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白馬インターナショナルスクール ライブトークイベント

21世紀型スキルを身につけるために 〜 Project Based Learning とSocial Emotional Learning の可能性

2021年11月13日、白馬インターナショナルスクール(以下"HIS")のアドバイザーを務めて頂いているハイテックハイ(米国サンディエゴの高校)の科学教師ジョン・サントス氏とミレニアムスクール(米国サンフランシスコの中学校)の共同創設者兼初代校長であるクリス・バーム氏をゲストにお迎えし、HISのコアメンバーを交えてトークイベントを開催しました。HISが目指す学びをご理解頂ける内容になったのではと思います。以下に、トークイベント内容の翻訳を掲載します。

トークライブを見逃した方は、下記の画像をクリックして是非ご覧下さい。(私が録画ボタンを押し忘れてスタートしたため、冒頭のジョンの自己紹介が収録されておりません。申し訳ありません!)

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Tomoko: 皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。白馬インターナショナルスクール設立準備財団の代表理事の草本朋子と申します。2022年9月、白馬の地に新しいインターナショナルボーディングスクールを開校します。白馬の素晴らしい自然環境の中で、先進的な教育を提供していく予定です。真に生徒を中心とした真正な学習モデルの先駆者であるジョンとクリスという2人のエキスパートと、このような対談ができることを大変嬉しく思っています。また、未来の教員であるエリック、マイケル、マークにも参加していただき、私たちの学校がどのようなものになるのかをご参加頂いた皆様にお伝えできればと思っています。まず、皆さんの自己紹介と、教育者としての理念を語っていただけますか?

John: 私はハイテックハイの科学の教師です。プロジェクト型学習(Project Based Learning、以下”PBL”)の教師として近年気がついていることは2つあります。世の中が急激に変わっており、それに教育が適応しようとしていること。そして、実際に子どもたちがプロジェクトを実践しながら知識やスキルを身につける深い学びの環境を整えることが非常に大切だということ。急激に変化する社会に対し、教育の変化は追いついていません。子どもたちに、社会と繋がった真の学びの機会を提供することは非常に重要だと考えます。

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Chris: お招きいただき、ありがとうございます。共同設立者兼校長として、7年間サンフランシスコのミレニアムスクール(中学校)に勤務していました。ミレニアムではスタンフォードやコロンビアなどの大学と共同研究を行い、最新の研究結果を教育現場で実践しています。わかってきたのは、教育によって人間の潜在能力をもっと解き放てるということです。特に思春期の子どもは、ただ事実を暗記するのではなく、自分自身が何者かを理解し、他者とどう関わり社会の課題をどう解決するのかを考えることにより、大きく成長するのです。思春期の生徒の潜在的可能性を教育で最大化したいと思っています。

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Eric: おはようございます。私は30年間インターナショナルスクールで教鞭をとってきました。そして、今この素晴らしいプロジェクトのスタートのタイミングにこの白馬の地にいられることを幸運に思っています。私の教育のルーツは、実は、白馬エリアにあるアウトワードバウンドという団体です。私の信念は、私たち一人ひとりがより良い自分を実現できるというものです。私は全ての人の内には豊かな価値があり、それが開放され、花開こうとしていると信じています。それを実現するための一助になるであろうこのプロジェクトが、とても楽しみです。

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Michael: オーストラリアや英国で国際教育に携わってきました。30年近く教員を務めてきて、教育には大きな可能性があるにもかかわらず、活用し切れていないと感じてきました。教育において生徒が成長するために4つの大切な点があります。一つ目は、真正な環境で学ぶこと、つまり生徒が教員からだけでなく様々な人からフィードバックを受けられる環境を作ること。二つ目は生徒が自ら学びに責任を持ち、言われたことを学ぶだけでなく自ら探求すること。三つ目は学びにおいては生徒も教員もあらゆる人が平等でそれぞれが異なった経験や価値を持ち寄るということ。そして最も重要な四つ目は、充分な学びの時間を与えられること、生徒が自分の情熱を発見し自ら探究する時間を持つことです。私もエリックと同じくアウトドア教育に長年携わってきましたが、そこで生徒が自分を発見する場面を多く見てそこから学んできたことが原点です。

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Mark: おはようございます。皆さんご参加頂きありがとうございます。私は英国出身です。16年科学を教えてきました。専門は化学です。ロンドンで教員をした後2010年に日本に来ました。朋子とは長年の知り合いで、この2年はHISでのホリディプログラムを作ってきました。このチームと参加してくれた生徒たちと共に作り上げたプログラムは私にとって非常に刺激に満ちた素晴らしい経験となっています。教育者としての信念ですが、3つあります。一つは、人は生まれ持って好奇心があるということ。私たちの役割は子供達の好奇心を育てることだと思っています。二つ目は、学びは本来楽しいものだということです。化学の先生だと自己紹介すると、化学が好きだったと言う人と嫌いだったという人に分かれます。どんな教科でも「嫌い」という感想が出るのは本当はおかしいと思うのです。どんなものでも学ぶことは本来楽しくあるべきだからです。学びの楽しさを伝え、子どもたちの好奇心を引き出したいです。三つ目は、最高の学校は学び続ける学校ということです。先生も生徒も学び続けるべきで、HISの素晴らしいところは、これから私たちがその文化を創っていけることです。

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Tomoko:  ありがとうございました。ジョンとクリスをHISのアドバイザーとして迎えることができたのはとても幸運であり、彼らの教員研修から私たちは多くのことを学んでいます。 私たちはPBLとSocial Emotional Learning(社会情動的学習、以下”SEL”)が重要だと信じており、それらを学習モデルに組み込むことに取り組んでいます。ジョンは18年間PBLで生徒に教えてきたそうですが、PBLで実際に機能すると思うことと、従来の教え方と比較して問題になる可能性があることを教えて下さい。

John:  みなさんの教育に対する思いや視点に触れることができて、とても良かったです。教育を「学びの体験」という視点で考えるにあたって大切なのは、まず一歩引いて考えてみることです。私たちは学びが楽しいものであってほしい、価値のあるものであってほしい、そして生徒に情熱を持って取り組んでもらいたいと考えています。そのために必要なことは何でしょうか?複数の要素が必要だということに気がつきます。例えば、Authenticな(真正な)学びであるかどうか。教室内にとどまらず、社会とつながる真正な内容となっているか。学びの中で、周りの人と協働し、先生と、そして生徒同士で関係を築く機会が提供されているか。安心安全な環境で、評価をされる恐れを感じずに挑戦と失敗を体験できるチャンスが与えられているかどうか。学びの結果をコミュニティーに発表し、みんなで祝福する文化があるかどうか。人に見てもらえている、聞いてもらえていると感じられるかどうか。その環境で、自分が価値のある存在と感じられるかどうか。このような要素が学びの体験の中では最も重要です。
プロジェクトはこのような要素が含まれた環境を構築してくれます。プロジェクトには、良いプロジェクトも悪いプロジェクトも正直あります。でも、思慮深く考えてプロジェクトを進めていくことができれば、このような要素が実現されていき、その結果、より深く、インパクトのある、公正で、意味のある学びの経験へと繋がっていきます。私たちは、このような学びの環境を構築するためのツールとしてPBLを活用しています。

Tomoko:  ジョン、ありがとうございます。
クリス、あなたが設立したミレニアムスクールでは、クエストと呼ばれるPBLがあり、平日のほとんどの日は午前中ずっとクエストに専念していると理解しています。 ジョンがPBLについて言ったことに追加したいことはありますか?

Chris: まず、今皆さんの話を聞いて、教育者として考え方を共有できていることをとても嬉しく思いました。PBLは、思春期という発達段階にいる生徒の成長にとって有効です。思春期の子どもは、どうすれば自分が何かに貢献できるのかを考え始め、自分が他者に価値を提供できることを知ると自分に価値を感じるようになります。他者に貢献することにより自分に自信を持ち達成感を感じるのです。PBLの意義は、ジョンが言ったように、実社会にインパクトを与える点です。実社会の課題を解決し、またプロジェクトの成果を学校の先生だけでなく地域の大人やその道の専門家に発表することにより、生徒はやりがいを感じ、自分たちがどれほど学んだかという成果について驚くのです。

Tomoko:  次にHISで教える先生に伺ってみたいと思います。まずエリック、これまで長年インターナショナルスクールで教えてきた経験からご意見を頂けますか。

Eric: 私がいた学校では、ジョンやクリスが話したような取組を取り入れる動きはありましたが、生徒数が2,500人という大きな学校だったので、どうしてもそこここに裂け目があり、その裂け目に陥ってしまう生徒もある程度いました。
白馬のような自然環境の中で、このようなチームのメンバーと、ジョンやクリスのような教育者から支援を受けながら、生徒数が少ない学校を設立することの良さは、学校にしっかりとしたセイフティーネットを築けるということ、そして、生徒と1体1の関係を築けることです。私たちは生徒に対し、メンターとして、フィードバック提供者として、ロールモデルとして接することができます。
個別の生徒に対応可能なこうした学びの場ができることに大きな可能性を感じます。このようなサポートのある環境は、生徒の人生・学びに大きなインパクトを与えるでしょう。

Tomoko:  確かに、HISの特徴の一つは生徒数が少ないことだと思います。来年度は1学年15名ずつくらいで7年生(中1)と8年生(中2)合わせて30名程度で開校する予定です。最終的に中高生が揃った時でも、中等部が各学年20名、高校は40名の予定なので、全校生徒が180名の小規模校になります。生徒一人ひとりと教員やスタッフがしっかりと関係を築き、各生徒の良さを引き出せる学校を目指しています。
マイケル、あなたは現在オーストラリアのPBL学校で教えています。 あなたの見解についても教えてもらえますか。私たちはHISで何を提供できると思いますか。

Michael: 古い教育は知識重視型で大学を意識したものでしたが、今日では、そうしたタイプの教育に対する生徒たちの関心が薄れており、学力にも悪影響が出ています。PBLでは、生徒が自ら自分の学びの道筋を構築できます。自主的に学ぶことで、子どもたちは私たちの想像を遥かに超えて、それぞれの可能性を高めることができ、先生主導の学びではできないことを達成できます。生徒が自ら舵取りをすることが、生徒をさらなる学びへとかきたてるのです。ただ、ジョンが言ったように、良くないプロジェクトがあるのも事実です。選択肢が限られた、生徒の自主性が発揮されないプロジェクトに対して、生徒はすぐに関心を失います。また、大人の我々は、生徒の失敗を見るとつい手助けをしたくなります。生徒に自分なりの解決策を模索させるべきなのに、解決してあげたくなるのです。良い教師は、導き役として、生徒が自ら道を切り開く手助けをする教師だと思います。PBLに関する理念や信条は、できるだけシンプルでわかりやすいものにし、一貫して掲げるべきです。そうしないと、どうしても従来のやり方に戻りたくなるものだからです。
この美しい白馬という場所は、自然環境という意味でも地域のコミュニティという意味でも、最高の学びの場だと思います。気候変動の危機も肌で感じられます。このプロジェクトに関わる機会を得て、私は教育に対する情熱を新たにしています。

Tomoko:  白馬にいると気候変動の危機を実感できるのは本当にその通りですね。PBLに関して18年の経験があるジョンにもまたお聞きしたいですが、マイケルが言ったように生徒が自分の学びの舵取りをすることは大きなインパクトがあると感じますか?

John: エイジェンシー(自ら考え主体的に行動すること)は、生徒たちの主体的なオーナーシップのある学びにおいて非常に重要だと感じます。私たち教師は、自分たちが学んできた従来の方法に慣れ親しんでしまっているところがあります。教師は知識を持つ者で、生徒にその知識を与えるのが教育という考え方です。また、生徒が失敗した時に助けてあげる人になろうとしがちです。でも、その旧来の方法を用いるのではなく、議論を重ね、深く考え、誰にも正解がわからない実社会の本物の課題に対して、信頼関係を築いて課題解決に向けて前進する中で、生徒がどんどん主体的になって、学びに引き込まれていくのをたくさん見てきました。

Tomoko:  素晴らしいですね。クリス、PBLのクエストをやる中で、失敗する生徒をつい助けてやりたくなったことが何度もあるのではと思いますが、いかがですか?

Chris:  マイケルとジョンに同意します。生徒が、自立すると同時に適切に相互依存しながら、他者と協働して社会で活躍できるような人材に成長するためには、自主的に学びに取り組まなければいけません。従来の学校では、生徒が受け身で学び、且つストレスを感じていることが多いのですが、これは問題ですね。あるべき教育の姿は、生徒たちが自分から社会の課題を解決するプロジェクトに取り組み、友達と協働する練習を重ね、プロジェクトの成果を世間に問う経験を積むことでしょう。そのような教育の成果は全く違ったものになると実感しています。

Tomoko:  マークにもお聞きしたいです。マークはHISのホリディプログラムでPBLを実践してきたわけですが、PBLは生徒にどのような影響を与えると感じていますか?

Mark:  PBLを実践してみて、非常に感銘を受けています。教育者としてPBLを見た際、まず第一に、PBLにはものすごい可能性があると感じています。従来の教育では、指導要領があり、試験があるわけですが、PBLの場合、まずアイディアの種があって、他の教育者と共にどのようなプロジェクトにするかを考えて、新たに作り上げていくわけです。PBLでは、生徒のみならず教育者もプロジェクトから学び、生徒からフィードバックを受け、常にプロジェクトを改善していきます。参加する生徒が強い関心を持って取り組んでくれることも感じます。それはプロジェクトが身近な周りの環境や実社会のコミュニティと強いつながりがあるからだと思います。白馬のホリディプログラムでは、森や川などの身近な自然環境を活用しました。再エネを学ぶ授業では水力発電機を作り川で実際に発電する授業をしたり、持続可能性を学ぶために森の健康調査を行ったりしました。発表も非常に大事で、白馬の地域の人にプロジェクトの成果を発表することで、生徒たちのやる気が全く変わってくるのです。毎回プロジェクトをやる度に、地域の人たちも巻き込んでいくので、学びのコミュニティがどんどん広がっていると感じています。

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Tomoko:  ありがとう、マークやエリックにホリディプログラムをリードしてもらい、生徒たちの楽しそうな顔を見るのが本当に嬉しいです。
次にSELについてお伺いしたいと思います。クリス、あなたはこの分野の専門家です。冒頭にあったように大学と共同研究をし、最新の脳科学の成果を取り入れていると聞いています。真新しい学校をゼロから構築するというのは誰にとってもクレイジーなアイデアだと思うし私自身も今まさにやってみて本当にクレイジーだと思うのですが、あなたがミレニアムスクールを創設した理由は、思春期の生徒のためにSELをきちんとやる学校を作りたかったからだと理解しています。これについてのあなたの考えを教えてください。

Chris:  脳科学の研究結果からいくつかの知見を共有します。人間の成長の過程で、脳が大きく発達する時期が2度あります。0-5歳と11-16歳の時に脳が最も急成長することがわかっており、この時期は変化が急激なだけに子どもとの接し方が難しい時期でもありますが、同時に最大の可能性を秘めているのです。思春期の変化の特徴は、この時期に脳の社会的な認識の分野が一気に目覚めることです。ちょうどHISに入学してくる時期の子どもは、社会における自分という認識を高めているのです。この時期の生徒は、同年代の仲間への認識が大きく変わると同時に、大人をより正確に理解し大人の考えや動機を察知できるようになります。私たちは、今までの学校がそうであったようにそうした側面から目を背け「さあとりあえず勉強をしっかりやりなさい」と言うこともできますが、子どもの変化に注目して子どもの成長をしっかりサポートすることもできるのです。後者を選んだ場合、二つの利点があります。一つは、生徒のウェルネスを第一に掲げる学校になれること。社会的情動的スキルは持って生まれたものではなく、伸ばせるスキルなのです。二つ目は、生徒のウェルネスに着目する学校では深い学びを創造できるということです。SELとPBLは非常に相性が良く、あらゆる中学や高校に取り入れてもらいたいです。この時期の生徒が抱く「自分は何者なのか」「他者とどのように関わるべきか」「どのように社会に貢献できるのか」という社会性に関する問いへの答えを、生徒たちはプロジェクトを実行する中で見つけて出していくのです。

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Tomoko: ありがとうございます。脳の成長の時期のお話は興味深いですね。私も3人の子供を育てて実感していますが、ティーンエイジャーの扱いが難しい理由がよくわかりました。ジョン、ハイテックハイでSELはどのように扱われますか?

John: SELの専門家のクリスの話に何を付け加えられるか考えましたが、クリスが言うように、PBLとSELは深い関係があります。私たちが提供する学びは全人教育です。
生徒たちのウェルネスに注目するのももちろん大切ですし、生徒が自身のアイデンティティーにフォーカスする機会を提供することが非常に重要だと感じています。現在の教育では、生徒たちが学びの中で、時間をかけて自分自身を振り返り内省する機会が足りず、自分自身を真の意味で成長させることに時間をかけられない状況です。自分の意見に耳を傾けてもらえない学びの中で、生徒に主体的に取り組めというのは無理な話です。SELは自分について知る機会です。それがないと、たくさんの障壁が生まれてしまうと思います。学びに積極的になることができません。
なので、パーソナライゼーション(personalization、個別最適化)は、私たちにとってスタート地点です。パーソナライゼーションとは、講師が生徒を知ることでもあり、生徒同士が知り合うことでもあり、自分自身を見つめることでもあります。その結果、生徒のやる気や、興味、情熱、関係性を引き出すことが出来ます。ハイテックハイで非常に重要視している部分です。

Tomoko:  生徒を成績というデータポイントの一つとしてではなく、一人の人、一個の人格として見て、関係性を築いていくということですね。

John:  HISのような小さい学校は、可能性に溢れています。学校の教育理念・哲学を持つことはとても重要ですが、それをサポートできる構造(ストラクチャー)を構築できているのかを常に問うことはさらに重要です。HISのように全校生徒数が少ない学校なら、生徒が教員と、あるいは生徒同士で、深い関係性を築くことができます。ひいては、生徒は家族ともより良い関係を構築できるでしょうし、保護者にも様々な面で学校に貢献してもらうこともできるでしょう。私たちは常に、理念を実現するためにはどんな構造が必要で、その構造を構築できているかを自分に問い続けるべきなのです。

Tomoko:  そうですね、私たちが今ゼロから学校を作ろうとしていることは、新たな構造を創り上げられるという意味でもまたとない機会ですよね。次に、マークに伺いたいと思います。マーク、HISではSELをどのように組み込むことができると思いますか?

Mark: 私たちがクリスとジョンという最高の先生から学べているのはとてもラッキーなことです。
HISの特徴の一つは多様性でしょう。多様性を前提とした時、お互いの信頼関係を構築することは非常に重要です。それは生徒同士、生徒と教員、そして教員同士とあらゆるレベルで必要となります。PBLや様々な教育活動を通して、また、生徒も教員も同様に学びという旅路にあるのだという認識を持つことによって、お互いの信頼関係を構築していくことになると思います。HISは、生徒にとっても新しい環境ですが、教員にとっても同じように新しい環境です。教員も人間であり失敗しながらも挑戦し成長し続ける姿を見せることが大切だと思います。そういう意味ではアウトドア活動は最適です。大自然の中で様々な活動をすることで、お互いに強い絆が生まれ、教員自身も苦労しながら困難に立ち向かいスキルを習得する姿を見せることで、教員も学び続ける一人の人であることが生徒に伝わるのです。
SELがPBLにどのように結びつくかですが、プロジェクトの最後に発表をすることが重要ですね。生徒の発表に対し、学問的な評価をするだけでなく、取り組んだ生徒の感情面にも目を向け、プロジェクトを通じて生徒がどのように成長したかを見ることが鍵だと思います。クリスがPBLとSELは相性が良いと言ったのはそういうことだと思います。また、毎日のチェックインやアドバイザリーグループなど、HISでもサマースクールなどで既に取り入れていますが、そうした取組をしっかりやっていきたいですね。

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Tomoko:  ありがとう、マーク。 さて、ハイテックハイやミレニアムスクールとHISの大きな違いの1つは、寮があることだと思います。 マイケル、あなたはスイスの寮制学校で教えていたかと思います。寮の環境でSELはどのような役割を果たすと思いますか?

Michael:  ケン・ロビンソン卿は、「我々は学校で生徒の脳のみに、しかもその片側のみに注目しがちだ」と言いました。20〜30年前の教育と比較しても、現代の生徒が得られる経験の幅が狭まっている感じがします。SNSが台頭し、メッセージでは伝えられても対面で気持ちを伝えるのが苦手な生徒がいます。そうした現代の生徒が、自分は何者であるかを探究し発見するためには、SELやSEEL(Social Emotional Ethical Learning、社会的・情動的・倫理的学習)が非常に重要だと思います。寮のある学校では、生徒が家族よりも長い時間を私たちと過ごすことになるわけですから、なおさらです。自ら体験し、多様な状況に身を置くことで学びが深まります。PBLで様々な人と協働し、アウトドアで様々な体験をしながら、自分がどのような人間なのかを発見していくのです。マークが触れたように、アウトドア活動は人として成長するのに非常に重要な機会です。私は様々な生徒と出会ってきましたが、何年も経ってから「あのアウトドア体験が自分を変えた」と言われることも多いです。例えば大自然の中で大雨に降られて悲惨な思いをする体験を生徒と教員が共にすることで、生徒は教員も人間だということを実感し、信頼できる同等の人間だと思えるのです。教員が上ではなく、同等だと思って初めて信頼関係が築けると思います。信頼をおける大人にのみ、生徒は悩みを打ち明けたり支援を求めたりするものです。意図的にしっかりと生徒との信頼関係を構築することが非常に重要だと思います。

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Tomoko:  ありがとうございます。確かに、教員や大人が、勇気を出して自らの弱さや脆さをさらけだすことも、信頼関係の構築には重要ですね。さて、マークやマイケルも既に触れていますが、HISのもう一つの特徴はアウトドア活動だ思います。HIS側のパネリストのZoomの背景からもおわかりになる通り、HIS関係者はアウトドア好きが多いです。ここで、長年アウトドア活動に熱心に取り組んできたエリックにお聞きしたいです。 HISではアウトドア活動はどのような役割を果たすと思いますか? またそれがなぜ重要だと思いますか?

Eric: みなさんの対話の中で、Authentic(真正な)という言葉が何度も出てきていますが、大自然以上にAuthenticになれる環境はありません。また、COP26でも示されたように、自然と共存することは、私たち人類とその社会が存続していくために不可欠なのです。
自然の中での成長の機会について考えてみました。大自然の中に自分を置くと、感情が動きます。感情と自然が共鳴し、安心感、平静さ、調和などを感じられます。態度も変わります。仲間や自然に対する共感が湧き、それが行動にも反映されます。また、自然の中にいると、驚くほどの意思決定や問題解決の機会があります。そこに大きな価値があります。健康・ウェルビーイング(well-being)という意味でも、私たち人間が本来属する環境である大自然の中に身を置くことは、心理的、そして感情的なウェルビーイングのために非常に重要です。

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Tomoko:  本当に、体が健康でいるためには心理的および感情的に健康であることが大切ですし、大自然の中に身を置くことは精神状態を改善するのに最適ですよね。3,000m級の山々に囲まれ一歩外に出れば大自然に触れられる白馬という環境にいることはとても幸運なことだと思います。このような環境を活用できる専門家と一緒に学校を設立できることをとても嬉しく思います。

次に、このような従来と異なる方法で教える先進的な学校に子どもたちを送ることに不安を感じる方々もいらっしゃると思います。私自身も、自分の子どもをHISに送る予定の親として、子どもが従来の学校に通っていた場合と同じ内容を学ぶことができるのか不安に思うことは理解ができます。ジョンとクリス、ご自身の学校の生徒が成長する姿を見て、そのような方々に何か伝えたいことはありますか?

John: 大事な問題ですね。私自身は自分の学校生活を振り返った時、「伝統的」な学校に通っていたので、「課題や作業をこなす」体験が主でした。学校生活の中で私が上達したのは、「スクーリング(学校制度の習得)」であり、「学び ”Learning”」ではなかったと感じています。学校という制度の中でうまく課題や作業をこなすことを学び、複雑な指示に従うことが得意になり、良い成績をもらいました。でも、本来はそこがゴールではなかったはずです。私たちが目指すべきは「学び」なのです。私がいるハイテックハイやクリスが設立したミレニアムスクール、そしてHISなどの、先進的な学校が目標としているのは、「生涯学び続ける学習者を育てること」です。私たちは、教室の中で完結する学びではなく、社会に通じる学びを提供します。また、クリスが先ほど触れたように、生徒が「自立すると同時に適切に相互依存しながら」学ぶことが大切で、生徒は、他者と協働し関係性を築きながら学んでいくのです。こうした学びの質は、テストで簡単に測ることができません。生徒は学び方を学び、情熱を持って何かに取り組むことを学んでいくのです。こうした学び方を受け入れることは、生徒にとっては難しくないのですが、親にとっては難しいものです。自分が受けた教育・体験してきた学校制度と全く違うので、その効果に疑いを抱きがちです。そうした保護者には、生徒が16歳、17歳、18歳、19歳でどうなるかではなく、30歳の時にどうなっていてほしいか、そこにたどり着くためには何をするべきかを見据えて考えて欲しいと伝えています。

Chris: そうですね、子どもに人としてどう成長してほしいのかという長期的な視野を持って教育を見つめ直すことは本当に大切だと思います。私は親としての立場からもこの問いに答えたいと思います。人は誰でも変化に対し恐れを抱きます。しかし、もしこうした新しいタイプの教育が成功すれば、我々の子どもたちは我々よりもずっと多くの可能性を持てるのではないでしょうか。我々の多くは伝統的な学校制度で育ち、一定程度の成功を収めながら、同時に一定の犠牲を払ってきました。私自身の経験を振り返ると、思春期の頃に自分の感情の制御の仕方や対人関係のスキルを学ぶ機会はなく、30歳、35歳になって痛い目に遭いながらようやくそうした能力を学べたと感じています。新しいタイプの教育を提供することで、子どもたちに私たちにはなかった機会を与え、彼らの大きな可能性を花開かせることができると感じています。こうした先進的な学校で学ぶ生徒たちは、その後に伝統的な学校に進む場合、学校制度の「ゲーム」に順応するスキルを学ぶのに苦労することもありますが、自分が何者かをしっかりと理解できています。ここは強調したいところですが、こうした生徒は、どんな環境にあっても、ただ与えられたことをこなすのではなく、自分が何者かを知っており、好きなことに対する情熱と社会に貢献したいという強い意志を持って人生を歩みます。それは彼らの人生を通じて入試や就職の場面でも彼らの強みとなりますし、何より私たちの社会はそうした人材を必要としているのです。

Tomoko:  その通りですね。私たちが作ってきたこのあまり持続可能でない世界の未来を担う子どもたちに、勇気を持って新しい教育を提供することが必要だと感じます。新しい方法はリスクもあるかもしれませんが、従来の方法に固執するリスクの方がずっと大きいように私には感じられます。

Michael:  空腹でない生徒に無理やり食べ物を食べさせるのは難しいですが、お腹が空いた子どもに食事を与えればどんどん食べ吸収し成長します。同様に、生徒が情熱を感じるトピックを学ぶ時には、生徒自身が知識、学びへの「渇望」を感じてどんどん吸収するものです。学習は自然とついてくるのです。PBLでは、それがごく自然に起こるのです。

Tomoko:  ありがとうございます。最後に、HISが現代の社会でどんな役割を果たして行くことができるのか、皆さんにお伺いできますか。まず、エリックからお願いします。

Eric: “Future Oriented people” 未来をどうしていくか考えることができる人を育てる。そこが重要だと感じます。HISは、レジリエンスがあり(resilient)、未来を見つめ(future minded)、より良い社会を創る人材を育てる大きな可能性があると感じています。

Mark:  HISには素晴らしい未来があります。学びのハブであり素晴らしい実践の場所であり世界に知られる学校になってほしいと思っていますが、最も重要なのは、全ての中心に生徒がいること、生徒が力強く成長し前進し続ける学校になることだと思います。そして、HISを巣立った生徒が、数十年後も成長し続けていることを願います。それこそが、学校の価値を決めるものだと思うのです。

Michael: 高校3年で生徒が卒業する時に、その生徒の最高の姿で巣立ってほしいです。自分がどんな人間で何に情熱を持っているのかを理解し、PBLやSELを通じて自らの可能性を最大限に発揮した人であってほしいです。また、柔軟さを持ってほしいですね。これから変わりゆく世界に対応できる人、そして良い変化を創り出せる人となってほしいです。

Tomoko:  我々自身も「学び続ける学校」であることにコミットしたいですね。最後にクリスとジョン、お願いします。

Chris:  世界は新しい形の学校を必要としています。伝統的なやり方を続けてきた学校が変化するのは本当に困難です。朋子さんとチームが目指しているように、脳科学などの新しい知見を活かして実践に結びつける学校の設立が求められています。伝統という重荷に囚われない利点は大きいと思います。また、寮があることも大切だと思います。思春期の子どもは、友達とのかかわりなどを通して自分を見出しますし、親と適切な距離を置くことによって大きく成長するものです。HISの可能性について、大いに期待しています。

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John: クリスの言った通り、世界には新しい学校が必要だと思います。既存の学校を変えることは本当に難しいからです。ハイテックハイのようになりたいと、多くの方が本校を訪れてくれますが、いざ自分の学校にアイディアを持ち帰り実践しようとすると、様々な障壁が立ちはだかるという話をよく聞きます。そういう意味で新設校は可能性がとても高いですし、さらに、朋子さんのアプローチが非常に素晴らしいと思います。地元のコミュニティーを学びに結び付けようとしているだけでなく、世界の教育全体を見渡して、どんな潮流が出現しているかをリサーチし、その中から意味があり公正で注目や人気を集めている実践を意図的に選んで取り入れようとしているからです。そうした手法をブライト・スポッティング(Bright Spotting)と呼びます。既に存在する素晴らしい実践から学ぼうとすることです。我々はついつい正反対の行為、つまり、うまくいっていないことに注目してどこを直したら良いのかばかり考えがちですが、ブライト・スポッティングはとても有効なのです。私自身もクリスやここにいるパネリストから多くを学びましたし、このような形で未来を見据えた教育者を集め新たな実践を目指すことは本当に素晴らしいと思います。HISを訪問させて頂く日をとても楽しみにしています。

Tomoko:  本当に、是非白馬にお越し頂きたいです。ジョンとクリスにはオンラインで教員研修をして頂いており、実践者からしか学べない非常に深い内容を毎回学ばせて頂いて、心から感謝しています。お二人に白馬にお越し頂き対面でワークショップをして頂く日を楽しみに待っています。今日は、パネリストとしてご参加頂いた皆さん、視聴者の皆様、本当にありがとうございました。

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後書き: トークライブ当日は、白馬のバイリンガル最強ママ友数人にお願いして、同時字幕通訳を提供して頂きました。この翻訳はそれを手直ししたものです。同時字幕通訳という明らかな無理ゲーを快く引き受けて下さり、日本語字幕を必要とする方に提供して下さった、まゆみさん、ひろかさん、なつこさん、本当にありがとうございました。白馬の底力を感じるボランティアの皆様に心から感謝です。そして、Webinar初心者の私をサポートし当日素晴らしい運営をして下さった堀井章子先生にも心から感謝致します。

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