メイク

私は、メイクがあまり好きではない。
絹豆腐のような、ゆで卵のような、すっとした、ふわっとした、きめ細やかな、すっぴんの肌の上に、メイクをすると心地があまり良くないのだ。
自分がメイクするのも、人がメイクしているのも、あまり好きではない。
メイクは、その人の努力だと思う。
メイクをするのには、理由がある。

マナーとして。かわいくなりたいから。彼氏が欲しいから。ただメイクをしたいから。

他人が頑張っているのに、自分磨きをしているのに、好きではないというのは大変失礼だということは分かっている。それに、いつもすっぴんで美容に対して何の努力もしない私が言えることではない。「メイクができるようになってから言え」という話かもしれない。

ただ私は、すっぴんというのは、どんな人であろうと、綺麗なのに、なんでメイクをするんだろうと思ってしまうのである。

中学2年生の時、友達のAちゃんが、がっつりメイクをして、待ち合わせ場所にやってきた。
Aちゃんと何年間も、学校が同じで、彼女のすっぴんに慣れていた私は、とてもショックを受けた。最初は大人びててすごいなあと感心していた。

しかし、Aちゃんのメイクした顔を見て、話していると、アイシャドウの粉が、マスカラのインクが、ペンシルタイプのアイライナーが目の周りに付いているのがわかった。

その時、私は、パステルという画材で絵を描いた時を思い出した。
パステルは、クーピー、クレパス、クレヨン、絵の具等に比べて、画材が紙に乗りにくい。チョークのような感じ。描くと、多くの粉が、弾き飛ばされ、周りに散ってしまう。
少し力を入れないと、はっきりとした色が乗せられない。紙の上でパステルを滑らせると、ザーッと紙を削っている、傷つけているような感覚がする。
後から描いた絵を見ると、パステルを紙が吸い込むように馴染んでいるというより、かろうじて粉が乗っかっている状態になる。
勿論、パステルが出せる、輪郭をぼかした、ほわっとした仕上がりになる所が良い点なのだが、私は描いている時のザーッという感覚と、粉が沢山落ちてしまう所、粉が取れてしまいそうな所等があまり好きにはなれなかった。

Aちゃんのメイクを見た時、「元々、その白くて、柔らかそうで、綺麗な肌に、なんで粉を乗せちゃったんだろう…粉が、そこにあるのが分かって、パステルで描いた絵みたい。すっぴんの方が良かったな」と思ってしまった。

「Aちゃんはメイクをしてて、大人だね」
と私が言うと、「メイクをするのは社会の常識なんだよ、ぽんずちゃん」と返された。
元々、他人と比べる癖のある私は、
「そうか、じゃあメイクをしてない人は、私を含め、社会の常識を守っていないということか」と思った。しかし、Aちゃんのメイクから、メイクそのものにあまり良いイメージを持てなかった私は、その社会の常識に則ろうという気にもなれなかった。

それまでは、メイクについて、特に何も思っていなかったのだが、親しいAちゃんのことをきっかけに、以降、電車に乗っている知らない女性のメイクにも目が行くようになってしまった。

「この人のすっぴんは、どういう綺麗さを持っているんだろう。」
「メイクをしている人にドキッとして惹かれてしまうとは、一体どういうことなのだろうか。」

そういうことを思いながら、私は通勤をしているのである。

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