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大根の古漬け

ほぼ一人暮らしの父の様子を見に、石川県にプチ帰省しました。

去年の1月に玄関先で倒れ、脳内出血で入院、それきり家に帰れなくなった母。12月に介護施設に入所し、本格的に夫婦別々の暮らしが始まりました。

近所に住んでいる姉が、半分実家に暮らすような形で一緒にいてくれるので、遠く鎌倉にいる私は安心していられます。

戦前生まれの昭和男児が、炊事洗濯のような身の回りのことをいきなり一切合切やるのは本当に大変。年老いていれば尚更です。

姉にはただただ感謝です。

予定調和にはならない人生

「イツコ(母の名前)はもうこのまま、家に帰ることはないんか?」
ボケてる訳でもないのに、そこだけは何度も聴いてくる父。

元来体が丈夫な母は、ちょっと血圧が高いくらいで、健康そのものでした。それに父の方が5つ年上なので、父としては自分が先に具合が悪くなることしか想定してなかったようです。

考えてみれば、人生って、予測できることの方がはるかに少ないですよね。

けれど、父は常に用意周到というか、予測を念入りに立てた上に、完璧に準備するタイプ。「石橋を叩いて渡る」とは、まさに父のためにあるような言葉と言っても過言ではないくらいの完璧主義者。

そんな父ですから、自分が先に倒れることを想定して、人生の後半全てを賭けるくらいの勢いで、様々な準備をしてきたわけです。

納得しろという方が酷な話で、毎回説明するのも辛いものがあります。

ただし見方を変えれば、想定外のことに臨機応変に対応するという大きな課題を神様から用意されたとも言えるのかもしれません。

とすれば、人間という生き物は、どれだけ老いても、成長のチャンスがあるのかもしれません。まぁ、自分も当の本人になれば、中々そうは感じられないとは思いますが。

大根の古漬け

そんな父が、11月から寒風に干してあった大根を「古漬け」にするというので、一緒に作業してきました。去年まで母がやっていた仕事です。

この機会にちゃんとレシピとして覚えておきたいと思いました。

この大根の古漬け、どうも沢庵の一種のようですが、通常の沢庵とはちょっと工程とか味付けが違うようです。ここでは「大根の古漬け」で統一しておきます。

晩秋に収穫した大根を2ヶ月ほど干して塩漬けし、さらに水分を搾り出す。その後、米糠に漬けて2、3ヶ月。糠から引っ張り出した大根を半日ほど水にさらして塩抜きし、輪切りにして醤油で炊き上げます。

それが我が家での大根の古漬けのスタンダードな食べ方でした。

「大根の古漬けの炊いたもの」にちゃんとした呼称があるわけではなく「たくあんの煮たが」「たっかんの炊いたが」と呼んでいた、と後から父に聞きました。

めちゃくちゃ美味しいわけではないのですが、お腹が満たされます。
日に干されて、塩や米糠の中でじっくり熟成されて、きっと栄養価も上がっているのでしょうね。

古漬けを炊く際に、ポイントは水と醤油だけで炊くこと。
「ナンバ(唐辛子)」を入れることもありますが、味醂やお酒のような他の調味料は入れないんです。水の代わりに昆布で出汁をとるときもあるようです。

母が昔、醤油だけだと「あいそむねぇ(愛想がない)」からと言って、味醂を加えたことがありました。でも、「違う!」って家族中からブーイングされ、即却下されてしまいました。

なんというか、パリパリとちょっと硬めなので、しっかり噛まないといけないのですが、噛んでいるうちに、大根の旨味がジュワーっと出てくるんです。それが「醤油だけ」というシンプルな味と、いい感じで絡んでくるのが、後を引く美味しさになっているのかもしれません。

沢庵の古漬けはマイナーなのか?

「古漬け」とか「古漬けの炊いたもの」って、てっきりどこの家でも食べられているスタンダードなメニューだと思っていたのですが、あちこち調べても、「大根の古漬け」「沢庵の古漬け」も、「古漬けの煮物」も出てこないので、もしかしたら、ごく限られた地域の食べ物かもしれないなぁと思い始めています。

もし「うちもそう!」とか「食べたことある!」とおっしゃる方、一度古漬けについて語り合いましょう(笑)

大根の古漬け レシピ(というかメモ!)

古漬けのレシピを残そうと思ってメモがわりに書き始めたら、意外と古漬けへの思い入れがあったことに気づきました。

ということで、ここまでは長ーい前段だったわけですが(苦笑)、ここから本編、レシピっぽいメモを残しておきます。(前段の割に一瞬で終わります笑)


① 晩秋に収穫した大根を2ヶ月ほど干す。
*あまり温暖な気候だとうまくいかないみたいです。
(大阪の叔母はダメだったと言ってました)

葉っぱごと干します

② 塩漬けし、さらに水分を搾り出す。(今回はこの作業)

・大根の葉っぱの部分をカットして、一緒に漬け込む。
・ 塩の分量は大根の重さの約8〜10%程度

今回は大根が2.2kgだったので、220gの塩を使いました


・容器の中に塩→大根→塩→葉っぱ→塩と重ねていく。
*大根を交互に入れるなどして、偏りをなくす。1段で収まりきらなかったら2段に。(間に塩を入れる)


容器の中にビニール袋を入れてました。
陶器等ならビニール不要かな?
本当は円を描くように入れたかったのですが、
うまくいかず、とにかくお尻と頭を交互にしました。
葉っぱを乗せて、塩を入れておしまい。

・ 最後に重石をして、蓋をしてビニールでぐるぐるにしました。
このまま、大根の水分が出てくるまで待ちます。

手前が今年漬けたもの。隣は去年母が漬けたもの

⑤ 水分を出したら、塩と米糠に漬けて2、3ヶ月待ちます。

⑥ 糠から引っ張り出した大根を半日ほど水にさらして塩抜き。
そのままでも食べられるのですが、輪切りにして醤油で炊き上げると、古漬けの炊いたもの、「たくあんの煮たが」になります。

***

終わって片付けていたら…大根が1本忘れられていました(苦笑)
鎌倉に持って帰って、糠床に入れようと思ったら、それも忘れました(汗)
どうしよ、この子…。

<後日談>
この記事を書いた後、地元の友達の何人かと話したのですが、
「たくあんの煮たが」という名称は同じだけど、どうも工程が違うようで。我が家のように、2度漬ける「古漬け」ではなく、「漬け過ぎて酸っぱくなった沢庵を炊く」というものでした。

地元のスーパーにも「ぜいたく煮」とか「たくあんのうま煮」といった名称で販売しているそうですが、それらも、「漬け過ぎて酸っぱくなった沢庵を炊く」もので、2度漬けるわけではないらしく。食べてみると、味はよく似ているが、柔らかく我が家の「たっかん煮たが」のシャキシャキした食感はないようでした。

そうなると、古漬けは、ウチだけ??
俄然興味が湧いてきました。
追跡調査を続けてみようと思います。

あ、1本だけ取り残された大根、無事に鎌倉まで送り届けられました。
心ゆくまで糠床に浸かっております(笑)



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