅側に抜けられる通路を通りコピスへ向かったり、井の頭公園の方に引き返したりした。あの頃は週末になると家族四人でよく吉祥寺に行っていた。子どもたちが小学校高学年になる前まではちょくちょく行っていたように思う。


マルシェ店に行ったこともある。2016年の年末だった。ダンナはとちおとめとアップルマンゴーのダブル、娘はミックスベリーとプレーンのダブル、息子はアップルマンゴーのシングル、私はレモンのシングルを頼んだ。パフェもあったが、気づけばいつもと同じようなものを選んでいた。明るい店内にクリスマスのオーナメントがキラキラと光っていた。マルシェ店に家族全員で行ったのは、これが最初で最後になってしまった。
そういえば息子が誕生日ケーキはアイスケーキがいいと言うので、ここで頼んだこともあったっけ。


亡くなる直前、それでもまだものが食べられていた時に、ダンナは冷凍のミックスベリーを入れたヨーグルトを美味しいと言ってよく食べていた。あのフローズンヨーグルトをダンナは思い出していただろうか。ああ、買ってきてあげれば良かった。なぜ思い出さなかったのだろう…。